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パーティーと、親戚筋の女性③

 目の前には、クリティドよりも薄い青色の髪の美しい女性が居る。

 鋭い目つきで私のことを睨みつけている。私はそれに驚く。




 だって少なくとも――クーリヴェン公爵夫人として生きていくことになってからこういう態度をされたことはなかったから。

 どうしてこの女性は、私に対してこうなのかしらと疑問に思う。




 それにしてもクリティドや子供達が傍に居ない数少ないタイミングを狙ってくるなんて……。クリティド達には聞かれたくないことなのかしら。



「旦那様はパーティーに慣れない私に気を遣ってくださっているのですわ。本当にありがたいことですわね」



 このような場で呼び捨てにするのは、適切ではないのでクリティド呼びは控えておく。

 この人の前でそんな態度をしたら凄く怒られそうね。




 私は少し何なのかしらという気分にはなったけれど、感情的にならない方がいいとは思っているのでにこやかな笑みで話しかける。だけどそれが気に食わなかったのか物凄い顔をされる。

 こんな風に悪意を向けられると、何とも言えない気持ちになる。貴族ならばもっと表情を隠さなければならないと思うのだけど……よっぽど、私の事を嫌っているのかしら。

 バルダーシ公爵家は私に酷い密命をしていた。彼らの視線も本当に冷たいものだった。だけれどもなんというか……それよりも酷い。どこか感情的な様子の彼女に、私はにっこりと笑いかける。

 こういう人相手に敵対する道を選ぶよりも、分かり合えるなら分かり合えた方が嬉しいしね。この女性にそういうつもりが欠片もなければ結局無駄にはなるけれど。





「……本当に、ただの子爵家の娘がクーリヴェン公爵夫人になるなんて。あのクリティド様はあなたに同情しているだけに決まっているでしょう。そうやってあの方に甘えるような女性が、公爵夫人なんて務まると思っているのかしら」




 驚くほどに視線が冷たいわね。なんというか、私の何もかも気に食わないというか。だからこその難癖というか。

 確かにクリティドに甘え過ぎるのは公爵夫人としては駄目よ。だって、公爵夫人という立場ならば、クリティドを支えられる方がずっといいもの。



 でもこれは私達夫婦のことを思っての言葉ではないことは分かる。




「ふふっ、そうですわね。私も甘え過ぎないようにしなければならないと思っておりますわ。だけれども……旦那様は私のことを甘やかしたくて仕方がないみたいですの」



 ほほ笑みながら、普段のクリティドのことを思い浮かべながらそう告げる。少し嫌味っぽくなってしまったかもしれない。けれど、でもはっきりとあなたのことはクリティドは相手にしないのだと分からせた方がいい気がした。

 いや、あくまで私がそう思っているだけなのだけど!



 対応を誤ってしまって後から大変な事になる恐れはあるけれど、きっとクリティド達が居るからそこまで大事にはならないはず……。




「なっ……。クリティド様が女性を甘やかすなんてありえないわよ。少し優しくされたからといって、勘違いするのではないわ。それにあなたは魔法もまともに使えないのでしょう?」

「……そうですわね。バルダーシ公爵家の一件で、私の魔力回路は傷つけられている状況ですから」




 あの一件は解決しても、全てが元に戻ったわけではない。私は大好きな魔法を、自由自在に使うことは叶わない。

 それはある意味仕方がないことではある。




 正直言って命があるだけでも儲けものというか、本当に良かったことだ。私は死ぬつもりだったのだから。

 ――生きて、此処にいる。それでいてクリティドや子供達と一緒に居られる。

 それだけでどうしようもないほど幸せなこと。




 だけれども貴族は、魔法が使えるものだ。事情があるにしても、それをまともに使えないことは確かに……そう言われても仕方はない。




「そうだったとしても、それでは示しがつかないわ。そもそも子爵令嬢だったならば最初から魔法の腕なんてたかがしれているでしょう? 先日の一件を言い訳にして、ただ魔法を使いたくないだけではなくて? クリティド様の魔法は本当に素晴らしいものなのよ。その妻であるあなたが――」




 彼女は黙り込んだ私に対して、本当に色々と思う所がいっぱいなのだろう。だから周りが見えておらず、ただ私に対して言葉を続ける。

 私が笑みを浮かべたまま、ただ聞いているから気をよくしたのかもしれない。




 一旦、全て不満を聞いてから返事をかえそうと思っていただけである。

 ――ただそうやって私に苦言を言い続けているのは、目立つ。

 この場で私の立場は注目を浴びているしね。





「なにをしている」



 だから、戻ってきたクリティドは私が絡まれていることに気づいている。

 それにいつの間にか子供達も、近くに戻ってきていた。



「クリティド様、ごきげんよう。公爵夫人様と楽しくお喋りしていただけですわ」



 凄い切り替えの早さね。先ほどまでの冷たい視線が想像出来ないほどににこやかに笑われて驚く。



「クリティド様、お時間がありましたら――」



 そしてクリティドに話しかけようとするが、それは他でもないクリティドに断られる。



「いや、家族で喋ることがあるから引いてもらえるか?」




 そう言って引き下がらせる。

 女性は一瞬不満そうな顔をした後、その場から去っていった。


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