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第29話 自由のじゆう

大遅刻! 申し訳ありません!!

『たす、助ける、助けてあげる、自由にしてあげるか、ら、ら、はは、ははははっ! あははっ、あHAHAはは!!!!!』


 炭化したアルスの死体が宙に浮かび、不可解な声をあげながらガタガタ震え出す。

 白い光の粒が死体を包み込むように集まってゆく。


 ……何らかの神が受肉しようとしているらしい。

 そんなものを野放しにすれば、この世界の危機だ。とはいえ私たちは神を相手にやりあえるほど強くはない。


 けれど――


「ミイヴルスさん、ボクに力を」


「ヴェルディちゃん……?」


 ミイヴルス、って何? ヴェルディちゃんまさかアルコア様以外の神様と契約を……?!


『そうよ。ミルスちゃんに協力してもらってるのよ。害意はないから安心してもいいわ』


「ミルスさんが……。……ありがとうございますミルスさん。帰ったら改めてお礼を言わせてもらいますね」


 そう話している内に、ヴェルディちゃんの体がずんと大きくなってゆく。


 戦う時の魔獣形態……よりも、一回り大きい。

 しかも、灰色の毛並みにうっすら紫がかっていてほのかに光っている。


 ――ミイヴルスさんは神としてはとても弱いそうで、その能力は戦いに不向きだ。

 しかしそれでも神は神。エネルギーの総量だけは引けをとらない。

 その神としてのエネルギーを一時的に全てヴェルディちゃんに明け渡すことで、ヴェルディちゃんは擬似的な神様になったのだそうだ。


 ミイヴルスさんは戦いが苦手だそうだけど、ヴェルディちゃんなら戦いはむしろ得意だもんね。


 さて、足手まといにならないよう、アルコア様の神域に避難しておきたい所だけど。……なぜかできないんだよね。既に一帯の神域化が始まってるのか、アルコア様との会話もしづらくなってきている。


 ……こうなればヴェルディちゃんと一緒に戦うしかないか。


 覚悟を決めた瞬間――世界が、真っ暗になった。




 バツンッ―――




『異相空間……!? 気を、つけて――』


 アルコア様の声は、それっきり聞こえなくなった。






 *










 ――上映中はお静かに! 声を出したり、大きな音を出さないようご協力をお願いいたします!!



 ――上映中は携帯電話や爆撃魔法など、光の出る機器や魔法の使用はご遠慮ください!!



 ――他の座席を蹴らないでください!!



 ――当館以外の飲食物の持ち込みは厳禁です! 他のお客様へのご配慮をお願いいたします!!




 皆様のマナーへのご協力に感謝いたします。


 それでは、ごゆっくりお楽しみくださいませ――――




 スクリーンに映し出された光が、暗闇の世界を仄かに照らす。


 観客は映画の始まりを今か今かと心待ちにしていた。





「なに……ここ?」


 ラズリーは見たことの無い景色に戸惑う。


 途方もなく大きな壁に、動く絵のような光が投影されている。


 いや、ここが何らかの「舞台」のような形をしているのはわかる。

 しかし、ここは映画館どころか映画も映像という概念すらもない世界だ。


 ラズリーが戸惑うのも無理はない。



 ――ここはただの映画館ではない。


 スクリーンは天より高く聳え立ち、座席はひとつひとつが家よりも大きい。しかも座席は、階段状に地平の彼方まで広がっているかのよう。


 ラズリーとヴェルディは、そんな巨大な『座席』のひとつの背もたれの上に立っていた。


『お姉ちゃん……何があってもボクが守るからね』


 そう決意するヴェルディの背にラズリーは跨がった。


「ここって神域……よね? こんなのまるで異界だよ。……アルスを倒すしかなさそうだね」


 ヴェルディはこくりと頷く。

 ラズリーとヴェルディは既にこの空間の核となる『不完全受肉体』の居場所を感知している。

 莫大な神力が溢れだしこの空間を維持・管理しているのだ。見つけることは造作もない。


「〝客席〟の上の方だね。……ヴェルディちゃん、お願い」


『ん。しっかりつかまってて』


 ヴェルディの背を突き破り、1対の翼が開いた。地球上の哺乳類で最も繁栄している種族、蝙蝠の翼だ。


 ヴェルディは翼をはためかせ、巨大な座席どもの上空を飛翔する。


「ヴェルディちゃんすごい! 飛んでるよ!!」


『えへへ……』


 褒められて嬉しそうだ。しかし『核』に近づくごとに、二人は気を引き締める。





 そして




 二人は目の当たりにする。




 ――不完全な『神』の姿を。






 観客席の上空――


 無数の白い糸で吊られた、操り人形のような『それ』を。


「あれって一体……」


 胴体のほとんどは幾何学的な白黒の柄のマントで隠され、露出している頭部は既に人間のものではなかった。


 箱の前面に筒状のレンズがつき、それは一見『撮影機(カメラ)』にも酷似していた。

 しかし頭頂と後頭部には車輪のような円盤状のパーツが付属している。




 ――ラズリーが知るはずもあるまい。


 それは『映写機』と呼ばれる、映画の映像をスクリーンに投影させる機械なのだから。




『は、ははは、《僕》が、助ける、から……《みんな》、《不明な音声》ちゃんと、もっと《僕》を見てよ!!! 《不明な音声》はは、! 自由に! 大きく!! 楽しく!!! 《不明な音声》』



 〝アルス〟は、観客の方を向いて笑った。


 ……観客は一人もいない。


「先手必勝、ヴェルディちゃん」


『うん』


 ヴェルディは〝アルス〟の背後に回り込み、爪を振るう。


 しかし――直前に、アルスの映写機の頭部がぐりんと回転してヴェルディを『レンズ』に捉えた。



 そしてそこから『光』がヴェルディの顔へと照射される。


「ヴェルディちゃん……?」


『――』


 ヴェルディはぴたりと動きを止め、そのまま観客席へと落下してゆく。



 ――ヴェルディの脳内に、あるはずのない記憶が溢れ出す。


『アルス』という少年の半生についてを。


 大切な人たちを殺され、騙されている事にも気づかず都合のいいように利用されている愚かな子供の人生を。


 それはまるで劇場で席に腰かけ、ポップコーンをつまみながら見ているかのように。


 時間にして数秒、しかしヴェルディにとっては数時間もの体感。


「ヴェルディちゃんっ!!」


 硬直するヴェルディへ、〝アルス〟はマントの内側から露出させた右手を向ける。

 その右手もまた人間のものではなく――

 黒い筒状のものであり、そしてそれはある世界においては『銃』と呼ばれるものに酷似しており――



『《お父さん》どこ? み、みみ、見てよ、《僕》、こんなに、にに大きくなった、《不明な音声》たよ!!』



 〝アルス〟の右腕が、火を吹いた。



 その刹那――ヴェルディの体は観客席をいくつも突き破って吹き飛ばされた。


 衝撃の余波は他の観客席もいくつか消し飛ばし、今のヴェルディが神化していなければ一瞬で粉砕されていてもおかしくはなかった。


『けほっ、お姉ちゃん……大丈夫?』


「大丈夫だよ……ヴェルディちゃんのおかげでね」


 ラズリーはヴェルディに庇われたことで死んではいない。


 だが……それでもダメージは小さくはない。




『見てよ《お母さん》! 《不明な音声》ははは《不明な音声》ははっ! 《僕》、お空を飛んでるよ!!!』





 〝アルス〟は幸福な妄想の世界で幸せに暮らしているようだ。


『……』


 彼の記憶を脳に流し込まれたヴェルディは、この哀れな少年を終わらせてやると決意を抱いた。




 ――あたりの空気に自由が満ちる




他作品のセルフオマージュだったり。

あと1~2話ほどで決着つきます


次回更新は10/28を予定しております

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― 新着の感想 ―
バグったような口調、名詞につく《》、自由・大きく、(聞き取り不能)、「観客の方を向いて笑った」、「観客はいない」、「見ててね [[ママ]] ボク お空  を飛ぶ、よ!!」 (↑例のセールスマンパロディ…
ヴェルディちゃんがケツイを漲らせてる…!
なんかもう……楽にしてやってくれ感がすごい  いやこんな哀れを表現できることある!?っていうのがもうね……  誰もいない舞台で踊り続ける道化みたいというか、血の通わない映写機っていうのがこう哀れ通り過…
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