第47話 はじめてのダンジョン
あけましておめでとうございます(大遅刻)
「これが、迷宮……」
眼前には、ただ巨大な『門』があった。
その見た目はさながら極彩色のステンドグラスのようだ。
アルコア様の計らいで、ダンジョンの入り口はここ『聖域』と呼ばれる場所に作られた。
聖域とは、以前アルコア様とナラシンハの戦った場所にできた異界だ。神力によって変異した様々な鉱物や植物といった資源のほか、精霊の溜まり場にもなっている。
今日はこのダンジョンをシリスの兵士100人と共に挑戦してみようと思うの。
「準備はいい?」
「マム! イエスマム!!」
元気でよろしい。
私はステンドグラスの大扉を開くと、ヴェルディちゃんと共に中へと足を踏み入れる。
私たちの後に続いて、恐る恐るシリスの兵士さんたちも入ってくる。
大迷宮ダート――アルコア様いわく、アルコア様が今までに関わってきた世界と繋がっているらしい。
そして、アルコア様が作り出したダンジョンではあるがその全容はアルコア様自身も把握しきれていないとか。
ちなみに内部でもし迷ってしまっても、望めば入り口まで転移する事ができるとか。
優しいね。
さて、そんなダンジョンに足を踏み入れた私たちを出迎えたもの。それは――
「森……?」
巨木の立ち並ぶ、深い深い森であった。
ダンジョンというと、狭い迷路とか洞窟をイメージしていたんだけどな。
さすがはアルコア様だ。
まさか『別世界』が広がっているとはね。
「こ、ここがダンジョンの中だというのか……?」
「らしいね。しかもここはまだ第一階層。先へ進むにはこの『扉』を見つけなきゃいけないみたいだよ」
そう、ダンジョンとは複数の『階層』からなるものなのだ。
階層を進むごとに攻略難易度が上昇してゆく。それと同時に、貴重な品や宝物も手に入りやすくなる。
「それと勘違いしないでほしいんだけど――」
私はわかりやすく、私めがけて放たれた『矢』をキャッチしてみせた。
「実戦訓練はもう始まってるんだよね」
「!!」
何処からか、大量の矢が雨のように降り注ぐ。
毒矢だ。かすっただけでも常人なら致命的な、猛毒である。
射手の集団はこの森の何処からか私たちを狙っている。
……まあ私はわかるんだけど、教えたら彼らの訓練にならないしね。
「敵は何処だっ!?」
「敵は雑魚だよ。まず間違いなく遥か格下。でも今のままの君たちではなす術なく負けるね」
敵はゴブリンの集団だ。
魔物であり亜人でもあり、人権団体がちょくちょく騒ぐ種族なんだよね。
まぁ大半が会話も成り立たず人間と見たら襲って喰らうから討伐対象になってるけど。
「課題だよ。君たちだけで、敵を倒してごらん?」
――そんなゴブリンだが、彼らの身体的強さは魔物としては最弱に近い。
しかし、彼らは自分達の『弱さ』を熟知している。
「ぐおおっ!? 落とし穴か!?」
敵を見つけるために無策に飛び出した何人かが、落とし穴にはまった。
穴の中には荒削りながら鋭い槍が何本も設置場所されており、落ちた獲物を串刺しにするように作られている。
原始的ながら、確かな合理性の『狩り』である。まぁ鍛え抜かれたシリス兵の肉体を傷つけるには至らないけども。
――ゴブリンは確かに弱者だ。
だからこそ自らの弱みを決して見せずに立ち回る。
故に厄介。故に脅威。
「敵の姿が見えぬ……! どこから矢を……!」
シリス兵のみんな混乱しているね。
上位精霊契約者がいれば魔法による範囲攻撃でゴリ押せたかもだけど、生憎彼らは今は連れてきていない。
むしろそれだと修行にはならないからね。
ただまぁ……さすがにヒントが無さすぎるかな。
「敵は弱い魔物だから接近されたくないんだよ。だから姿を隠してちくちく遠くから攻撃してくるの」
「間合いにさえ入れば倒せる……か。であればどうやって位置を特定すれば……」
ふむ、と矢を筋肉で弾き返しながら考え込むシリス兵たち。
少しして、その内の1人が何かを思い付いたようだ。
「〝身体強化〟って、強化されるのは筋肉だけじゃないっすよね?」
「ほほう?」
おやおや、なかなか鋭い事に気づいたね。
その通り、筋肉だけ強化されてるなら骨は負荷に耐えられずに砕けるし神経や血管も千切れてしまう。
つまるところ、肉体に属する全てを魔法で機能上昇しているのである。
そこには五感も含まれる――
「耳をすませば茂みから音が聞こえるっす!!!」
「……うわ、マジだ!!」
「何で気がつかなかったんだ!?」
彼らの肉体は急速に成長した。
その上で身体強化なんていう魔法で機能を底上げしているのだ。
十数年、あるいは数十年もの〝弱かった頃の感覚〟というものは抜けきれないのである。
多くの物を感じていても、無意識に以前と同じ量の情報しか処理できない。
そこに気づければ、このステップは完了だ。
「正解だよ」
そこからは――蹂躙だった。
小柄な身体を活かして姿を隠し、風下から絶えず位置を変えながら毒矢による攻撃――ヒット&アウェイ戦法をしていたゴブリンたちのアドバンテージが崩れたのだ。
シリス兵たちは意図的に眼球と鼓膜に身体強化を集中させ、ゴブリンの位置を正確に把握。
隠れながら逃げようとも隠れている木ごと両断してくるバケモンが落とし穴を正確に避けて突撃してくるのだから。
ゴブリンが全滅するまで2分もかからなかったと思う。
その後――何度かゴブリンの襲撃はあったけど、問題なく撃破。
この広大な森をさ迷うこと数時間。どういう訳か、ダンジョンの中でありながら日が沈むようだ。もうすっかり暗くなってきている。
「お姉ちゃん……」
「眠くなってきちゃったのヴェルディちゃん?」
「ん……」
私の袖を引っ張って、おめめを薄めてこくりと頷くヴェルディちゃん。
戦ったりもしなくて退屈だったもんね。
「ごめんね、今日はこの辺りで野宿にしよっか? みんなー、日が完全に沈む前に野営にするよー!」
「マムイエスマム!!」
てきぱきとした動きでぐだぐだとテントやらを広げてゆくシリス兵さんたち。
夜間の襲撃にも備えて、超簡易的に土塁なんかも建てる。
食糧は今回ばかりは私が次元収納にしまって持ち込んできたものを提供する。
今回は初日だもんね。
そうこうしている内に、辺りに夜のとばりが包み込んだ。
独特な静けさと肌に張り付く冷たさが、人間の生活圏外の空気を感じさせる。
時折どこからか甲高い鳥の声が聞こえる。
「明日は次の階層への扉を見つけなきゃだね……」
そう呟いていたら……ふと、あるものに気がついた。
「なにあれ……?」
遠くの方に、オレンジ色の光が見える。
よーく目を凝らしてみると、何やら洞窟の中に櫓のようなものが見える。そして入り口には粗雑な槍を握ったゴブリンが2体門番のように立っている。
「もしかしてあれがこの階層の出口なのかな?」
階層の出口……つまり次の階層への入り口は、フロアボスという強力な存在が守護しているらしい。
確実ではないけれど、あそこにフロアボスがいる可能性は高そうだ。
ただ野営拠点と目視で確認できるくらい近いのが気になるなぁ。
と、思っていたら。
「いってくる!」
「え、ちょっヴェルディちゃん!?」
ヴェルディちゃんが魔獣形態に変身し洞窟の方へと駆け出していってしまった。
なんかすごく目をキラキラさせてたんだけど……?
そしてヴェルディちゃんは門番のゴブリンを……え、ゴブリン食べちゃったんだけど!? しかもぱくっと丸呑み!?
……それから罠や外敵に備えて設置したであろう棘なんかもぶち壊しながら洞窟の中へ突撃。
『ぎゃ!?』
『ゴブギャアアアア!?』
ズシーン、ドシャーン、ズゴゴゴゴ……
凄まじい破壊音と地鳴りが遠くから響いてくる。
あー、もうめちゃくちゃだよ。
……こりゃあボスはもうやっつけちゃったかな……。
しばらくして洞窟から帰ってきたヴェルディちゃんは、ものすごくスッキリした表情で私の胸に飛び込んできたのであった。
「ふへへへ……お姉ちゃん」
「もー、しょうがないなぁ……」
叱ろうかと思ったけど、見てよこの愛くるしい表情を。もう怒れませんわ。
それに今日は鬱憤溜まってたんだもんね?
明日からはヴェルディちゃんにも戦ってもらおうかな。
それはそうとして、ゴブリンなんか食べちゃダメだよ? お腹壊しちゃうよ?
「ん、もう食べない。美味しくなかったから」
……そういう問題じゃないんだけどなぁ。
まあいっか。
ヴェルディちゃん『やっぱり生きたにんげんがいちばんおいしい……』
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