クリティドと二人で視察 ①
「母上、父上、頑張ってください」
「僕達、お留守番しておくね」
私はお出かけ用のワンピースに着替えている。動きやすいものを選んだの。日差しを浴びすぎても体調を崩してしまうかもしれないから、帽子も持ってきている。
クーリヴェン公爵領は、夏の時期でもそこまで暑くはない。とはいえ、前世のことを考えると熱中症などの恐れがあるなら気を付けるべきよね。この位問題ないと思って無理をした結果、取り返しのつかないことになったら嫌だもの。
出かける私達のことをティアヒムとクリヒムは、送り出してくれる。
こんなに可愛い子供達と仲良くなれたことが本当に嬉しい。嫁いだばかりの頃は、もっと警戒されていたもの。
私にとって、この屋敷が帰る場所になっているのもとても素敵なことだわ。
「ええ。頑張るわ。お土産も買ってくるから楽しみにしていてね」
正直言って、簡単に治るとは思っていない。私の身体の状況は、なかなかない事例だろうし。クリティドからは気落ちしているのではないかと心配されてしまったけれど、そんなことは本当にないんだ。
私の目的――私がまた魔法を使えるようになるように頑張ろうとしていることは子供達には伝えていない。駄目だった時にがっかりさせてしまうから。
もし魔法が使えるようになったら、子供達二人の前で使ってびっくりさせたりなども出来るかしら。そしたらきっと可愛い姿を見せてもらえるんだろうなってそう思うと楽しみで仕方がない。
時間がかかったとしてもやりたいわ。
「はい。楽しみにしています。母上、あんまり無理はしないでくださいね? あとは父上からなるべく離れないように」
「ふふっ。ありがとう。無理はするつもりはないわ」
じっと私のことを見つめて、心配するような言葉をかけてくるティアヒム。あまりにも可愛くて、頭を撫でまわした。
されるがままのティアヒム。クリヒムが「僕も撫でて」と頭を差し出してくる。なんて可愛らしいのかしら!
私は笑顔になって、二人の頭を撫でた。
「母上、僕、ちゃんと留守番中も勉強するからね。帰ってきたら褒めて欲しいの」
「もちろんよ。視察から帰ってきたら私も頑張ったことを伝えるから、褒めてね?」
私も子供達に褒められたらきっと幸せな気持ちになるだろうなと思って、私はそう言って笑った。
だってね、可愛い息子たちから褒められるんだって思うと私のやる気も倍増するもの。
「はい。もちろんです。母上が頑張ったら褒めます」
「うん。僕も凄いって言うよ」
小さく笑ったティアヒムが頷き、クリヒムも続く。
こんな風に言われると、本当にやる気が倍増するわね! 私、一生懸命頑張るわ。ティアヒムとクリヒムが頑張ったことはどんな些細なことでも褒めようとそうも思ったわ。
そのまま屋敷を出て、クリティドと一緒に馬車の中へと乗り込む。馬車の中から屋敷の方を見るとティアヒムはじっとこちらを見ていて、クリヒムは手を振っていて可愛い! とそんな気持ちでいっぱいになった。
「少し視察に出かけるだけなのにあんな様子で可愛いですわ。ティアヒムとクリヒムが喜ぶようなお土産を沢山買わないといけないですね!」
クリティドに向かってそう言って笑いかけると、彼も笑みを浮かべてくれる。クリティドもきっと可愛いと思ってくれているのね。
こうやって夫婦で感情を共有できるのはとても良いことよね。どんなに素敵な人でも、クリティドが子供のことを可愛がれない人だったりしたら私は好きになれなかったと思うの。
そもそもね、クーリヴェン公爵家がこんなに素敵な場所じゃなかったら密命を受けたことが発覚した後にこんな風に幸せになることなんてなかったはずだ。
だから本当に、政略結婚の相手がクリティドで良かったなぁって改めてそう思う。
「ウェリタも可愛い。それにウェリタも沢山物を買うといい」
「私よりも子供たちのものじゃないですか?」
「いや、君も買うように」
「分かりました。じゃあ、欲しいものがあったら相談しますわね?」
「ああ。そうしてくれ」
クリティドは私にも色んなものを購入してほしいみたい。なんでだろうと思うけれど、クリティドがそうしたいなら欲しいものがあったら伝えようとそう思った。
「クリティドも、何か欲しいものとか、私にしてほしいこととかあったらいってくださいね? 私なんでも叶えますわ!」
クリティドから何かを与えられてばかりな感覚になるので、私もクリティドに何か返したいと思ってそう口にする。
クリティドは笑ったかと思えば、私の手を引いて、そのまま私の頭を膝の上に乗せる。
「クリティド?」
「視察地に着くまで時間があるから、眠ると良い。私は君の幸せそうな寝顔を見たい」
「分かったわ」
寝顔を見られるかと思うと少し恥ずかしいけれど、それをクリティドが望むならいいかと私は瞳を閉じるのだった。




