パーティーと、親戚筋の女性②
「クーリヴェン公爵夫人、ご機嫌よう」
「噂の通り、クーリヴェン公爵はあなたを大切に思っていらっしゃるのですね。とても素敵です」
パーティーが始まると私の元へと沢山の人達が駆け寄ってくる。
王都で参加したパーティーでも同じように沢山の人には囲まれていたけれど、やっぱりまだ慣れていないわ。クリティドの奥さんとして、これから社交界の場に出る機会はもっと沢山増えていくはず。
だからもっと慣れていかないといけないわ。
私の隣にはクリティドが居て、すぐ傍にはティアヒムとクリヒムの姿もある。クリティドは心配性なのだ。……私が可愛いから、男性が寄ってくるかもなんて言っていたのを思い出して少し照れそうになる。
だけどパーティーの最中なので、なんとか表情を作る。
それにしてもやっぱりクリティドがこうやって私にべったりなのも珍しい光景なのだろうなと思う。何度か私とクリティドの様子を見かけている人ならともかく、それ以外の人達は大きく見開いたり、驚いているのが分かるわ。
私がクリティドと結婚をしたのは、少し前。それからそれなりに時間は経っているけれど、バルダーシ公爵家のこともあって私は表舞台に公爵夫人として立とうとしていなかった。死ぬつもりだったのもあって、積極的に貴族として誰かと交友を持とうとも考えてなかった。
クリティドも進んでパーティーに参加したりする方ではないから、私は公爵夫人になったとはいえ全然社交界に出ていなかったんだもの。
王都に行った際にはパーティーに参加したけれど、それぐらい。
だから今の状況で、どうしようもなく緊張してしまったりしている。クリティドが隣に居てくれるのもあって、何の心配も必要ないはずなのに。
私に向かって何か悪意をもって話しかける人たちというのはほとんどいない。
クリティドが目を光らせてくれているからこそ、そういう問題が一つも起きていないんだなと思うと……嬉しいと同時にもっとしっかりしたいなと思ってならない。
今は、私が公爵夫人になったばかりだからこそこういう風にクリティドが目を光らせている状況が許されているのだ。もっと一人でも大丈夫だってクリティドにも思ってもらいたい。
私はただクリティドに守られるだけで良いとも思っていない。彼は幾らでも私のことを甘やかしてはくれるだろうけれど、私はそんな風にクリティドにただ寄りかかって生きていく存在で居たいとは思っていない。
だって夫婦というのは支え合うもの。
私は自分の夫のことは、助けていける私で居たい。そう、言ってしまえば対等でいたいとか、そういう感情を私は抱いている。人によっては私のそんな感情を傲慢だというかもしれない。
だって私とクリティドでは元の素質も、出来ることも何もかも違うから。
余計なことなどせずに、大人しく守られていればいいとそんな風に言う人だっているかもしれない。そういう夫婦の在り方を否定するわけではないし、本人達がそれでいいというのならばいいと思う。
だけど……私は前世の記憶があるからこそ、対等な方がいいなと思う。というよりそういう夫婦関係に憧れているからこそできる限りのことをしたいとそう考えているのが正しいのかもしれない。
私にどれだけのことが出来るか分からないけれど、無理だと周りからは言われるかもしれないけれど私は出来る限りのことをしようとそう思っているの。
笑みを浮かべて、沢山の人と会話を交わす。
社交の場では、こうやって少しでも相手に印象をよく思ってもらえるのは重要だと思うの。クリティドはこのような場でも表情をなかなか変えないけれど、彼はそれでも問題がない。
クーリヴェン公爵家はこの国でも力がある公爵家だから、私が少し粗相を犯しても周りは目を瞑ってくださるだろう。それでもそこに甘えたくはない。
事前にパーティーに参加する方々の情報は頭に入れているから、話は弾みやすい。
やはりご本人の趣味や興味があること、それに細かい点についても私が知っているとなると、笑顔で私と会話を続けてくれる方が多いものだわ。
「疲れただろう。飲み物を持って来よう」
しばらくしてクリティドがそう言って飲み物をとりに行った。
私の分を自らとりにいってくれるなんて……なんだか申し訳ない気持ちになりながらも、クリティドに押されて頷く。
周りの貴族夫人は「公爵様自らとりにいくなんて」「愛されておりますわね」とにこやかに微笑んでいるものがほとんどだ。
こういう行動も、クリティドが私のことを愛してくれているからこそなんだな思うと温かい気持ちが胸の内に広がっていく。
こういうクリティドの思いやりのある所が私は好きだ。
相変わらずクリティドのことを冷たいと称する人は居るけれどそんなことはない。
私が嫁いだばかりの頃からその優しさは垣間見えていたし、クリティドが私を特別に思ってくださるようになってからはより一層私に優しくなったと思う。――この甘さは私の特権だ。
「あら、クリティド様に飲み物をとりに行かせるなんて何をしていらっしゃるの?」
クリティドの事を考えてぽかぽかした気持ちになっていた私は、そんな冷たい声に現実に戻された。




