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第158話 嵌められた歯車は潤滑に回る

 マミが自身の出生からこの世界についてを知ってから一年、何も変わらない世界が過ぎて行った。だがそれはマミの周囲だけの話。

 世界各国では虹の聖石(レインボーウィル)を希求し、隣国を物色する様に戦争が繰り広げられていた。以前より続いていたホワイティア王国とブラキニア帝国の小競り合いが激しくなってきた頃である。


 マミは日々の日課に、ダロンとの訓練をする様になっていた。アカソ外の遠出は決して許されなかった彼女は、その憂さ晴らしにとダロンに戦いを挑む様になる。一年前はダロンの攻撃を避け、爪を立てたもののそれはまぐれだった様だ。実力は確実にダロンが上。

 次第にダロンの技術を身に付けようという思考に切り替わり、日々の鍛錬へと昇華していく。戦術、身のこなし、生への貪欲な心構え。マミは負けず嫌いだった。綺麗なドレスが泥だらけになろうと、美しい顔が砂に塗れようともダロンに食い下がっていった。


 そんなとある植月(うえつき)の昼下がり。力ある者は気付かない訳が無かった。(とき)が止まった感覚。いや、本来なら止まった刻を感じる事は不可能な筈なのだが、それでも分かる者には分かるのだ。一瞬、ほんの一瞬身体が強張り一時停止した感覚。

 そう、それはアカソより北東の位置にあるロングラス大平原にて、リムが刻を吸収しミルとタータの衝突を防いだものだった。


「な、なんや!?」

「御嬢様、これは……」

「爺も分かったか!?」

「はい。身体が一瞬止まった、いや世界が止まった気がしました」

「なんやこれ、爺!! 世界にはこんな事できる奴もおるんかいな!!」

「いえ、私はこの様な能力を持った者は存じません。関わり合いになるには少々危険かと」

「いや、面白そうや! 儂も相当爺にしぼられたからな! それなりには強いんちゃうか? なあ、そろそろ外に出たいんやけどアカンの?」

「駄目です。旦那様の言い付けはお守り下さい」

「いーやーや! 儂は行きたい! あの半透明の壁みたいなのが凄い気になる!」

「駄目です」

「行くんじゃ! 楽しそうや!」

「駄目です」


 遥か彼方に(そび)える灰半透明の円柱を見て、興奮が収まらない様子だ。


「駄目です。御嬢様の身に何かあれば、私は旦那様に顔向けできません」

「ああん? オトンがなんや! あんな名前ばっかのんがオトンとかもうええ加減飽きたわ! 儂は爺が一番好きやで」

「であれば私の言葉に耳を傾けて下さいませんか。あの円柱、物凄い色力(ちから)を感じます。恐らくアレを感じた者は私達だけでは無い筈。暫し、他国の動きに注視した方が良いと思われます」

「チッ……爺がそこまで言うならしゃーない。でもな、そろそろ本当にどっか行かせてくれてもええやろ。儂もそんな弱いとは思わんで」

「そうですね。旦那様に相談してみましょうか」

「ホンマか!? ホンマかぁあ!? やった! 爺大好きやぁ!」


 年寄りに抱き付く年頃の女性。何とも微笑ましい光景である。



 更に時が進む事、半月程。リム一行がアカソへと渡航した頃である。


「なあ爺」

「なんでしょう」

「ちょっと街に出てきてええか?」

「御一人でですか? ダメです」

「ええやんかー! いつも誰かが着いとるんはいい加減いじっかしいねん!」

「駄目なものはダメです。何かあってからでは遅いのです」

「分かったわ。ほな先に準備しとくでな、誰でもええから付き人寄越しや」

「只今」


 マミは渋々自室に戻って行くが、勿論大人しく待っている訳が無かった。


「キシシ。爺は儂の言う事なら信じてくれるやろ思たら大正解や。抜け出す位訳無いねん」


 陽が昇り始めた午前の事。マミは一人でアカソの商業区へと抜け出して行った。

 街へと到着したマミは、何処から周ろうかと悩みながら足を進める。いつもの事だった。いつも通り商人に声を掛け、街の活気を確かめるだけ。そう、いつもと変わらない筈だった。彼と出会うまでは。


「はあ、偶に居るんやなぁ。どうせ人攫いの類やろな。儂に目ぇ付けて着け回すんはストーカーやで……どうしよかな」


 すぐさま敵意の視線に気付くマミ。しかし、何もしてこない以上は放っておくしかない。仕方なくいつもの通りのルートで街を周る事にした。


「一人、か?」


 ずっと纏わり着いて来る嫌らしい視線。嫌気が差したマミは、処理する事を決め路地裏へと姿を消した。


「チッ、気付かれたか!」


 強面の如何にもな恰好をした人攫いは、マミの後を追う様に路地裏へと走るが既に姿が無い。


「チッ、見失ったか。ん? あれは……おい、そこの角」


 男が声を掛けた相手は、灰色の長い髪をした頭の左にだけ角を生やした女性だった。


(こんな路地裏に一人女の子たぁ度胸がある。あの姫様は諦めてコイツで良いか)

「おい、お前だ灰色の髪」

「オレは耳が悪い、聞こえない聞こえない」

(オレ? チッ、男かよ。紛らわしい髪しやがって)

「声に出てんぞ」

「ハッ! なんてこったい! 諮ったな!」

(な、なんやこいつ)


 後は知っての通りだ。リムに声を掛けた人攫いはその後、数分と経たずにマミに首を落とされ絶命する。


「だから、アンタもコイツみたいに儂を攫うんかって聞いてん」


 この二人は世界の歯車から弾かれた、世界的にも特異な色力を持つ者同士の、極めて運命的な出会いだった。


 どこかでカチリと嵌った音がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この章の最初の方で、リムくんがマミちゃんと出会った場面をもう一度こうして読むと、ただの偶然ではなく運命的な出会いだったんだと感じます(*'ω'*)
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