表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/53

10月24日(金) 16:30

いつもありがとうございます。

先日、活動報告で書いた小話を転載しました。

ユーザ登録していて二度目になってしまう方には、本当に申し訳ありません。


それでは、短いですがお付き合いいただけましたら幸いです。

※さっくり書いたものなので、さっくりした内容になっています。ただし、田部にゃんと小野寺氏のラブラブぶりは健在です。













* * * * * * * * * * *














ちょっと薄暗くて肌寒くて。広い土間みたいな場所。

私の彼氏、小野寺誠くんのアルバイト先はそんな雰囲気の古書店。


「じゃあ、すぐ戻るから」

そう言った諒さん……高橋諒介さん。この古書堂の店主で、なんと私の親友なっちゃんの彼氏さん!……は、そう言って店を出て行った。

なんでも、なっちゃんが忘れ物をしたそうで。それを届けたいから、小野寺くんに数時間の店番を頼んだんだ。

忘れ物なら、私に頼んでくれたら渡すんだけどな。

そう呟いたら諒さんは、「男ゴコロが分かってないねぇ、綾乃ちゃん」なんて。どういうわけか小野寺くんに向かって肩を竦めた。

そうしたら小野寺くんも、苦笑混じりに私の頭を撫でて。

……なんでだ。



そういうわけで、私と小野寺くんは高橋古書堂で店番中なのです。


途中のコンビニで買ってきたカフェオレを横に、カリカリと問題を解く。店番を任されたのは小野寺くん。だから勝手の分からない私がすることといったら、やっぱり勉強しかないわけで。

「……ふぅ」

カウンターに置いた明かりじゃ、ちょっと頼りない。目が疲れた私は顔を上げた。

その時だ。


「あやのー?」

聴こえてきた小野寺くんの声に、私は小首を傾げて応えた。

「なあにー?」


すると、小野寺くんの声が少し大きくなる。

「悪い、カウンターに置いてあるファイル持ってきて」

「はーい!」

ちょうどひと息つきたかった私は、喜んで彼のお願いに返事をした。


言われた通りの物を手に小野寺くんの姿を探す。彼は店の隅に置かれた本棚の前にいた。黒いエプロンに、黒縁メガネ。ちょっと伸びた髪。長袖のYシャツを腕まくりして着てる。ニットのベスト姿も格好いいよね。小野寺くん。

……うん、恋愛フィルター万歳。


「はい、これ」

心の声を飲み込んだ私は、そっとファイルを差し出した。

すると小野寺くんが難しい顔をして、それを受け取る。本棚とにらめっこしたまま。

「さんきゅー……」

「どうかしたの?」

いつになく真剣な表情をしてるから、ちょっと気になって。

尋ねた私に、彼は言った。

「や、店番ついでに検品して並べとこうと思ったんだけど。

 諒さんの私物が紛れ込んでるっぽくて……」

彼の横には、たくさんの本が積まれたワゴンが置いてある。当たり前だけど全部が中古の本だ。この中に私物が混じってても、ぱっと見じゃ商品との見分けはつかない。

「そうなんだ」

「そ。

 だから最近買い付けた本のリストをチェックしようと思ってさ」

森に隠した木を探すのが大変なのを思い浮かべた私に、彼が肩を竦めた。耳にはドクロのピアスが光ってるけど家事全般をそつなくこなす、器用で几帳面な男なのだ。小野寺くんは。


溜息をひとつ吐き出した彼の横で、私もなんとなく本棚から古書を手に取ってパラパラ捲ってみる。

古い活字って、なんか不思議。フォントには可愛らしさなんて欠片もない。お堅い、古き良き日本の雰囲気がある。見ているだけで、背筋がしゃんと伸びる気がする。

ちょっと前まで悪名高かった小野寺くんとはミスマッチだなぁ。


そんなことを思いながら、横で難しい顔をしてファイルを開く小野寺くんを見つめてみる私。彼女の距離だから分かる小野寺くんの姿だ。

……むふふ。このまま気づかれずに見ていたい。


だがしかし。

完全に隠していたつもりの心の中を読んでいたのか、彼がこっちを向いて口を開いた。

「何見てんだよ」


「ひっ」

思わず悲鳴じみた声を上げて肩を揺らした私は、あろうことか足を滑らせてしまって。

「あ、っと……!」

なんとかバランスを取ろうとして。

「いたっ」

なんでなのか分からないけど、本棚に背中からぶつかった。ついでに頭もぶつかった。痛い。


「何をひとりで楽しそうなことしてんだ、綾乃」

一連の私の動きを見ていた小野寺くんが、肩を震わせて言う。ひどい。彼女なのに。

そう思った私は、知らず知らずのうちに口走る。

「お、小野寺くんが急に怖い顔するから……っ」

頭をさすりつつ見上げたら、彼が何かに気づいて顔を強張らせた。刹那。


彼が私に覆い被さって。

薄暗かったのが、さらに暗くなった。

そして音が。ばさばさばさっ、と。


すべてが一瞬で、私は息を飲むしかなくて。

だから、瞬きを何回もくり返して気がついた。


こ、これが巷で噂の、あの、例の、実際にやると恥ずかしくてしょうもないという、あの……?!


「……か、壁ドン……!!!!!」


は、恥ずかしい! たしかにこれは恥ずかしい!

こんな漫画みたいな状態に強制的に置かれた自分が超絶に恥ずかしい。心臓が口から飛び出しそう。

てゆうか小野寺くんが痛そうにしてるのが格好いい。眉根を寄せて、メガネの奥で瞳が歪むのが素敵過ぎる。

土の匂いの隙間から漂ってくるこの色香は一体なんなんだ!


「きぁぁぁ……っ」


感極まった私が、顔を覆って変な悲鳴を上げたら。小野寺くんは、べりべりと私の両手を引き剥がした。難しい顔をして。


「怪我がなかったから良かったものの……」


そして引き剥がされた両手が、そのまま本棚に縫い付けられて。

薄暗くても分かるくらいに真っ赤な顔した小野寺くんは、私にキスをした。




……もちろんそのあと、ちょっと怒られた。しゅん。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ