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七番目の勇者  作者: 芝ッフル
二章 荒れる戦場
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第十八話 終戦

一回データが半分消えて凄く萎えたんですが、何とか書き上がりました。投稿です。

 

 再び開かれた戦前。今回の戦いも、都市を囲む魔王軍が攻城戦を行う形で始まった。

 前回と違うことがあるとすれば、打って出たエルカと軍を無視し、そのまま攻撃を続けたことだろう。


「、、、、、、、、、、、、ぬ、、、、、、!?」


 ただ、無視されたのは勇者と兵のみ。勇者の周りに隠れていた死神は、あらかじめ用意された多数の兵で囲まれた。

 スパスパと、プリンのように魔族の兵が切り刻まれる中、魔族の指揮官の怒声が響く。


「動揺するな!あの大技はあまり使えん!囲んで攻撃を途切れさせるな!」


 ゼルブは死神という大駒を押さえ付け、その間に強引に大都市メルブールを攻め落とそうとしたのだ。


「よく来たな。勇者よ」

「ゼルブ、、、殺す!!」


 当然、無視されたエルカは自由に動くことができる。

 が、エルカの戦法は手数で相手を圧倒的というもの。大型種の魔族相手には効果的とは言えず、エルカが戦場でいかに大立ち回りしたとしても、魔王軍にとって大したダメージが与えられることはない。

 では、どうすれば良いか。そう、無視されているならば、軍のトップであるゼルブを直接討ち取りに行けばいいのだ。


「『自動回復(オートヒール)』。加速(アップテンポ)50(フィフティ)!!」


 エルカはゼルブとの距離を一気に詰め、切り裂きつつ走り抜けた。

 ゼルブの太ももから、血が吹き出る。エルカから与えられた傷は、先日の戦闘よりも鋭く、そして深かった。


「ほう?先日よりも速、、、」


 話しかけるゼルブを無視し、エルカは攻撃を続ける。


(、、、敵に時間は与えぬと。いや、そも回復が追い付かぬのか)


 エルカの剣戟を新しい戦斧で防ぎながら、ゼルブは思考する。


(儂の使える魔法は『フィジカルアップ』のⅠ~Ⅲ迄。もしくは『プロテクトアップ』のⅠかⅡのみ。死神を抑えられているのは良いがあまりにも兵を消費するわけにはいかん。とすると)


「『フィジカルアップⅢ』!!!」


 選んだ魔法は『フィジカルアップ』。防御力のみではなく、身体能力の全体強化を選んだ。ゼルブは、エルカとの勝負を早めにけりをつけることに決めた。

 確かに、今までのエルカなら一瞬で勝負は決した。だが、、、


(っ!?速い!!)


 加速(アップテンポ)30(サーティ)までとは異なり、移動する度に()()をまとうエルカは、魔法により強化されたゼルブよりも遥かに速かった。


(当たらん!しくじったか!!!)


 ゼルブは使う魔法を見誤ったことを、エルカが攻撃から離脱する度に顔を歪めることで悟った。30(サーティ)の時ですら『自動回復(オートヒール)』を並列して使用しなければ耐えられなかったエルカの体が、50(フィフティ)の使用に長時間耐えられるはずがない。

 ゼルブが狙うべきだったのは『プロテクトアップ』による防御特化の持久戦。早急にけりをつけようとした判断が間違いだったのだ。

 ゼルブは大型種。魔法の使用を()()()とする種族だ。他の魔族なら可能だったであろう魔法の重ねがけも、ゼルブには、技量的にも魔力量的にも困難なことだった。ましてや戦闘の最中になど。


 しかし、


「ヌゥゥゥン!!!!」


 気息をはき、対峙するゼルブに対し、決め手に欠けるのはエルカも同じだ。ゼルブの傷は増える。攻撃は入っている。だがエルカの腕力では、いかに速さで威力が増そうとゼルブに致命的な一撃を与えるのは困難だった。


(くっ意識が朦朧とする!)


 先に限界が来たのは、ゼルブだった。『自動回復(オートヒール)』により、外面的には無傷だったエルカ。度重なる剣戟を受け、体に多くの傷を負ったゼルブ。勝負を分けたのは、出血量だった。


 貧血により、ゼルブが一瞬ふらつき、無防備になる。その瞬間を、エルカは逃さなかった。


 ドンッ

 と、戦場に響く突きの音。音速を越えた加速をした、エルカの必殺の一撃が、ゼルブの首を貫いた音。


 一拍おいて、ゼルブが倒れた。


「四天王ゼルブ・ガーレヤン!討ち取ったり!!!!」


 エルカの渾身の叫びが、戦場に響く。

 全力を出しきったエルカぎ倒れるのと、魔族にどよめきが広がるのは、ほぼ同時だった。


「『虚断(うつろだち)』」


 死神(グレーテル)の攻撃を起点として、人類軍の猛反撃が始まる。決着は言うまでもないだろう。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ???ーーー


 廃村近くの森、その奥の方にぽつんと一軒の家が立っていた。そんな家には似合わないウッドデッキで、1人の少女がズズッと緑茶を啜っている。


 森に音が響くものの、森の獣は一匹たりともその無防備な修道服の少女を襲おうとはしなかった。

 左頬に火傷を持つ少女。彼女を狙おうと近付くどころか、獣どもは一歩でも離れようと努力していた程だったから。


 森に住む獣は皆知っていた。少女は捕食者であり、自らは被食者であることを。少女が、人間の皮を被った怪物であるということを。


 ふぅ

 と、一息ついた少女は、湯飲みを机の上に置いた。


「勇者の反応が()()、固まっています。一人はエルカでしょうが、、、もう一人は?前々から気になっていたことですし、そろそろエルカの様子見もしたい。、、、そうですね。行きますか」


 少女は、机に置いた湯飲みを取ると、中の緑茶を一息に飲み干した。

 ぐぐっと背伸びをし、立ち上がる。


 かつて、化け物と呼ばれた少女が、再び動き出した。





次から新しい章に入ります。


※書き忘れ。エルカが爆音を出していたことについて。

天啓『加速(アップテンポ)』は数字分だけ倍化して速くなるという天啓。例えば加速(アップテンポ)2(ツー)だと二倍速になる。

エルカの速度は秒速9m程。100mのタイムでいうと11秒くらい。ボルトの方が速い。が、それでも加速(アップテンポ)が40を越えた辺りで音速を越える。とするとソニックムーヴが発生するわけで、爆音の原因はこれ。科学的に考えて人間が音速を越えられるわけがないということに関しては、ファンタジーなので。


エルカ・ノール・リレート

筋力 C 耐久 D 俊敏 SSS 器用 B 精神 A 魔力 A


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