パーティーについてクリティドと話す。
「招待状を全部確認したのか?」
クリヒムが部屋から去った後、次にやってきたのはクリティドだった。
「はい。確認しておきました。折角のお誘いの手紙ですから」
クリティドは私の言葉を聞いて、私に近づいてくる。確認した招待状の山を見て、何処か心配そうな顔をしている。
「急にこんなに沢山のものを確認して疲れていないか? 無理をする必要はない。君の返事が少し遅れようとも、私が文句は言わせない」
そんな風な言葉をかけられ、私は思わずくすりっと笑ってしまう。
本当になんというか……クリティドは心配性で、私のことを甘やかそうとする。初対面の時はこんな風に甘やかされる未来なんて想像していなかったな。
クリティドを殺すように命じられていて、余裕なんて全くなかった。自分の命を諦めてしまっていて、どうしたらいいか分からなくて。……だからクリティドとこういう関係になれるなんて思ってもなかった。
そんな私が今は、こんなに幸せで。いいのだろうか? なんてそんな気持ちになってしまったりする。
だってあまりにも幸せで、それが現実味がない感覚に時々なってしまったりする。
「クリティドは私のことを甘やかしすぎですよ。私はあなたの隣で、公爵夫人として頑張りたいとそう思っているんです」
「本当に君は……一人で頑張ろうとするな」
「ふふっ、そんなことないですよ? 私が頑張ろうと思うのはクリティドや、子供達がいるからですよ。私が少しぐらい失敗したとしても受け入れてくれる人たちがいるんだと、そう思えるだけで何だって出来るようなそんな気持ちになりますから。だから、あんまり私のことを甘やかしすぎないでくださいね?」
甘やかされ続けると、そのままずるずると甘えてしまいそうになる。
クリティドの優しさはなんというか、居心地が良い。私のことを大切に思っているというのがよく分かって、なんだろう……ずっとその穏やかな居心地が良い所に留まっていたいってそう思いたくなる。
でもそれで甘え過ぎたら、駄目だなとも思うから私はそんな風に釘を刺す。
「私はウェリタを幾らでも甘やかしたいのだが」
「……だったら甘やかしてほしい時に、幾らでも甘やかしてください。でもそうじゃない時は我慢してもらえると嬉しいです」
どこかがっかりしたような顔を見ると、ついついそんなことを言ってしまった。
そうすればクリティドが微笑む。
「今は?」
「……ど、どうぞ。甘やかしてくださっていいですよ!」
私がそう言うと、クリティドに手を引かれて抱きしめられる。思いが通じ合ってから、抱きしめられたり、口づけをしたり……その先も当然あるのだけれども、でもなんだろうまだまだ慣れない。
私を抱きかかえたまま、クリティドはソファに腰かける。
「パーティーはウェリタが呼びたい相手を全員呼ぼう」
「……遠くに住んでいる方もいらっしゃいますよ?」
「それでもだ。ウェリタの実家の子爵家にも正式に挨拶をする必要もある」
「クーリヴェン公爵領と、子爵領はとても離れていますからまだ会えてませんものね……」
私たちが今過ごしているクーリヴェン公爵領と、私の生まれ育った子爵領はかなりの距離がある。だからこそ問題が片付いた後も、まだ会えていない。実家も今回の一件でバタバタしているから……。
そもそもただの子爵家ではまずもってしてこんなことに関わることは普通ではありえない。そんな騒動に巻きこまれてしまったのだから、大変なのだ。
クーリヴェン公爵家から、騎士を派遣しているから危険なことはないみたいだけど……。
それに両親や弟をこちらに呼ぶにしても、私達が向こうに行くにしても準備はきちんとしないといけない。
それにしても家族のことを考えていると、会いたいなとそんな気持ちでいっぱいになる。
両親や弟。
私が嫁ぐために家を出た際、もう二度と会えなくなるとそう覚悟した大切な家族。
そんな家族の安否を手紙で確認が出来て、また会うことが出来る。
楽しみで仕方がない。手紙でも散々、心配の言葉ばかりが書かれていた。きっと今も私のことを心配しているだろうから、ちゃんと会って、私は大丈夫だよ、幸せに過ごしているよって見せたいなとも思う。
「パーティーのためのドレスも沢山用意しよう」
「そうですね。ドレスもアクセサリーもまた購入する必要がありますね」
正直高価なものを購入するのはまだまだ慣れないけれど、公爵夫人として相応しいものを身に付けないといけないもの。
「私が選ぶ」
「ありがとうございます。私もクリティドの衣装を選びますね?」
私がそう言って笑えば、クリティドも笑ってくれた。
「それと急にパーティーに連日参加するのはウェリタの身体が持たないだろうから、私の方でも選別する」
「はい」
「それからパーティーの時は、私から離れないように」
「もちろんですわ。私一人だと不安ですから」
「……それもあるが、着飾った君に惹かれる虫が出てくるかもしれないだろう。私はそれは嫌だ」
「そ、そうですか。そんな方はあんまりいないと思いますけど」
真っすぐな言葉で言われて、思わず照れてしまう。
「いや、そんなことはない。ウェリタはとても可愛いから」
そんなことを続けて言われて、私の頬はさらに赤くなるのだった。
パーティーの時には、クリティドの傍を離れないようにしないと!




