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第206話 焼尽!猛る炎竜

 その頃、ルシエと激しい戦闘に苦戦を強いられていたリムはと言うと。


「ダメだ! 幾ら相手の能力を吸収できたからって言っても力の差が有り過ぎる!」

「当たり前よ。たかが人間風情が色力(ちから)を真似た所で、竜人の私に敵う筈も無いさ」


 水竜がリムの左側面に回り込むと、床を抉り破片を飛ばしながら激流となって襲い掛かる。辛うじて飛び退き回避するも、旋回した後にまた襲って来る水竜に一向に攻勢へと転じる事の出来ないリムは、合わせる様に(にわ)か水竜をぶつける事で勢いを弱める事しか出来なかった。


「そんな事じゃいつまで経っても私をその気にさせられないよッ!」

「んなこたぁ分かってんだよ! だけどこれは無理があるだろ!」


 後ろに下がってばかりでは埒が明かない。活路を見出せないかと思慮するリムだが、ルシエの前方でうねる水竜を前に力の差を感じざるを得ない現状に焦りを隠せないでいた。


「どうした、異能を持っていても何も出来ないの? どれだけ威勢が良くても所詮は人間。今までの蝿と何も変わりはしないね。行きなッ! 何度でも、幾らでも攻め立ててあげるさッ! 水竜激海嘯(レヴィアタン)ッ!!」

「んなろあああああ! 左ばかり狙いやがって!」


 再び左方向からの激流を前に、リムはある事に気付く。


(さっきから左ばかりッ! 待てよ? 左?)

「どうしたのよ。潔く諦めて死ぬ? まあ、それでも私は構わないさ。大口叩いた所で結局他の人間と同じだったって事」

「……」


 リムは迫り来る水竜激海嘯(レヴィアタン)を制御するルシエの右手を見ていた。右手首を時計回りに捻り、右回転の激流はそのままリムの左側面へと回り込む。避けても避けても体勢を立て直した水竜は必ず左側面から襲って来てた。


(まさか、ね)


 そのまさかだった。半信半疑だったリムは、避けたと同時にルシエの水竜と同回転の水竜激海嘯(レヴィアタン)をぶつけるのではなく同じ進行方向に受け流す形で生み出してみせた。すると右回転していたルシエの水竜に更なる回転が加わった事で、制御を失い壁に激突したのだった。


「なッッッ!?」

「なるほどぉ、欠陥発見♪」


 ニチャリと笑みを浮かべたリムは確信した。そう、彼女の水竜は彼女自身から生み出された回転以上の力が加わると制御できなくなるのだった。


 壁に弾ける水飛沫が再びルシエの右手に集まり始める。更に疑問が生まれる。何故元に戻ろうとするのか。この世界でも無尽蔵にある水を、操作する為に生み出すのであればわざわざ再生させるのでは無く、新たに造り出せば良い。この世界でも稀有である混色派生(ミキシング)ではない純粋な二色を有する竜人。彼女の色素(しきそ)を以てすれば幾らでも生み出せる筈。それなのに何故。


「もしかして一匹しか出せない?」

「フンッ! アンタ如き一匹だけで良いのよ」

「ふーん」


 リムは両手を前に突き出すと、俄か水竜を二匹同時に手に纏わせて見せた。


「だから何だって言うの。増えた所で二番煎じの能力じゃ扱う事すらままならないと言うのに」

「やってみるって言葉があってね! 何でもチャレンジなんだよッ! 当たって砕けろ! やらない後悔よりやって後悔! こちとら命掛かってるだよッ!」

「ッ!?」


 リムの力みに呼応した二匹の水竜は、先程よりも回転速度が増し水飛沫を上げている。その光景に苛立ちを隠せないルシエは、徐に左手を眼前に持ってくる。


「何か勘違いしている様だから言っておくよ。私の名前はルシエ・ティアルマート。紺紅(こんこう)祖竜(そりゅう)は水だけでは無いって事をね」


 ルシエは左拳をゆっくり握ると、徐々に熱揺らぎが発生していく。色素は毛色の顕著に表れる。以前黒法師の説明にあった通り、ルシエは左右対称に赤と青の頭髪。二色の素を有している事は歴然であるが、ここに来てもう一方の能力を発現させた。


炎竜赫熾獄(サラマンダー)、生意気なアイツを残渣(ざんさ)も残らず消してしまいなッ!!」


 左手周辺の熱揺らぎが超高温を物語っている。真っ赤に、熱を帯びた炎の竜は白くも見える程だった。右手に纏う水竜の水飛沫が炎竜に触れる間も無く蒸発し、その水分さえも残さぬ程に空気中に還っていく。


「おいおいおいおい、聞いてねえよ! なんだそりゃ! こっちまで熱気が来てるんですけどぉ!!」

「コイツを見せた人間は……アイツくらいか。あの青い炎も厄介だったけど、それに比べればアンタなんか赤子みたいなものよね」

「冗談キツイよ! そんなのとやり合える訳ねえ! アル、アルは何処だぁあ! 熱なら十八番だろおおおおお!」

「そうやって直ぐに他人に頼る。それが人間の嫌いなとこなんだよッ! 行けッ!」


 左手を突き出すと、炎竜赫熾獄(サラマンダー)は空気をチリチリと裂く様にリムの右側面から突進を繰り出した。それと同時に左側面からは水竜激海嘯(レヴィアタン)も挟撃してくる。万事休すか、リムは縋る思いで曖昧な領域(グレーゾーン)を展開した。


「頼むッ! 回数は限られてるけど使うしか無え! 持ちこたえてくれッ!」


 押し潰されそうな水圧と焦げ消えそうな程の熱気に挟まれ、リムは固く目を閉じ歯を食いしばる。


「んならぁあああああああああああああッッッ!!!!」

「面白い色力だったよ。もう見れないのが残念だけど」


 獄炎と激流に包み込まれたリムを前に、ルシエはほくそ笑むのだった。

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