魔力回路を治すためにはどうしたらいいのか ②
「薬草の群生地に向かうのは構わないが……」
私がクリティドに相談を持ちかけると、クリティドは一瞬微妙そうな顔をした。そして言いづらそうに続ける。
「群生地に向かったからといって、君の身体がすぐに治るとは限らない」
そう言われて、ああ、クリティドは折角赴いた先で目的のものが手に入らなくて私ががっかりするのではないかと心配してくれているのだと気づいた。
「クリティドは本当に優しいですね。安心してください! 私もすぐに自分の魔力回路が以前の状態に戻るとは思ってません。だけれども出来る限りのことはしたいの。それに私はちゃんと公爵夫人としてこの領地のことをもっと知りたいと思っているから」
私はクリティドを安心させるように笑いかける。
「……本当に無理はしていないか?」
「ええ。もちろん。そんなに私、危なっかしく見えますか?」
「大丈夫ならいい。ただこの前のパーティーでも魔法のことを言われていたし、気に病んでいるのではないかと思ってな」
そんなことを言われて、私は自然と笑顔になる。
クリティドはおしゃべりというわけではない。それでもきちんと気持ちを言葉にしてくれる人なのだ。私のことをこれだけ気に掛けてくれている大好きな人が居るというだけでもなんというか、凄く背中を押される。
ただの子爵家の娘の私。今は後遺症で魔力回路が傷つき、魔法も使えない私。そんな私がクリティドの妻であることに思う所がある人はそれなりの数が居るとは思う。
それでもクリティドが私を選んでくれた。ティアヒムとクリヒムが、私を母親として慕ってくれた。
だから少なからずの不安は感じても、とても前向きな気持ちで居られる。
クリティドは私は私のままでいいと、そんな風に肯定してくれるから。
「クリティドや子供達が居るから、不思議とそんなに気落ちはしておりませんの。もちろん、魔法はまた使えるようになりたいとは思っています。だけれどもこういう時に焦りは禁物でしょう。私は公爵歴の長いクリティドと違って、まだまだ公爵夫人として動き始めて間もないですから、自分のことだけではなくて目の前のことを一つずつ見ていきたいってそう思いますわ。だから逆にクリティドは私が……気づかないうちに周りに迷惑をかけるような行動を行っていたらすぐに教えてくださいね」
クリティドは、公爵になって時間が経過している。公爵家を継いだばかりの頃だと、私みたいに右も左も分からない状況だったりしたのかしら? 今はすっかり完璧に見えるけれど、クリティドは昔は魔法が得意ではなかったと教えてくれたのを覚えている。そういう風に最初は戸惑いながら一生懸命だったんだろうか。
きっとそうだろうなと勝手に想像する。今のクリティドがあるのは、積み上げたものがあるからだと思う。私も――すぐには無理かもしれないけれども、公爵夫人として少しずつでも何かを積み上げていくようになりたい。
「本当に君は……凄いな」
「凄い?」
「前向きで、まっすぐで――そういうところが好きだ」
クリティドが笑っている。じっと見つめられてそんなことを言われるとときめいてしまう。
「ただ相変わらず周りのことを優先しようとしすぎだ。もっと自分のことを優先して構わない」
「私は少なくともこの屋敷では自分の欲望に忠実なつもりなんですけれど……まだ足りませんかね? 色んな料理器具とか、食材とかもかなり取り寄せてもらっていますし、アクセサリーなんかも欲しいものがあると購入はしてますし……」
あくまで領地に視察へ行く際に、自分のことばかりじゃなくて目の前のことを見ようとそう決意しただけで、この屋敷内ではかなり自由にさせてもらっていると思う。
そもそも公爵夫人になっても相変わらず私は自分でお菓子を作ったりよくしている。一般的に屋敷の夫人だとそんなことは料理人に任せるものだ。そういうのを相変わらず許されているのも、自由にさせてもらっていることな気がする。
思い返せば私はかなり好きにやらせてもらっているから、言うほど周りを優先はしていない……と思うのだけど!
「そうか。……視察には私と二人で行こうか」
「まぁ、ではそうしましょう。ティアヒムとクリヒムは寂しがるかもしれませんが、しっかり頑張ってくると言ったら送り出してくれるはずですもの」
いってらっしゃい、と子供たちが送り出してくれる様子を想像しただけでも可愛い……という気持ちでいっぱいだわ。
私が立派に視察をこなして、薬草の知識を身に付けたら、二人も喜んでくれると思うのよね!
クリティドが私と二人で行くことを決めたのにはどういう理由があるんだろう? でもクリティドがそうした方がいいと思ったのでしょうね。
私は嫁いできてから基本的に子供達と一緒に過ごしていたけれど、毎回連れまわすわけにもいかないし、私がしっかりしないと!
「クリティド、私、頑張ります!!」
気合を入れている私は、「……思いっきり甘やかそう」とクリティドが呟いていることなど気づいていなかった。




