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クリティドと二人で視察 ②

「ウェリタ」





 優しい声が聞こえてくる。

 私は何をしていたんだっけなんて、そんなことを考えながら目を開ける。視界が上手く定まっていない。

 起きたばかりで頭があまり働いていない。





「クリ……ティド?」




 ぼけーっとしている私は身体を起こす。そのタイミングでがたんっと馬車が動き、少し体勢を崩した私はクリティドに受け止められる。

 ああ、そうか、馬車の中に居たのだったっけ。そうだ視察に行くためにこうして此処にやってきたんだ。

 私はそのことを思い出して少ししゃきっとした顔になる。





「大丈夫か?」

「大丈夫……。私、寝てました?」




 まだ寝ぼけている気がする。なんだか自然と砕けた口調になってしまっている。



「ああ。ぐっすりだった。もうすぐ目的地に着くからそろそろ起きていた方がいいと思ってな」

「うん。そう……思う。情けない姿……、領民に見せられないわ」



 そう答えながら、クリティドの前にとても情けない姿を見せてしまっていると、何とも言えない気持ちになる。だけどまだ眠たい。

 そんな私にクリティドは飲み物を飲ませてくれる。それを飲むと、少し目が覚めてきた。




「クリティド、膝をずっと借りていて申し訳ないわ」

「気にしなくていい。君の寝顔はずっと見ていられるから」



 そんなことを言われて、ぼっと顔が赤くなる。

 本当にさらっとこんなことを言ってしまうのだから、いつもドキドキするわ。



「そ、そうですか。なら、良かったですわ。それにしても初めて会う方ばかりがいると思うと緊張しますね」

「もっと気を楽にしてもらって構わない。クーリヴェン公爵領ではすっかり君の噂は広まっているようだからな」

「……そんなにですか?」





 私はクリティドの言葉を聞きながら驚く。それにしてもよろけて受け止められた後もずっとクリティドに抱きしめられたままなのだけれども! いつまでこんなに密着している状況なのかしら……!!





 確かに私とクリティドの噂は広まっているとは知っていたけれど、これから行く地域でも広まっているものかしら?

 それにしても領民達の間でもそうやって広まっていると思うと、少しだけ照れくさいわね。もちろん、嬉しいけれども。

 貴族間の間では好意的には受け止められているし、私達の暮らしている屋敷のある街では私のことも慕ってもらえている……とは思っている。




 けれども少し離れた場所だとどうなんだろうか?

 実際に私やクリティドの一緒にいる姿を見ていない人たちだと、ただ噂だけが広まっていてよく思われたりしていない場合もあるかしら。





「そう不安そうな顔はしなくて大丈夫だ。事前に調べた限り、基本的には私達の話は好意的に受け止められている」

「基本的にはということは、受け入れてない方も当然おられると?」

「少なからずはいるかもしれない。なるべくウェリタには嫌な思いをさせないようには気を付けるが……そんな気持ちをさせてしまったらすまない」





 そんなことを口にするクリティドに、私は思わず笑ってしまう。だってこの人はあまりにも優しすぎるなと実感したから。分かりにくくても、冷たく思われがちでも……クリティドはずっと最初から優しかった。

 こういう優しさに触れると、大好きだなっていつも思う。




「大丈夫ですわ。それに私は、何かあった時にちゃんと対応が出来る公爵夫人になりたいんですよ。クリティドに守られるだけじゃなくて、守れるようにしたいの。だから寧ろそう言う大変な思いも経験させてほしいと思うのです」

「そうか。……なら、対応は君にも色々任せるとは思うが無茶だけはしないでくれ。またバルダーシ公爵家のようなよからぬものがウェリタに近づいてこないとも限らないからな」

「はい。もちろんですわ。何かあったらちゃんとクリティド達に言います」




 私は誰にも助けを求められないって、自分が死ぬしかないって、そんなことばかりを思っていた。思えばずっと感覚があの頃は麻痺していたのかなと思う。今は凄く、死ぬことは怖い。幸せだからだとは思っている。




 クリティドや子供達と離れたく無くて、ずっと一緒に生きていたいとそう思っている。

 本当にクリティドは心配性だわ。あんなことがあったから仕方がないだろうけれどあんまり心配をかけずにでも過ごせるようにはしたいな。

 私が魔法を使えるようになったら――クリティドは安心してくれるようになるだろうか。

 私はそんなことを考えるのであった。








 そしてしばらくクリティドと会話を交わしているうちに目的地へと到着する。私達のことを迎え入れた領民達の数は多くて驚いた。クリティドがこの地に来るのが少し久しぶりというのもあるからみたい。ただ中には笑顔じゃない人もいた。やはり突然公爵夫人になった私に思う所があるのかしら。



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