第五話 私の人生、クソだと思ってた②(母カトゥイーヤ視点)
第五話 カトゥイーヤ視点2です。
まだカトゥイーヤ視点が続きます。
それではお楽しみください。
乳母として働くこととなったが何と言っても公爵家。マナーもなっていない私に務まるだろうかと思ったが、意外にも皆フレンドリーに接してくれた。
それに流石は天下の公爵家、使用人のレベルが高く所作も素晴らしく美しい。先輩をまねるだけで勉強になるのがありがたいわ。公爵家の貴重な蔵書も読み放題という恵まれた環境に、毎日神に感謝した。
私がお世話するカロリスお嬢様は、ご両親の良いとこ取りの容姿で毎日私たちのハートを天使の微笑み攻撃で打ち抜いていらっしゃる。今や公爵家はカロリスお嬢様の笑顔を見なくては一日が始まらないと言っても過言ではない。
そして、奥様のアマラル様はというと…。
「あ~、コルセット無し、最っ高だわ。何でコレを我慢して着けていたのかしら?」
「コルセットって産後の体型回復にはもってこいなんですけどね~。」
ボウナタニアン先生の指導の元、健康になった奥様は輝くばかりの変貌を遂げた。元々おキレイだったが、健康になったことで肌、髪共に艶っつやになった。体型維持の運動を取り入れ、今やコルセット無しでもボンキュッボンだ。美魔女爆誕である。
早速コルセット無しで着られるドレスをいくつもデザインし、ブランドを立ち上げ、自ら広告塔となった。(不肖、この私もお手伝いさせて頂いた)
貴族の頂点たる公爵夫人の変貌ぶりに王族女性たちが食いつき、この国のトップの女性が興味を持ったことで、他の貴族夫人や令嬢もこぞって食いついた。
で、自分の妻や婚約者がどんどんキレイになっていくと、男たちも当然反応する。痩身が美とされている貴族女性に、「もうちょっと肉がついていた方が抱き心地が…。」などと女性からしてみればイラァとしたセリフを平気で吐き愛人に走っていた男も、妻が理想の健康的なワガママボディになったならホイホイ戻ってきた。
そこで許せば男は付け上がる。「こっちが努力したんならそっちも努力せ~や」とお預けをさせたら、妻に気に入られようと男性も美意識高い系が爆誕した。結果、美男美女の貴族が増え、政略ながらもイチャラブ夫婦やカップルが続出、空前のベビーブームが巻き起こるのであった。なんとも単純な話である。
もともと美男美女のカップルだった公爵ご夫妻は、最初っからラブラブだったけどね~。
親子三人幸せ家族を、これからもずっとお傍で見られると思っていた。あの事故が起こるまでは…。
領地の視察からの帰りだった。突然の雷に驚いた馬が暴走しての事故だった。馬車は大破、馭者は即死、公爵様も重症、夫人のアマラル様は…重体だった。
同乗していた公爵家専属の医療師も即死してしまったのが不運だった。すぐさま別の医療師の手配をしたが、間に合いそうにない。助からないならせめて自分の邸でと、アマラル様は公爵家に帰ってきた。
自分のショボい治癒魔法が恨めしかった。ここで役に立たなくてどうする?私は何のためにここにいる?
「もういいの、カトゥイーヤ。大分楽になったわ…。」
こんな状況なのに使用人に過ぎない私に気を使うななんて人が善すぎる。精々痛みを緩和するしかできないポンコツ治癒魔法しか使えない私なのに…。
「お母様、大丈夫?」
「あぁ、カロリス。ほんのちょっと会えなかっただけなのに、ドンドン可愛くなっていくのね…。」
カロリス様の頭を優しく撫でるアマラル様…。
「お父様やみんなの言う事をよく聞いてね。あぁ、貴女の成長が見られないのが心残りだわ…。カトゥイーヤ、この子をお願いね。貴女にしか頼めない…ドアマットヒロインなんかにさせないで…。」
「ご安心ください、アマラル様。このカトゥイーヤ、乳母として必ずやカロリスお嬢様をお守り致します。」
私はおもむろに鋏を取り出すと、自身の纏めていた髪を根元から切った。アマラル様を始め、周りの皆は仰天していたが、これが私のアマラル様に示せる最大の覚悟だった。
最後は家族に看取られながら、アマラル様は息を引き取った…。
アマラル様が息を引き取ってからの公爵家はかなり荒れた。先ずは公爵様が引きこもりになった。重症の体では葬儀の喪主など務められないと、ある程度回復するまで葬儀は延期。アマラル様の遺体は冷凍保存された。
体が回復しても公爵様は、葬儀を行わない、冷たい土の中にアマラル様を容れるのが嫌だと駄々をこねた。最愛の妻を亡くした気持ちは分からないでもないが、まだ小さいカロリスお嬢様が母親の死を受け入れようと頑張っているというのにこの体たらく、私はキレた。
「ムンク(家令)、ヒーニー(侍女頭)!湯と着替えの用意を!何としても公爵様に葬儀を執り行っていただきます!」
乳母ごときの私が命令できる立場ではないが、このままでは葬儀の出来ないアマラル様が浮かばれない。私が公爵様を部屋からお出しして、公爵家使用人一丸となって公爵様を説得し、何とか葬儀を終わらせることができた。
後に護衛騎士は語る。
「室内とは言え、公爵家の作りがしっかりしている扉を斧3撃で破壊するとは…。あの細腕に一体どんな力が…女にしておくのが惜しいな…。」
後に家令は語る。
「乳母様が斧を片手に旦那様の首根っこ掴んで引きずるように出てきたときは、「えっ?殺っちゃった?」って思いましたよ。はははっ。」
後に公爵は語る。
「部屋のドアがいきなりブチ破られたと思ったら、斧を片手に喪服を着た女が立ってんだよ?ホラーだよ、ホラー。死神が迎えに来たと思った…。」
「元は公爵様が引きこもったせい。」
(↑使用人一同、心の声)
葬儀が終わって落ち着いた頃、男やもめとなった公爵様に秋波寄せる女が次から次へと湧いて出た。その筆頭がアマラル様のご実家の傍系になる子爵家の未亡人。
アマラル様とは従姉妹同士ということもあり頻繫に公爵家に訪れていたが、最近は後釜の公爵夫人だと言わんばかりの態度が鼻につく。おまけにその娘も「公爵様とママが結婚したら私は姉になるんだから弁えなさいよね。」などと謎のマウント発言をカロリスお嬢様に抜かしやがったので、話し合いの末とっととお帰り頂いた。
後に子爵家未亡人は語る。
「何なのよっ!あの女!斧ぶん投げるなんて正気の沙汰じゃないわっ!警らに通報してひっ捕らえてやるんだからぁ!憶えてなさいよぉ、ひぃぃ!」
後に侍女頭は語る。
「乳母様の鮮やかな斧捌きはいつ見ても感嘆致しますが、修繕費がかさむのでほどほどにお願いしたいですわ…。」
後に警らは語る。
「子爵家未亡人の通報を受けて一応事情を聴きに行ったが、こんなたおやかな女性を斧を振り回す狂人扱いするとは…。あぁ、大丈夫ですよ。こちらで処理しておきます。きっと酒でも飲んでありもしないことを言ったのでしょう。」
「乳母様って見た目詐欺だよな…。」
(↑使用人一同、心の声)
子爵家未亡人を撃退しても、後釜狙いの女は次から次へと湧いてくる。ある日、王宮に仕事で行ったはずの公爵様が真っ赤な顔をして戻ってきた。一服盛られたらしい。王宮内で媚薬盛る女がいるなんて…気の毒っちゃ気の毒だが、公爵様ももう少し警戒心持ってよね。
あぁ、もちろん薬を抜くのを手伝って差し上げましたよ。とっても苦しそうだったから。
「うぁ、無理ぃ、もう無理だからぁ!カトゥイーヤ、やめてぇ~!」
「なに言ってんです?!まだまだですよっ!ここでしっかり出しとかないと後が辛いんですからねっ!オラッ、とっとと出せ!」
「うぇ~。いやぁ~~、お婿にいけなぁ~い!」
「うるさいっ!男のくせにガタガタ騒ぐんじゃねぇ!」
侍従「相変わらず乳母様は凄い。」
侍女1「セリフをだけ聞いてるとエッチですね~。」
侍女2「しかも乳母様攻め♡」
侍女頭「実際は、水ガバガバ飲ませて吐かせているだけだけど?」
護衛騎士「あの細腕で一回りは大きい公爵様を押さえつけるとは…乳母殿、できるな。」
そんなこんなで度重なる女難に見舞われた公爵様に、私は女除けの為の契約結婚を持ち掛けられた。私が憂いなく嫁げるようにと身辺整理を終わらせた後で。
婚家だった子爵家は犯罪が明るみになり没落。まぁ、叩けばいくらでもほこりが出る家だったから早いか遅いかだけだったと聞いた。実家の男爵家はまともな叔父夫婦に爵位を譲渡。両親は平民落ちした。(衣食住は保証されているんだから、まだましな方だろう)
嫡男だった兄は叔父夫婦の使用人として雇われている。気が弱くて使うより使われる方が向いている兄は、現状に満足しているようだ。
後添いとは言え、天下の公爵家に貴族籍があるだけの私が入るわけにはいかないと断れば、アマラル様のご実家の侯爵家の養女手続きまで済ましてあるという。(外堀埋めすぎだろう?)とどめは…
「トゥイー(私の愛称)はカロ(カロリスお嬢様の愛称)のママになってくれないの?」
うぅ、出た~カロリス様のお目目ウルウル攻撃~!公爵家の天使の必殺技を喰らって、否を唱えられる猛者がいるなら私の前に連れてきてほしい。契約妻として公爵家に入ったが、結婚してからなんやかんやで公爵様から猛アプローチを受け、私たちは本当の家族となった。
ーおまけー
公爵「トゥイー、これを君に…」
トゥイー「まぁ、なんて見事な…これを私に?」
大輪の薔薇の花束の中に埋もれていたソレを見つけて、思わずため息を漏らすカトゥイーヤ。
公爵「君の快活な性格とエネルギッシュな行動力に私は救われた。どうか私の生涯愛する妻に、カロも貴女を母と慕っている。」
トゥイー「光栄です、閣下。どうぞよろしくお願いいたします。」
公爵邸のムード満点のガゼボで抱き合う二人。
それを二人に見えない角度から見守る使用人ズ
ムンク(家令)「いや~上手くいって良かった良かった」
侍女1「えぇ~?あれでいいんですか?」
ムンク「何だね?二人が真の夫婦になるのが不服だと?」
侍女2「いえ、ムンク様、そういうのではなくてですね~」
ヒーニー(侍女頭)「あなた達(侍女ズ)の思うところは分かるわよ。でも、愛の形は人それぞれよ。」
侍女1,2「でもっ!どこの世界に『斧』差し出してプロポーズする人がいるんですかぁ!」
公爵が差し出した薔薇の花束に隠れるようにあったのは、一振りの斧。機能性はもちろん、繊細な彫刻が施され柄にはカトゥイーヤの瞳の色と同じルビーが埋め込まれていた。
侍従1「いや、まさに今ここにいるし…」
護衛騎士「奥様、めちゃくちゃ嬉しそうだぞ?」
トゥイー「まぁ、なんて握りやすい斧♡手に吸い付くようだわ♡長さもちょうどいい♡」
少女のように目を輝かせて斧を握りしめるカトゥイーヤ。
公爵「そうだろう?君の体格にあわせた専用だよ♡さぁ、試してごらん。」
いつの間にか薪用の木がセッティングされていた。ぱっか~んという心地よい快音がガゼボ内に響き渡る…。
トゥイー「切れ味抜群~♡サクサク割れるわ~♡」
後に伝説と呼ばれる斧夫人爆誕の瞬間であった…。
使用人ズ「………斧………」
お読みいただきありがとうございました。




