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第90話 特別訓練開始!! FU技能習得。

 支部局長から辞令を受けてから一週間もたたないうちに、咲良は、シンベエと共にかの地へ向かうことになった。これから必要な資材を運ぶため、支部と向こうとを何往復もするらしい。


 ユリハが「咲良ちゃんがいるうちに」ということで、咲良が得意とするフライング・ユニット、通称”FU”の技術を習得するため、アキラと花太郎が合同で訓練を行うことになった。


 当初は二人だけの予定だっだけれど、「咲リンが教えてくれるなら」と、悠里も訓練の参加を希望した。


 FUとは、かんむりに「フライング」って付くくらいだから、そりゃもう空を飛べる装備である。


 AEW(ここ)では旧地球での航空機やヘリは飛ばせない。大気中のマイナシウムが計器を狂わせたり、高速で動くものに対して磁場を発生させるからだ。せいぜい飛ばせるものと言ったら熱気球かラジコンくらいの小さなドローンだけだという。しかし”FU”はそんなマナの問題を克服し、空中での高速移動に成功したのだ。但し、FUはマナコンドリア保有者でなければ扱えない為、AEWの住人か、旧地球ではトーカーかリスナーでしか操作できない。


 FUとは、ユリハが設計したパワードスーツシリーズの総称で、操者の技能に合わせて五種類の装備、操作の難易度が五段階に分かれている。咲良はこの中でレベル5の最も操縦が困難で、最も高性能なFU、型式番号FUー23C 通称”メルクリウス”を使いこなしているらしい。


 操者の最低条件であり、絶対数の少ないマナコンドリアの保有者のみが扱えるFU。この操作条件は実地訓練において、頼れる教官がいないこと意味していた。


 旧地球でNOSAとJOXAが抱えるリスナー、トーカー達が航空学の理論を学び、研究者と手探りの実施訓練。咲良はこの訓練で最も優秀な成績を納め、FU操作のマニュアル作成に大いに貢献したそうだ。

 メルクリウスを自在に操れるのは、NOSA、JOXA内でも、咲良ただ一人だけだという。

 この事実をユリハから聞いた時の花太郎のニヤけりようは、隣で話を聞いていた悠里がその表情を写真に納めるほどだった。

 見せてくれた悠里の一眼レフの写真のデータには、花太郎のニヤけり顔と半透明な僕が映っていて……僕も花太郎と同じ表情をしていた。「ハナがニヤニヤしながら残像つくっとる」とアキラに笑われた。


「これを着て。外で待ってるから」

 咲良が、花太郎とアキラにケブラー素材のツナギを渡していた。色は黒いけど、咲良が着ている濃紺のものとお揃いだ。これは森の調査任務で悠里が着用していたスーツと同じ物で、悠里はすでに着替え終えていた。


「エアっち。なんか物欲しそうな顔してるね?」

 ……バレたか。花太郎が咲良とお揃いの服着ててうらやましいなって、ちょっとだけ思っちゃった自分がいる。

 きっとこんな感情が、すくすくと育った子供から”お父さん、気持ち悪い”って言われるようになってやがて無視されるようになるんだろうなぁ。……って、もう二度と経験することの叶わない光景がふと頭をよぎって泣きたくなった。マジで笑える。


「ど、どうした? エアっち?」

[なんでもないよ、悠里。しばらく、悠里のこと観させて]

「え? う、うん、別にイイけどサ。どったの? ……そんな見つめられると、ちょっと恥ずかしいかナ」


 燃えあがれ、僕の想像力イメージ!!


 ……成功した。悠里のケブラースーツを模倣して、自分の衣服に顕現できた。花太郎は黒スーツだから、アキラとお揃い。僕は濃紺だから咲良とお揃いだ!


「すごいじゃん、エアっち。なかなか似合うゾ」

[ありがとう。これで咲良とお揃いだよ]

「アタシともお揃いだからね!」

 悠里に頭を小突かれた。


 支部の園庭でユリハと咲良が待っていた。ユリハは訓練のついでに咲良のFU操作のデータ収集をしたいらしい。


 最初にユリハからFUの概要についてレクチャーを受けた。


「FUは、マナを動力に変換して動かすから、故障を起こさない限りAEW(ここ)ではずっと動かし続けることができるわ」


 つまり操者が大気中のマナを吸収、FUに注ぎ込むことで稼働する仕組みらしい。操者が電池バッテリーになるようなイメージだと、ユリハが噛み砕いて説明してくれた。


 ……この技術は、未来人たちがアキラが開発したマウスを使って魔法を発動させた技術の原型になるものだと、設計者であるユリハが、この間の話で自ら推察していた。

「レベル2のFUまでは、航空学の知識は特に必要ないわ。まずはレベル1から覚えてもらうけど、任務に就く前にレベル2まで使いこなせるようになるのが目標よ」


「燃えてきたでぇ! FU、カッコええやん!!」

 ユリハの横に転がっているFUのパワードスーツを見て、アキラのモチベーションはMAXに達していた。

 アキラはマナコンドリアを保有していないけれど、代わりにアキラの魔石がマナを集めてくれるので、理論上は操作可能だ。


「咲良は、いや、咲良さんはあれを使いこなしてるんだな」

 純粋にFUの技術を習得したがっているアキラが横に並んでいるせいで、花太郎の中にくすぶっている邪念が際立って見えた。


「別に、咲良って呼んでいいよ」

「ほ、ほんとうですか?!」

「……気持ちわりぃよ、オッサン」

 咲良の眉間に皺が寄る。

「あ、ごめん、ごめん……さ、咲良」

「何?」

「…………ごめん、試しに呼んでみただけだった」


 ユリハもアキラも悠里も、ニヤけてた。


 レベル1のFU、型式番号FUー07 通称”アキレウス”。

 ホメロス作の戦記”イリアス”で大活躍した俊足の英雄(ここでの英雄は神と人間のハーフを指す)、かかとけんを矢で射ぬかれて命を落としたことから、アキレス腱の語源にもなった、かの半神の名を冠したFUは、空は飛べないけれど、ホバーしながら地上を高速移動できる。


 ユリハと咲良の補助で、二人は”アキレウス”を装着する。悠里はレベル3のFUの技能修得を希望したため、二人の訓練が落ち着くまで、ユリハのデータ収集の手伝いをすることになっている。


 真剣な面もちで咲良が花太郎に装着の手ほどきをしていた。花太郎がニヤケる様子はない。真面目に教えてくれている人間に、邪念をみせるのは無礼だからだ。


 内心ニヤケてるに違いないけど、必死に咲良のレクチャーを受けながら装着していたので、冷やかすのはやめた。悠里は真剣な二人の様子を写真に納めていた。


 アキレウスの駆動パーツは三つ。背面に装着するバックパックは、ランドセルにノズルがついたような形状をしていた。脚部のすね当て。これのふくらはぎ部分にもノズルがついている。


 あとは身体を守るための装備だった。

 

 頭部にはヘッドギア、両腕にガントレッド。ガントレッドは半球状の盾が両方に装着されていて、これが三段階に稼働する。手首が自在に動かせる状態、手の甲の位置で固定して、高速移動しながら拳銃などの武器を使用できる状態。完全に手を覆った状態の三段階だ。


 各関節部分にプロテクターを当て、装着が完了した。


 ……ちょっとカッコいいと思ってしまった。物語で活躍するアキレウスの武防具を身につけたような誇り高い出で立ちのアキラと花太郎。……とりあえず冷やかしておこう。


[馬子にも衣装だな]

「言ってろよ」

「ホントはうらやましいんやろ?」

 読唇術を使えないはずのアキラも僕が何を言ったのか察して、返答してきた。二人に笑われた。


 咲良がユリハの介添えでアキレウスを装着する。やっぱり手際がいい。僕は待っている間、アキレウスの装備を顕現させようと努力したけれど、うまくいかなかった。試行錯誤している様を悠里に撮影された。


 しなやかな身体にアキレウスを装着した咲良は、守護神アテネさながらの出で立ちだった。……実物はもちろん見たことないけどさ。


[悠里、悠里!]

 咲良の写真を撮ってくれまいか、と、悠里にお願いしようと思って彼女と目を合わせたら、一丸レフを向けられてシャッターを切られた。


[さっきから、僕のこと撮りすぎでしょ]

「今日のエアっち、おもしろいんだもん。かわいいゾ」

「僕なんかより、魅力的でかわいい子がいるでしょ!」

「え? アタシのこと?」

「違う、咲良のこと!」

 悠里が笑いながら小突いてきた。かなり強めだった。それでも咲良の写真を撮ってくれたので、素直にお礼を言った。もちろん悠里だって美人だよ?


「またせたね。はじめるよ」

「「よろしくおねがいします!!」」 


 厳つい装備をしたアキラと花太郎が、咲良に向かって深々と頭を下げた。訓練開始だ。 

次回は5月2日 投稿予定です。

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