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第5話 チーム対抗、宝探しゲーム!

 

 お菓子がなくなったら現金なもので、子供たちは波が引くようにいなくなってしまった。必要のなくなった籠を屋台のおっさんに返して、俺たちはその場を後にした。

 プラプラと通りを歩いていると何やら老婆に声をかけられる。そこはテントもなく、ただ木の台を置いただけの場所だった。何かを売っている様子はない。


「可愛い坊ちゃんたち、宝探しゲームはいかがかね?」


 街の各所に隠されたヒントを元にゴールを目指す宝探しゲームをやっていて、ここは受付のひとつらしい。日本でもあったな、そう言うイベント。

 参加する人なんかいるんだろうかと思ってたが、意外と大人でも友人同士でキャッキャと謎解きを楽しんでいるようだった。


 俺? 俺は聞かないでくれよ。

 いや、確かに少なくはあったが、友人がいなかったわけじゃない。社会人になってから遊ぶ時間がなかなか取れなかっただけだ。


「数人で力を合わせて解いてもいいですし、クリア時間を競っても楽しいですよ」


 意外とこのおばあちゃん、商売上手だな。勝負と聞いて、皆の瞳の色がキラリと変わった。

 意外とこの子たち、負けず嫌いなんだからな。じゃなきゃ、ポロの試合であんなに必死にならないか。

 やっぱり男の子なんだなー。


「ハッハッハッ、ここはひとつ競争といきましょうか、師匠」


 マルが乗り気になれば、元々、腰ぎんちゃくだったジョエルとモリスに異論あるわけがない。

 俺だってマルたちと遊びに来たんだから、皆がやりたい事をするのが一番だ。


「この僕に頭脳勝負ですか、面白い冗談ですね、マルティス」

「フフ。こう言うのは閃き。頭脳だけでなくセンスがものを言うのですよ、師匠」


 俺たちは無駄に顔を突き合わせて火花を散らした。

 それぞれ参加費を払って羊皮紙を受け取る。ただの紙でないところが雰囲気が出てていいな。

 何年か同じものを使い回しているのか、羊皮紙はところどころ手垢で黒ずみ、端が擦り切れていた。それが反対に本当の宝のありかの書かれた暗号みたいでワクワクする。

 羊皮紙にはゲームのルールと、最初のナゾナゾが書かれていた。


「ひとまず広場に戻りますか」

「そうですね」


 マルに提案され、またぞろぞろと皆で歩いて移動し始める。

 シアーズは城の周りの旧市街と、中心部である新市街に分かれていて、俺たちが今いるのは新市街の方だ。


 新市街は中心に、エントール神を祀る大聖堂と大広場がある。以前、ルッツと行った噴水のある広場だ。

 そこから東西南北に大通りが八本伸びていて、それぞれの通りの間を一街区、二街区と数える。全部で街が八等分されているのだ。

 アイリーンの祖父、バルド子爵は二街区の区画長だ。城に近いところから数字が割り振られているので、かなりの権力を持っている事が伺える。


 広場に近づくにつれどんどん人が多くなり、ノロノロとしか先に進めなくなった。

 道行く大人たちに埋もれがちな俺たちを、アレクとユーリが前後に展開して誘導してくれる。


「凄い人ですね」

「国外からもたくさんの人が訪れていますからね」


 マルが言う通り、服装や容姿など見慣れない格好の人も多い。

 こんなお祭りの日のみならず、シアーズ公国は広く国交を開いているので普段から外国人の姿は多い。


 街には外壁がなく、城も豪奢な造りで防御力のかけらもないシアーズは、攻め込まれればひとたまりもない。

 いや、山岳連合はシアーズまで侵攻されては終わりなのだ。ここから先は険しい山々にしがみつくように生活している国しかない。

 だから連合軍はシアーズではなく、ひとつ手前のレキストに常駐している。


 そして山岳連合の方針は武力行使ではなく、政治外交だ。

 美しさの粋を集めたような城も、この華々しい祭りも、全てデモンストレーション。

 シアーズが繁栄を誇っているのはひとえに山岳連合の国々を繋ぐ流通網のためだけであり、攻め落としても何の旨みもないと示しているのだ。


 各地を旅する商人や吟遊詩人たちは伝える。険しきリスティア山脈の中腹に、夢のように美しい国があると。

 その宝石のような国を手中に収めようなどと夢を見てしまった奴らは思い知らされる。彼らこそがシアーズの尖兵であり、スパイなのだと。


 そんなしたたかな国に住むのは、表面上は穏やかに見えても一癖も二癖もある人ばかりだ。

 歌を愛し、芸術に情熱を傾けながら、心の奥底では誰もが負けず嫌いなのだ。


「ここからならちょうど、平等にタイムが競えるでしょうね!」


 かくして俺たちは公平を期すべく、大広場の中心である噴水の前まで移動した。

 宝探しゲームは全部で八人まで参加できるようになっている。つまり一街区から八街区まで、それぞれ違う謎解きが仕掛けられているのだ。


 俺たちは被らないように一、三、五、七の番号が書かれた羊皮紙を、受付のおばあちゃんから受け取っていた。

 奇数なのはあれだ。なんか二街区って行きづらいじゃないか。明日、訪ねる予定なのに、付近をウロウロして家族の人とかに鉢合わせしたらちょっと恥ずかしいよね。


 謎を全て解くとゴールの場所も分かるようになっているらしい。ゴールはこの広場のどこかのような気がしないでもないけど。

 ただ単にゴールに到着しても謎を解いてなければ無意味なのでその点は問題ない。


 実は難易度も一~三まであるらしいのだが、残念ながらあまり時間がないので今回は一番簡単な問題だ。

 普通の子なら三~四十分もあれば街を回って謎を解けると言う話だった。

 今から遊んでも、帰宅時間にもちょうどいい。


「師匠、先にゴールでお待ちしておりますね」

「フン。こんな問題、瞬時に解いてあげますよ」


 出発前になっても俺たちは楽しく角を突き合わせていた。

 誰が御つきについて行くかと言うのは少し揉めた。アインスガー家の執事さんは一人しかいないので、アレクかユーリのどちらかをモリスにつける必要があったからだ。

 まさか貴族の子息に街を一人歩きさせるわけにも行かない。


 二人はどちらも俺から離れたがらなかったが、恐らく理由は違う。アレクは職務に真面目なだけだが、ユーリの動機はいつものやつだ。多分。

 結局、モリスが先ほどの弓技を見てユーリに気後れしてしまっていたので、アレクがついて行く事になった。アレクならポロの練習で交流があるからな。

 仏頂面のアレクにコソッと囁く。


「ちゃんと面倒見てあげてよ。怪我もしているのに可哀想でしょ。僕の方はユーリ一人で大丈夫だって」


 弓がなくたって、この街でユーリに敵うような人は思いつかない。騎士団の中では剣技は振るわないと言うユーリだが、きっとシアーズでは上から数えた方が早い。

 そして上位はマーナガルムから俺についてきている人々で占められるのだろう。最近、ちょっと故郷の人々が異常なほど戦いに特化しているのを思い知らされている。


 ひいひいおじいちゃんは、なにを考えてマーナガルムをこんな戦闘国家にしたんだろうね。

 俺だって才能ないないと言われ続けて自信をなくしていたが、それはマーナガルムの基準で、実はシアーズの同い年の子と比べるとそこそこの腕前なのだとマルたちと練習していて気づいた。

 父様と、ヒューゴ先生とエラムも、子供は褒めて伸ばした方がいいと思いますよ!

 俺を褒めてくれるのなんて母様くらいだ。


「くっそ、ユーリ。一つ貸しだからな」


 後輩に小さく毒づいて、アレクはモリスの元に向かった。その背中を飄々と、ユーリは満足気に見送る。

 案外、面倒見のいいアレクの事なので、モリスの前ではコロッと表情を変えてにこやかに接していた。


「それでは行きましょうか、モリス様」

「モリス様とか……よろしくお願いしますね、アレクセイさん」

「こちらこそ。私の事はアレクでいいですよ」


 照れるモリスを優しく誘導して三街区の方に向かっている。俺に初めて会った時と態度が違うのでちょっとむかつく。

 この間の試合でポロにすっかりハマってしまったらしきモリスは、怪我が治ったら今後も練習を続けると言っている。

 プロ選手ほどに馬捌きが上手いアレクを、モリスはヒーローのようにキラキラした目で見ていた。

 楽し気に練習の事や、試合について話す声が遠ざかって行く。

 さて、そろそろ俺たちも出発するかな。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ルーカスが受け取った羊皮紙のナゾナゾ1問目です。

ぜひ、次話を読む前にルーカスと一緒にお考えください♪

(物語の中では数行ですぐに答えが出てきてしまうので、先に記載いたします)


ルール:次のナゾナゾを設置しているお店を探します。

()も明けやらぬ暁の

 雄鶏が時を刻む頃

 ()は一番に火を()べて

 ()の食卓に朝を呼ぶ』


それでは、次話をどうぞ!

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