クリティドと二人で視察 ⑤
「もし可能だったら群生地についてもっと詳しく聞いてもいいかしら? 確か、三百年ほど前からこの地では薬草が有名なのよね?」
私がそう言って問いかけるとゴッチルは驚いた顔をした後、笑った。
私がこうやって事前にこういった情報を集めていることが驚きだったのかもしれない。もしかしたらただ興味本位で此処に来ただけと思われているのかしら。……私はまだ十八歳の小娘でしかないから、そういう風に思われる可能性も十分あるわね。
立場的にはクリティドが認めてくれているから、私は公爵夫人だけれども……。その名にふさわしい様に認められるためには私の行動が重要だわ。
「そうですね。よくご存じで」
「出来る限りクーリヴェン公爵領について知りたいとそう思ってますから。とはいっても……まだまだ浅学ですけれども」
私はまだまだ知らないことが山ほどある。だからこそ、そう言った言い方をする。
私はバルダーシ公爵家の一件が片付いてから、ようやく学びだしたばかりでまだまだなのだ。
「このような領地のことまで知ってくださろうとするのは嬉しい限りです」
「当たり前ですわ。いつか私はクーリヴェン公爵領について誰よりも詳しくなることも目標なのですわ」
まだまだ私は、知識が足りない。けれども学び続ければ結果に繋がるのではと思っている。
いつか私が、公爵夫人としてなんでも答えられたら。
周りから何を聞かれても、何でも知っている状態になれたら。
それでいて公爵領のことをクリティドと一緒に幾らでも話せたら――きっと幸せなことだろうと思う。
今はまだまだ足りないことだらけでも、これから頑張ればそう言う未来を手にすることが出来るようになるかもしれない。
私が質問した一つ一つのことを、ゴッチルは丁寧に答えてくれる。嬉しそうにしているのは、公爵夫人という立場になった私がこうして領地に興味を持っていることを喜んでくれているからだろう。
私とクリティドのことは、好意的に噂はされている。
大変な目に遭った存在が、見目麗しい公爵に救われるなんて――まるで物語か何かみたいなもので、素敵だとそう言って貴族達は笑ってくれたりする。特に女性陣はね。だけどめでたしめでたしで、そこで終わるのが人生ではない。
ただ公爵家の屋敷の中で穏やかに何もせずに、守られて今まで通り過ごすことだって出来る。そういう選択肢を選んだとしてもクリティドは許してくれただろうとは思う。そういう風に私がただ子供達の世話をしているだけでも満足はしてくれるだろう。
うん、でも私は……公爵夫人として生きていくからこそ、ちゃんとしたかった。
「傷ついた魔力回路を治すための何かって、こちらに存在していたりするのでしょうか?」
そして話の流れで、そのことも聞いておく。
「魔力回路ですか……そのような話は聞いたことはございませんね。ただ探してみますね」
やはりゴッチルも魔力回路をどうにかするための何かを知らないらしい。ずっとこの土地を管理している方でも知らないとなると、やっぱり難しい問題なのだろうなと思う。
私の魔力回路は傷つきすぎている。
だからすぐに回復するようなものは見つかるはずがない。応急措置のようなことは出来なくもないけれど……結局それだけなのよね。毎日飲み続ければ回復するというわけでもなくて、飲んでいても回復するわけではない。
――ゴッチルは、私の状況を改善するための何かがこの領地にないことを申し訳ない気持ちになっているらしい。
そんな風なこと、考えなくていいのにな。私がこの場所にやってきたのは、少しの期待は有ったけれども――それよりも薬草に対する興味関心が強かったから。
私は魔法がまた使えるようになれば、それはそれで嬉しい。でも治らないならそれはそれなのだから。
「少しでも探していただけるのならば有難いですわ。私も……私と同じ状況の誰かをいつか救えるようになれたらとも思いますの。だから薬草について詳しくなりたいと思っているのよ」
今はまだなくても、同じように傷つき切った魔力回路を例えばどうにか出来るなら。
それでいて詳しくなっていければ今はまだない病気に対しての薬を生み出すことも出来るかもしれない。
……まだ薬草の群生地に向かう前なのに、もうこんなにワクワクしている。
ゴッチルと話す私をクリティドは優しい目で見ていた。
それから群生地に向かうまでの間の空いている時間はゴッチルや他の者達に薬草について教えてもらったり、調合室を見せてもらったりするのだった。
――そして準備が整ったのは翌日になってからだった。
丁度少し前に魔物が出たとかで、それらは騎士達が討伐を行ってくれたらしい。その討伐した魔物の素材も薬の調合に使えるそうだ。
この辺りに生息している魔物の素材って、薬などに色々と使えるのって凄いわよね。
私では想像がつかないような素材の使い方があるんだなと驚いたわ。
何気ないもの――例えば地域によっては捨てられてしまうようなものさえも、使われていくんだなってそう思った。




