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第91話 憂悶

――――ブラキニア城 とある地下室。


「このままではやはり疲弊するばかりか」

「しかし、あやつを退ければ北の進行を手助けする事にも繋がる事に……」

「ふむ……」


 周りが全て石で出来た陰湿な一室。直径五メートル程の円型の木製テーブルに老人と思わしき五人が等間隔で座っていた。テーブルの中央には燭台に灯された一本の蝋燭のみ。全員が黒いフード付きの外套を被っており、口元しか視認する事は出来ない。

 その中で怪しく五人が会話を交えていた。


「北には真実の爪痕(トゥルース・スカーズ)がある以上、容易に手出しは出来ない筈であろう。このままガメルの不在が続く事態は如何せん都合が悪い」

「それもそうだが南西諸国はどうするつもりだ」

「そうじゃ。黒王(こくおう)不在に勘付けばこの内乱に乗じて反旗を翻す可能性は大いに有り得る。ホワイティアも未だ白王(はくおう)不在と聞くが、それも定かでは無い以上迂闊に内情を知られる事は避けるべき」

「だが、どうするつもりじゃ?」

「うーむ……」


 重苦しい雰囲気の中、沈黙を破ったのはゆっくり、ゆっくりと鳴り響く高下駄の音だった。


「いつまでそんな陰湿な会話を続けているのかしら? オ・ジ・サ・マ・達?」


 暗がりからは真っ白な足袋に漆黒の高下駄、すらりと伸びた素足に太腿、腰へと徐々に明かりに灯され、一人の女性が姿を現す。


「そんなんだから歳だけ重ねて髭が御立派になった訳じゃ無いでしょう? 中央(ちゅうおう)黒染老(こくせんろう)ともあろう御方達が何をそんなに怯えているのかしら?」

恍惚(こうこつ)の……」


 部屋の入口に立っていたのは、八基感情(ポルティクス)上位体(ファースト)である恍惚のエクスだった。

 花魁の様に肩を露出させて着崩した着物は、黒色を基調とし花車や黄色を主とした模様をあしらった非常に派手やかな出で立ち。花魁にしては異質の黄色の髪の毛は菊の様に盛りに盛られていた。華やかな(かんざし)を幾つも輝かせ、歩調に合わせ揺れ動く。


 くっきりとした大きな瞳は黒く、目尻には真っ赤なアイシャドウ。口紅も同様に赤く、やはり化粧を見る限りでは花魁そのものである。しかし左目は髪の毛で隠れており、正面からは視認出来ない。


「今回は君の出る幕では無いよ。恍惚の」

「あらぁ? つれないわねぇ? アタシだって興味があるのよ? 今後のブラキニアの立ち位置」

「君達はそうやっていつも物事が大きく動こうとする時に現れよる。掻き乱されたこの国も漸く落ち着きを取り戻したと言うのに」

「昔の事を忘れたとは言わさんぞ」

「なにぃその言い方ぁ? アタシを年寄りみたいに言わないでくれる?」

「不気味極まりない。ワシらがまだ赤子の時から姿形が変わっておらぬのであろう」

「喧嘩を売ってるのかしら?」


 内掛けから伸びる指先の黄色く長い爪を見て、一人が焦りの色を見せる。


「ま、まあ待て恍惚よ。君であればワシら五人の息の根を止める事は造作も無いであろう。堅物の年寄りと思って穏便に頼みたいのじゃがの」

「あら、心外ね? 殺すつもりなんてないわ。殺すくらいなら……ウフフ」


 見た目とは裏腹にエクスの下卑た表情は、五人の背筋を凍らせるものだった。舌なめずりをした卑しい口元からは今にも涎が垂れてきそうである。


「ウ……そ、それはそうと、態々君が出て来るとは何用じゃ。言伝であれば下位(した)の者でも良かろうて」

「この国の王子様に、久しぶりに会いに来たのよ」

「そ、それだけの為に?」

「いいえ、違うわ。不干渉ではあるけれど、これからも友好的な関係を築きたいと思ってお手伝いをと。それに助言も致しますわ。ンフ♪」


 優しく微笑むその顔は美しいの一言。コロコロと表情が変わるエクスに一同は困惑していた。扱い切れない、これが八基感情の上位体なのか。仮に異質な力を持っていなかったとしても、世の男性は淫猥な仕草、表情に心落ち着けないのだ。


「……手伝いじゃと?」

「ええ、南にあるサウザウンドリーフへと観光がてら向かおうかと」

「なっ!? ……何が目的じゃ!!」

「お前……まさかっ!?」

「口の利き方には気を付けなさいな……」


 エクスから漏れ出る異様な雰囲気に一人が慌てて立ち上がり、離れる様に身構える。


「待て恍惚よ! こやつはまだワシらの中でも若造。君の扱いを知らんのだ」

「次は……無いわよ」

「……」


 その場に張り詰める緊張感にも動じず、今まで一度も言葉を発していなかった一人の老人が口を開いた。


「エクスよ。お互い無駄な時間を浪費する事は止めようでは無いか」

「あら、流石中央黒染老の重鎮。分かってるじゃないの」

「ただの年寄りに嫌味は通用せんぞ」

「貴方のそういうとこ、好きよ。御爺様♪」

「……して、その助言とやらは」

「簡単な事ですわ。先ずは――」


 エクスは流暢に助言とやらを話し始めた。中央黒染老の五人はただその言葉に耳を傾け、悩みに悩むのだった。その後、エクスは不敵な笑みを浮かべその場を後にした。



――――――



「そ、そこまでする必要があるのか?」

「だが、あやつの言葉にも一理ある。このまま長引かせるよりは幾分かマシじゃろう」

「しかし! それではこの国自体までもが危うい状況に!」

「さして変わらんじゃろうて」

「ふむ……」


 恍惚のエクス、彼女は何を話したのか。南方にあるサウザウンドリーフへと向かう目的とは何なのか。中央黒染老の五人は項垂れ、暫くその場を動こうとはしなかった……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ザハルさん達があずかり知らぬところで、別の八基感情が勝手に動いている感じ……不穏すぎる……。≪恍惚≫のエクスさんの見た目はかなり好みですー!和風とか花魁とか、めっちゃ華やかで妖艶なイメージ…
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