第2話 キラキラ王子再登場
母様やオレイン先生とのんびり話しをしていたら、先頭付近にいた一人の騎士が俺に近づいて来た。
分隊長に指示されて報告に来たようだ。俺の横に馬を寄せてくる。
「ルーカス殿下、そろそろ次の街が見えてくるとの事です。今日はそこで宿を取る予定です」
表面上は丁寧に俺にも敬意を払って接してくる。
こいつの名前はセイン・マルクスタイン・ザイデル。
俺命名、キラキラ王子だ。
俺自身が王子なのに何を言ってるんだと思うだろうが、金髪碧眼の爽やかイケメンで白い馬に乗って白い歯を輝かせている時点で、いわゆる世の女性が夢見る王子様にしか見えない。
城を出る時に泣かせた女性が何人もいたとかいないとか。
顔立ちは彫りが深くて精悍。地球で言ったらドイツ人ぽいイケメンって言ったら分かりやすいだろうか。
やたら背が高くて筋肉質な身体つきをしている。と言うか騎士団の奴らは全員、ごつい。
年は今年で十八歳だったと思う。
十五歳が成人のこの世界では、そろそろ後輩の指導とかも任され始める、社会人三~四年目の若手社員くらいの位置づけだろうか。
「了解しました。やっと街に着くんですね」
「殿下もお疲れかと思いますが、もう少しご辛抱願います」
「僕は大丈夫です」
頷きを返すと、陽の光を受けてセインの髪が眩しく反射するのが目に入った。金髪って言っても色々あると思うが、こいつのは本当にキラキラと輝いている。
それはもうキッラキラのサッラサラだ。
騎士様ってだけでも食傷気味なのに、勘弁して欲しい。こんな奴らに囲まれてるとため息しか出てこない。
セインは子供が男ばっかりのザイデル騎士団長のとこの次男坊だ。
ちなみにザイデル団長は、この世界ではそろそろ初老と呼ばれ始める四十路のナイスミドルだ。若かりし頃は俺の剣の師匠である、元傭兵団長のヒューゴ先生と並んで国の双璧と呼ばれていたとか。
そうそう、セインの奴、本当に白馬に乗ってたんですよ! テンプレを外さない奴だなぁ。
俺は実際、こいつの事を気に入っていないが、それはおくびにも出さない。
全てのイケメンは俺の敵だ。兄アルトゥールは別だが。
やるんだったらやってやるぞ、おい、と心の中ではセインをボコにしながら、顔にはニッコリと笑みを浮かべる。
「次はヴィースですか。この辺りは随分、葡萄の栽培が盛んなんですってね」
俺の勉学の教師、エラムに叩き込まれた地図を頭の中に思い浮かべながら、この地方の特産を思い出す。
この辺りは地球で言うならワイナリーが並ぶ、葡萄農家の多い地方だ。山の急斜面と、夏と冬の寒暖の差が旨いワインを作るとかなんとか。
これ以上、寒くなると実をつけないので首都の方では栽培は不可能らしい。
俺は表向きはセインを始め、騎士団の奴らに穏やかに接していたが、内心では警戒を怠っていなかった。城に二つある派閥で言うと、騎士団は兄アルトゥール寄りの第一王子派なので、実は俺とは折り合いが悪かった。
分隊の中でも隊長は中立のようだが、それ以外の九人は以前から俺のことを嫌っている事を隠そうともしなかった血の気の多い奴らだ。
セインも第一王子派のはずなので心の中では何を考えているか分からないが、そつがない奴なので俺が振った話題に一応は、まともに答えてくる。
「先発隊が夕食に上等な白ワインを頼んでくれていると思いますよ。今から楽しみですね」
「白ワインですか……」
俺は浮かない顔でオウム返しに言葉を返した。
この世界では子供は飲酒不可なんて法律はなくて、俺の食事にも水で割ったワインが普通に出される。
でもなんていうか、ほとんど水ばかりでジュースと思おうにも味がないし、なんだか酸っぱい。酢の水割りを飲んでいる気分だ。
前世でも俺はワインが苦手だったのだ。
あぁー、たまにはキンキンに冷えた生ビールが飲みたいなぁ。ハイボールでもいい。ゴロゴロと氷を入れたジョッキに、安物のウィスキーを多めに注いで、強炭酸で割って飲みたいぜ!
炭酸は自然にも存在しているはずだから、ハイボールならこの世界でも叶わない夢ではないだろう。
鉱山の多いこの国の事だ、どこかにはありそうだ。
飲酒できる大人になるまでには作りたいもんだな。
「ルーカス殿下は白ワインが苦手でいらっしゃいますか」
隣のイケメンはお子様ですねと言うように微笑んでいる。
後でその話題で俺の悪口を言うんでしょう?
いいからお前、どっか行けよと思うが、いけ好かない奴に限っていなくなってくれないものだ。
ましてやセインたちは俺の、俺や母の護衛なのだ。
相性の悪さはともかく、仕事には生真面目なセインが隊長からの許可なく俺の側を離れるわけがない。
それにこの隊、なぜかセインが副隊長だからな。
絶望しかない。
隊員を選定した父を呪いたくなってくる。
実際は父だけで選定したわけではないんだが。
俺がむすっとして何も答えなくなったので、そのまま会話は途切れた。
馬に乗って前を向くセインがどんな顔をしているのかは良く見えなかった。
自国内での移動に何の支障もあるはずがなく、俺たちはその日も順調に街に到着した。
うーん、と両腕を上げて背筋を伸ばす。
俺は馬に乗ったりして気分転換できるが、馬車に乗りっぱなしの母様たちは疲労が溜まっているだろう。
それでも馬丁が階段をつけて扉を開けると、母様はしっかりした足取りで微笑みながら馬車を降りてきた。




