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両親と、弟との再会 ②

「姉上に、何があったか分からないけれど大変だったって聞いた」




 泣き出しそうな声で、イルミテオはそんな言葉を発する。

 まだ幼いイルミテオには、詳しい情報は共有されてはないのだろう。流石にイルミテオに説明するには問題だもの。

 だって姉が……上位貴族の問題に巻き込まれて死にかけていたなんて、ショックを受けるに決まっているわ。




 ティアヒムは心を読む能力を持ち合わせていたから、私に起きたことを全て把握してしまっているけれど……子供にこういう情報を全て渡すのは違うとは思っている。だって悲しいことだもの。

 でも本人が聞きたがっている場合はそういう説明もしなければならないわね。





「そうね……。少し大変なことには巻き込まれてしまっていたわ。でも今は、全て解決したから安心してね」



 私はイルミテオを安心させるように、笑みを浮かべる。



 本当に思い起こしてみると私は一生に一度遭遇するかしないかぐらいの大変な事態に巻き込まれていたのだ。本当に死ぬところだった。

 もし死んでしまえば……私は今感じている大切な家族の体温も、感じることが出来なかったんだなと思うと、やっぱり泣き出しそうになる。




「うん……。良かった。姉上は嫁いでから、手紙もなかなか送ってくれなかったし、どうしているんだろうってずっと心配だったんだ。それに……」




 イルミテオは恐る恐る、視線を扉の方に向ける。

 そこにはクリティドの姿がある。私達の家族の再会を邪魔しないようにと家族だけにしてくれているの。

 なんだかイルミテオが少しだけ複雑そうに、というよりどこか怯えたような視線をしていることに不思議に思う。どうしてクリティドにそんな視線を向けているのかしら?





「……姉上が、結婚した人、とても怖いって聞いた」

「あら」



 そういえばそうだったわ。クリティドは元々冷たい人だと噂されていた。




 それに魔法がとても得意だから、そのことで恐ろしいとも言われていた。確かにクリティドは敵対する人にはそういう部分はあると思う。

 私にはすっかり笑顔ばかり見せてくれて、可愛らしい姿をよく見るからそんな風に言われていたことなんて頭からなくなっていた。

 クリティドの魔法は本当に綺麗なのよね。何度も見せてもらっているけれど、その素晴らしさに私はいつも興奮してしまうもの。






「だから、姉上……。帰ってきてもいいんだよ。一度嫁いだからって遠慮しなくていいから! 姉上は大変なことがあったって聞いたよ。姉上は無理して――」

「無理なんてしてないわよ?」




 子供ながらにイルミテオは色んなことを考えたのだろうなと思う。




 私が大変なことに巻き込まれて、危険な目に遭っていたことを知っているのだろう。そしてクリティドの噂は、イルミテオだって知っているから心配してくれているのだろう。

 あとはそうね。私がバルダーシ公爵家から密命を受けていたこととか、クリティドとの関係性とか、様々な噂が出回っているの。




 クリティドの態度から、彼が私を愛してくれていることも……広まっているのよね。

 それは恥ずかしいけれど、嬉しいと思っている。でもどこまでどんなふうに広まっているのかと……心配にはなるけれど。




 イルミテオはもしかしたら……良くない噂だけを誰かに吹き込まれたりしたのかもしれない。

 良くも悪くも私という存在は、貴族社会で注目を浴びている。





 王都やクーリヴェン公爵領に近い場所に領地を持つ貴族は、私達家族のことを正しく把握していると思う。けれど、私の実家である子爵領は王都からも、クーリヴェン公爵領からもずっと遠い。

 だからこそ私達のことがどういう風に伝わっているか分からないものだわ。

 特に子供であるイルミテオにどれだけの正しい情報が伝わっているかは、不明だわ。






「イルミテオ、よく聞いてね。私の夫になったクリティドは確かにそういう冷たいという噂がされている方だわ。実際にそういう一面もあると思う」



 私にはそういう部分を見せることはほとんどないけれど、そういう一面もあることを知っている。

 ただその冷たい一面も含めて、私の愛しい旦那様なのだ。





「だけどね、クリティドはそれ以上に優しいわ」

「優しい?」

「ええ。冷たいなんて言われているのが嘘じゃないかと思うぐらい、本当に優しいのよ。私が嫁いできた時からずっと、私はよくしてもらったの。それに私はクリティドのことをとても大切に思っているの。大変なことがあった後も、私に妻として傍に居て欲しいとそういってくださったわ。私もこのクーリヴェン公爵家のことがとても好きなの。だからここに私が留まっているのは自分の意思だわ」

「姉上、嫌じゃないの?」



 イルミテオは私の言葉にそう問いかける。



「ええ。全く。だからあなたは何も気に病む必要はないのよ? 私はとっても幸せだから」




 私はそう言って、イルミテオに笑いかけた。



 そう、私は本当に幸せなのだ。

 本当にこんな幸せを私が享受していていいのだろうかと、不安になるぐらいに。


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