第213話 崩れる急造イカダはイマの姿?
「さーて! 前回までのあらすじはぁ~!?」
世界視に映し出されたオスワルトは、暦刻の休息地の一室で元気一杯にナレーションの如く話始める。
「ねえ、こんな事に僕の色力を使わないで欲しいんだけど」
「良いから! 黙って付き合って! こうやってみんなの動向を記録するのも観測者の役割なんだから。シューは黙って協力するの!」
「まあそうだろうけど……」
「そゆこと♪ さーて! 始まりました! 物語もいよいよ大詰め! この世界に突如として訪れたリム・ウタ! 白の国ホワイティアの内紛を収め、流れのまま対抗勢力である黒の国ブラキニアの内乱にまで食い込み、一時の終息の起点となった! 更には商業の中心であるアカソへと切り込み、問題視されていた最強のティアルマート一族さえも懐柔させた一行は、漸く世界の理に近付くべく鍵の石板を入手する為にナインズレッドへと向かうううううう!」
「正しくはそこへ向かう為に四彩島を経由するだけなんだけどね」
「水を差さないの! さぁ果たしてリム達一行を待ち受ける困難は茨の道なのか、それとも地に足のつかない雲の上を歩くが如く不明瞭な道かぁあああ! この先も目が離せない……ッ! 次回、万事休すッ!?」
「大詰めって言うけど、まだ核心にも迫ってないんだから漸くスタートラインって感じじゃないかな。ねえ、いつもこうやって残してるけど誰に向けてるのさ」
「誰って、みんなだよ♪」
「みんな、ねえ」
室内を走り回るオスワルトを生温かく見守るシューは、記録を確認すると世界視を閉じる。
「みんなって言ってもさ、これを見る頃には世界がどうなってるかも分からないのに」
「それは違いますよ、シュー」
部屋の隅で相変わらずロッキングチェアーに揺られていたマンセルは、ゆっくりと立ち上がるとシューの頭を撫でた。
「先が分からないこそ残すのです。人はそうやって歴史を紡いできた。悪しき事も良き事も、生きてきた道が正しいかは当事者には分からない。未来に生きる人間がそれを善悪だと論ずるものです。過去は今を生きる人達の道標。人は過去に通ってきた道を見直す事で、次に進む道を決めるもの。何か壁に直面した時、新たな道へと繋げる為に過去を倣い越えるのです。これはいわば未来の人々への教科書。過去を生きた人は、現在の人達へと繋げ、未来へ伝えるのです」
「そういうものなの?」
「ええ、そういうものなのですよ。私達も数秒前は既に過去の存在。この場も含め私達は全て過去現在未来という紡ぎをリフレインしているのです」
「ふーん、難しい事はよくわかんないけど」
「いずれ君にも理解して頂けると信じています。今はそれを難しいと捉える事が前進ですよ。理解のスタートラインは疑問からなのですから」
「ふーん」
「マンセル! マンセル!」
「はいはい、なんでしょう」
「アタシ達、サイコーだよねッ!」
「ええ、とてもサイコーですよ。引き続きよろしくお願いします」
「まっかせて♪」
「さて、彼らはこの世界の未来にどんな色を一滴混ぜるのでしょうね」
世界視の先には、そんな深く広い世界と観測者達の意味深な笑みに見守られているとは露知らず、リム達が四彩島への向かう準備を進めていた。
「おがあぢゃん! どうじだらいいのぉおおおおお!」
「うっさいハゲ! 誰が母ちゃんじゃボケ! 四彩島に行く言うたんはアンタやろが! なんとかしてこの海峡を渡らなアカンのに、グッジャグジャな顔してしがみ付くなアホンダラ!」
「だぁあっでえええ! 丸太のイカダは直ぐ壊れるし、ドラドラに乗って行くにも狙い撃ちにされるって言うんだから仕方ないじゃぁああああん!」
リム達は立往生していた。それは数日前に遡る――。
親父島の南西海岸へと徒歩で辿り着いたリム達は絶望した。遥か向こうに見える霞掛かった島、四彩島。見える、つまり辿り着ける筈である。しかし、現状はそう甘くなかった。親父島の周辺は勿論の事、ジャンパール本島と四彩島間にある海峡は、東西からの海流がぶつかり合い激しく渦を巻いていた。右へ行けば渦、左へ行けば渦。大小様々な渦潮は、この海峡の海路が如何に商業路として向いていないかが伺えた。
「なあ、この渦潮なんとかならないの? 流石に泳いで渡るにも距離はあるし、こんな所に商業船が通るとも思えないんだよなぁ」
「知るかボケ。アンタが行くって言うたんやから何か良い案でもあったんちゃうんか」
「無い! ンガハハハ!!」
「アカンわコイツ。脳みそすっからかんやで、なあこなつ」
「にゃぁ~ん」
ルシエの警告にもあった。空、海共にソルウス獣軍国家と四彩島の監視下にある為、下手な行動は避けるべきだろう。一番安全なのは商船だが、如何せん荒れ過ぎている。つまり、海路であればまだ接岸間際までは許してくれるだろう。そう思ったリムは海岸に流れ着いた古木を搔き集めイカダを作る事にしたのだ。
「出来たッ!! リム特性、スーパーストロングウルトラハイパーめちゃめちゃ凄いイカダ君一号!!」
「二号も作るつもりか」
「そう! 失敗前提で改良を重ねるのが発明家! つまり、オレはこの海の覇者になる男だ!」
ボロッボロに腐った古木に、その辺にあった今にも千切れそうな植物の蔓を無造作に巻き付けた一号は、些細な波で擦れ合いゴリゴリと崩れていく。
「儂はパスや。こんな馬鹿か阿呆しか乗らん様なもんで渡れる気がせーへんわ」
「オレもパスだ。オレでももう少しマシな物を作れる」
「ザハルに同意する」
腰に据えてある長剣でイカダを小突くアルは、千切れる蔓を見て小さな溜息を付いている。
「あッ! 壊したら罰金一億ユーク! 損害賠償請求!」
「そんな価値も無い物を壊した所でとやかく言われる筋合いはない」
「価値は作った人の心だ! 一号君を傷付けた! オレは悲しい!」
「ええからはよ行けや」
リムを蹴とばしイカダに一人乗せると、ミルとタータが楽しそうに海岸から押し出す。
「さあ、今日が英雄譚の第一幕! オレに着いて来なかった事を後悔するんだ! 航海だけに、なんつって!!」
数分後、荒れた海から崩れた古木をビート板の様にして泳いで戻ってくるなんともみっともない姿があった。
「で? どうする」
「待て待て! もう少し挑戦という事に対して労って貰いたいよ!」
「分かり切った事に労っていたら、オレの口が持たん」
「キィ! 言ってくれる!」
そこから数日、海岸での野宿が始まった。食料はルシエの居城から貰って来た物でなんとか食いつないだものの、勿論限界は来る。息を巻くとまでは言わないが、それでも海を渡ると威勢良く言った手前、戻るのもリムのプライドが許さなかった。と言いつつ背に腹は変えられない。呆れたミルとドームは、罰として周囲の警戒で巡回していたラフームとラーハム兄妹に、なんとか食料だけでもと供給してもらっていた。なんとも不甲斐無い、リムは何とも情けない顔でマミに泣き付いていたのだ。
「おがあぢゃああああん、どうじよおおおお! パンヅ見ぜでぇええ」
「パンツ見せてどうにかなるんやったらええで。その代わりなんも出来ひんかったら次は鼻から爪ブッ刺して、脳みそに直接毒流し込んだるからな」
「んぐ……」
みっともない、これが一行のリーダーである。しかし面白いものだ。全員が溜息と悪態を付きながらも、決して行く先を変えるという代替案は出さなかった。全員がリムを立てている事が伺える。それも分かってかリム自身も何とか出来ないものかと思慮するも、そう簡単に妙案が思い付く訳でも無い。行き詰った一行は今日も一夜を過ごすのだった。
希望に満ち溢れた冒険者や旅人、胸を躍らせる新しい物語が順風満帆に行くなど稀である。リム達も例に漏れず、新章も前途多難のスタートを切る。
向かう先は、四つの色の国がせめぎ合う四彩島。この島で起こる出来事はリムのみならず、一行全員の未来を決める物語となるであろう。
――四域滓檻――編 開幕。




