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クリティドと二人で視察 ④


 朝、目を覚ます。

 身体を動かして……クリティドが横に寝ていないことに気づく。



「クリ……ティド」



 どこにいるのだろうかと寝ぼけた頭で探す。



 普段過ごしている部屋ではなく、出先だからか、見慣れない部屋。……私はこういう部屋で目が覚めた時にクリティドの姿がないことをどうしようもないほど寂しい気持ちになる。

 なんというか、心細いというか。

 私はクリティドが隣に居てくれるだけでどうしようもないほどに安心してしまっているのだろうなとそう思った。




 大切な人が傍に居てくれるだけで、不安に思う気持ちもなくなっていく。なんだろう、密命を受けて自分一人で頑張らなければならないと思っていた時は――逆に余裕がなくて、これから先の不安とか一切考えていなかった。

 でも今は、クリティドや子供達と一緒に生きていく未来を想像して……彼らが居るのが当たり前になっているから。



 ぼーっとしながらベッドの上に座る。

 コンコンッと、部屋がノックされた。中に入ってきたのは侍女達で、私の身支度を整えてくれる。

 頭が働いてはいない。




 ……やっぱり長時間の馬車移動で、思ったより私は疲れていたのかも。




 屋敷から連れてきた侍女の一部はにこにこしている。ただ初対面の侍女や使用人に関しては、当然のことだけれども私に心を許しているわけではない。

 クーリヴェン公爵領の全ての領民に受け入れられるというのは……現実的には難しいだろう。正直、全員に受け入れられる”領主夫人“になれたら――とそんな想像をするし、そんな私になれたら嬉しいと思うけれど、あくまでそれは理想だわ。



 視線を彷徨わせて、クリティドのことを探す。




「ウェリタ様、ご当主様ならゴッチル様とお話されてますよ」



 そう言われて私は侍女達に案内をされて、クリティドの元へ向かうことにする。




 それにしてもこんなに朝早くからお仕事をしているなんて、クリティドは真面目だわ。なんだろう、淡々としているように見えて――そうじゃないのよね。クリティドってちゃんと領民のことも、領地のことも大切にしている。





 そういう私の前に居る、夫としての……一人の男性としての姿というより領主としての姿も沢山今回の視察では見ることが出来るのよね。そう思うと何だか楽しい気持ちになる。

 クリティドと私は夫婦だけれども、まだまだ互いに知らない一面も沢山あるのだ。私とクリティドって思えば出会ってそんなに経っていない。




 バーシェイク公爵家の件も、結婚も……本当につい最近のことなのよね。

 私の人生において最も濃い期間だったと言えるかもしれないわ。それを乗り越えたからこそ、こうして今があるのだもの。



 これから私はクリティドの知らない一面を沢山見て、それでいて私の情けない一面なども含めて彼に見せてしまうことにはなるだろう。夫婦だからこそ、そういう意外な部分も見たりするものだわ。

 ……私はきっとどんな部分を見ても素敵だなと思えるだろう。そう確信はしている。だけどクリティドはどうだろう?



 彼は、私のことを愛してくれている。大切にしてくれていて、その視線や言動にいつだって嬉しくなる。だけど理想と違う部分を見せてしまったら……と呆れられたり、引かれてしまったりしないかしら……なんてそんなことは少しだけ心配してしまう。

 クリティドが話しているという部屋へと案内される。真剣な表情でゴッチルと会話を交わしているのを目撃する。



 かっこいいな。

 じっと見つめて、ただ素直にそんなことを思う。




 それにしてもゴッチルと何を話しているのだろうか。私も混ざっても問題がないかしら?

 そんなことを思いながらも、部屋の中へと足を踏み入れる。

 そうすればクリティドもゴッチルも私に気づいてくれた。




「起きたのか、ウェリタ。おはよう」

「はい。おはようございます。クリティド、ゴッチル」



 にっこりと笑いかけて、挨拶をする。先ほどまでぐっすりだったから、まだ少し頭は働いていない。

 ただクーリヴェン公爵夫人として、私はしっかりしたい。情けない部分を見せるのは嫌だなと思う。

 こうやって視察に来ている間は、気を抜かないようにしないと!

 普段過ごしている屋敷だったら……侍女達にも私の素は知られてしまっているし、気を抜いていられるけれど、今は“クーリヴェン公爵夫人”として視察に来ているのだもの! そう思うと気合が入るわ。




「何を話していらっしゃったのですか?」



 私がそう問いかけると、クリティドとゴッチルが返事をしてくれる。



「薬草の群生地周りの状況を確認していたんだ」

「数は少ないですが……あのエリアでは魔物を見かけることもございますから」



 そう言われてはっとする。



 私は薬草の群生地に行きたいとだけ考えていて、そう言った危険性について頭になかったわ。当然のことだけれども薬草と呼ばれる物は人だけが好むわけではない。魔物だって傷が付けば薬草を求めてやってくることもあるし、そう言ったものを好んで食すような魔物も居ないわけじゃない。



 そこまで考えられていなかったことは反省しないと! 特に私は今、魔法を上手く使えない状況だから、周りに守ってもらうことしかできないもの。


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