閑話 塩の像
一二三書房大賞の1次選考通ってました~
うれしい~
「おい、なんで……誰か、誰かいないのか……?!」
三角屋根の石造りの建物が立ち並び、広さだけならデルタノルドの帝都に匹敵する都市の一角。
一国並みに栄えていたその一都市は、不自然に静まり返っていた。
「おかしいだろ、なんで……」
不気味なほどに静かな街の中で、男はたった一人絶望の慟哭をあげていた。
半年かけ、命がけで故郷まで辿り着いたこの男にとって、あまりにも残酷な事実が眼前に広がっていた。
男の名前はコード。
サンムルスの軍において、師団長の座についている傑物……だった男だ。
半年前……シリスの街に四万の兵をけしかけるも敗北、そのまま捕虜となって拷問の実験台にさせられたりしていた。
しかしその後、老師による魔物の軍勢や朱禍の魔女との戦闘のどさくさに紛れ、脱走に成功する。
その後は最愛の妻の待つサンムルスを目指し、半年もの間歩き続けていた。
苦節半年。野生の魔物や猛獣に追われたり、野盗に身ぐるみを剥がされかけたり。
それでもコードは幸運な事に逃げ延びられ、そしてとうとう故郷に帰るという悲願を叶えたのである。
だが、彼の幸運もここまでだった。
サンムルスの市街地に辿り着いたというのに、人影がどこにもないのである。
「なんだこれは……」
……いや、人影はある。
それもたくさん。
ただ、それらが動くことはない。
コードは立ち並ぶ『真っ白な彫像』に恐る恐る近づいた。
恐ろしいほどに精巧な人間の像が、そこら中で空を見上げている。ある像は天を指さしていたのだろうか、上げた腕が肘の辺りで折れて地面に転がっていた。
「これは……塩?」
――塩の像。
それが、何故あちこちに。
何故人間がいない。
まるで――
コードの脳裏に嫌な想像が過る。
その思考を振り払い、コードは駆け出した。
サンムルス自治区は広い。
コードはそこから更に1週間かけて、我が家を目指した。
その道中にも、生きた人間と会うことは1度としてなく、そしてどこもにでも『塩の像』が立っていて、天を仰いでいた。
「嘘だ……」
コードはついに辿り着いた。我が家へ。最愛の妻の元へ。
「……嘘だ」
少し埃っぽい家の中で、椅子に腰かけた『塩の像』があった。
茶でも飲もうとしていたのだろうか。
右手の人差し指が欠け、床にコップと塩の破片が散乱していた。
――その像の顔は、コードの妻のものと瓜二つであった。
「あ、あぁぁぁ……」
コードはついに糸が切れたように倒れた。
世界でただ一人のサンムルス人は、こわれてしまった。
サンムルスは神の怒りに触れ、終末を呼び寄せた。
半年前まで数百万人はいたサンムルスの人間は、現在は一人だけ。
コードはその事実に耐えられず、狂い、壊れ、そのうち自分で喉を掻き切って死んでしまいました。
こうしてサンムルスは、この世界から絶滅したのです。
めでたしめでたし。
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