第6話 プリンを作ろう♪
マルに約束したスイーツは三品。どれも材料さえあれば作るのは難しくない。
どうせなら最初は豪華にしようかな。
「殿下がお作りになるんですか?」
「別にお菓子くらい作っておかしくないと思いますけど。あ、マルコは今日、手を出しちゃだめだよ」
「はいはい、ルーカス様」
俺が手ずから調理すると知ってシアーズの料理人たちは目を白黒させて驚いていたが、暇な昼間の時間帯なので快く調理場を貸してくれた。
う。苦手な竈タイプだ。ストーブがあれば楽なんだけどな。あとで火の調整だけはマルコにして貰おうっと。
今日、用意した主な材料は、卵、牛乳、砂糖とシンプルに三つだけ。
飾りつけに使う生クリームと果物も分けて貰った。さすが山岳連合の交通の要衝であるシアーズ、食料は豊富だ。白い砂糖もあった。
これはもちろんプリンの材料だ。作るのはプリン・ア・ラ・モードだ。
前世では子供の頃、デパートのレストランとかで食べたっけな。懐かしいな。
まず、牛乳を弱火にかける。温めすぎると膜が張るから注意だ。膜が張ったらそれはもう熱すぎるって事だ。
その間にボールに卵を割って、砂糖を溶いておく。ここでのポイントは混ぜすぎない事だ。泡が立たないように卵液をさっくりと混ぜ合わせる。
牛乳が人肌より少し温かい程度になったら火から下ろして、ほんの少しずつ卵液に加える。
ここでも混ぜすぎない事。
そして、まんべんなく混ざったら濾し器がないので仕方なく布で濾す。
「ルーカス様、布って、これくらいの荒さでいいっすか?」
「そうですね。あまり細かすぎても濾すのに時間がかかりますしね」
マルコが料理人に頼んで布を用意してくれた。
面倒くさければ別に濾さなくてもプリンにはなるが、滑らかさが違うからな。手を抜いていい事なんて何もない。
続いてカラメル作りだ。これも作業としては難しくない。水に溶かした砂糖を火にかけるだけだ。
難しいのはタイミングだな。今まで液体だと思ってたら固まるのは一瞬なので、絶対油断したり、鍋から目を離したりしない。
少しずつ鍋を揺する。中の砂糖水が濃い茶色になったら、すかさず火から外してお湯を回し入れる。
じゅわっと湯気が立ち上り、熱さに思わず顔を背ける。
それにもめげず、なおも鍋を揺すって……うんうん。いい感じになってきたんじゃないかな?
プリン型も蒸し器もないので、それらしきカップを借りて中にカラメルを入れた後、卵液をそっと流し込む。
オーブンで焼いたら焼きプリンだが、今日はアラモードを作るつもりなので鍋にお湯を張って湯煎にしよう。
アレク、ルッツ、マルの三人は俺がマルコの手を借りながらも、テキパキと動いているのを面白そうに見守っていた。
「意外とルークは器用なんだな?」
「そうっすね。普段はそうでもないのに、こう言う時だけは生き生きしてるんすよね」
こらそこ、聞こえてますよ!
鍋を火にかけながらジロリと横目で睨みつけると、三人はハハッと引きつった笑いを浮かべた。
料理人以外で料理ができる男子はこの世界でも珍しいのだ。アレクとルッツは野戦料理くらいなら作れるようだが。
前世と言い、この世界と言い、なんで料理は女性の仕事って事になってんだろうね?
コックは男のくせにさ。
俺は男が料理したって構わないと思うけど。
適材適所ってあるだろ。それって性別関係ないんじゃないの。
やりたい人がやればいいんだよ。
マルはお菓子作りの間、とにかく煩かった。
「ルーク、あれはなんだ……それに、これは何に使うんだ?」
俺にまとわりついて次々に質問してくる。
やりたそうだったから、生クリームを泡立てるのを代わってやった。
「手を止めたら滑らかなクリームにならないですよ、マル!」
「くっ……お菓子作りもなかなか奥が深いんだな……」
ハァハァと息を上げながらも、飽き性なマルにしては珍しく頑張ってずっと混ぜていた。
意外と才能あるかも。
電動泡だて器のない世界なので、生クリームは頑張って自分たちで泡立てなければならない。
マルはまだまだやれると言い張ったが、腕の力がなくなってきたようだったので途中からはアレクとルッツに代わって貰った。
さすが腕力はんぱないから、こいつらがやると早いな。
「ありがと、アレク、ルッツ」
「これくらいお安い御用っすよ」
ルッツもうんうんと頷いている。
蓋をした鍋からはシュンシュンと大きな湯気が上がっている。
甘ったるく調理場を満たす砂糖のいい匂いに、シアーズの料理人たちも興味津々だ。こう言うところは国が違っても変わらない。
俺は懐かしき故郷のコックたちを思い出して、顔をほころばした。
そろそろかなと蓋を開けて、プリンのひとつに竹串を刺す。うん。見た目も滑らかだし、いいんじゃないだろうか。
俺は出来上がったプリンをマルコに鍋から取り出して貰って、スプーンと一緒にアレクとルッツに渡した。
「はい。冷ますと食感が違ってそれも美味しいけど、あったかい内に食べるのもいいもんだよ」
「ルーク、俺の、俺の分は!!」
この世の終わりと言わんばかりにマルが金切声で、俺を後ろから羽交い絞めにしてくる。ほうほうの体でその腕から逃げ出して、まぁまぁと宥める。
あー、苦しかった。
「マルのは特別仕立てですよ。もう少し待ってください」
「先にちょっとくらい食べさせてくれてもいいんじゃないか……」
ブツブツと口の中で呟きながら、マルは暗い目でアレクたちを睨みつけた。
ついでに家臣に食べさせるのと、お礼の品が一緒ではいかんだろう。
とは言え挙動がおかしいので、マルのプリンは少しでも早く食べられるように流水で冷やす事にした。
なんとかマルは落ち着きを取り戻したが、恨みがましそうな目でジィーッとアレクとルッツを見上げるものだから、彼らも食べづらそうだった。
遠慮がちにスプーンを口に運んでいる。
「お、甘い。噂には聞いてましたが、これがルーカス様の考案された、滑らかプティングですか」
「僕が考えたわけじゃなくて、異国のお菓子だってば。どう? ルッツも美味しい?」
ルッツは大きな手に器とスプーンをちょこんと持って頷いた。
大柄な彼らにはいささか量が少なかったようで、プリンは二、三口で口の中に消えていった。
「ル〜ク〜? おい、俺のは? どうなっているんだ?」
マルの様子が更に怪しくなってきた。
仕方ないから、先にアラモードの用意をしようかな。普通はプリンを置いてから周りを飾るんだけどな。
果物を飾る用なのか、模様入りの豪華なガラスの器があったので使わせて貰う。
飾り切りした色とりどりの果物を器に盛りつけて、その隙間に、泡立てた生クリームを絞り出して飾りつけていく。見た目もご馳走って言うだろ。
プリンはまだ少し温かいような気がしたが、これ以上はマルの我慢が持ちそうにない。
最後に、真ん中にそーっと器から取り出したプリンを置く。カラメルがトロっと黄色いプリンの縁を流れ落ちた。
よし、これぞプリン・ア・ラ・モードだ! 完璧だ!
「おお!」
できあがったスイーツを見て、マルはただでさえも大きな瞳を零れ落ちんばかりにまん丸くしていた。




