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パーティーでの出来事と、ちょろい私

「まぁ、あなたが噂のクーリヴェン公爵夫人ですわね。噂は聞いておりますわ」

「此度は大変でしたわね。あなたのおかげでクーリヴェン公爵家は事無きを得たと聞きました」





 家族皆でパーティーの会場へと足を踏み入れると、私はあっという間に人に囲まれた。思ったよりも私のことを受け入れてくれる言葉ばかりで驚く。それにしてもこんなにも好意的な視線を向けられるとは思ってもいなかったわ。




 子供達は私たちの傍に居たり、同年代の子供達と話していたりと自由に過ごしている。クリヒムが言っていたようにクリティドが私の隣に居る気満々な様子だったので、二人は安心して別行動も出来ているみたい。




 私は社交界の場でこういう風に多くの人達に囲まれることなどなかったから、落ち着かない。




「一人ずつ話しかけてもらえないか。妻が困っている」



 クリティドは私が戸惑っているのに気づくと、そう言って前に立ってくれる。




 なんだろう、妻という響きがこそばゆいというか嬉しいというか……! こういう何気ない優しさに、私を大切にしてくれている思いに触れるとこうやってクリティドの後ろにいるばかりでは駄目だなと思う。

 だってクリティドが望んでくれたからだけが理由じゃない。私はクーリヴェン公爵家が大切で、一緒に居たいなと思っているのだ。なんだかんだクーリヴェン公爵家に残るのを決めたのは私で、だからこそ私はもっとしっかりしないといけないのだわ。






「ありがとう。でも大丈夫ですわ。私、皆さんと話したいです」




 私はクリティドに向かって、安心させるように微笑みかける。

 そして次に私に話しかけていた貴族達の顔を見る。……なんだか目を輝かせているけれど、どうしてかしら。





「あなたたちとお話をしたいですわ。ただ私は一度にすべては聞くことはできないので、一人ずつお話をしていただいてもよろしいかしら?」



 私がそう問いかけると、周りの貴族たちは笑顔で頷いてくれる。

 それから一人一人と会話を交わした。大多数は、私に対して好意的な人達ばかりだった。



 目を輝かせていたのは、クリティドの態度が今まで見たことないものだったからなんだって。

 クリティドはこれまで社交界に出ても、女性を近づけることはなかったらしい。だからこうやって私を大切にしている様子を見て楽しんでいるようだ。

 そういう貴族夫人たちは、私達の話を好意的に捉えているようだ。私も誰かが幸せだと嬉しいと感じて、あまり恋に関心がない方が誰かに夢中になっているのを見たりすると素敵だなと思うから同じような感情なのかもしれない。





 自分がそういう風な瞳を向けられているのは、少しだけ恥ずかしい。けれども認めないと言われるよりもずっといい。私がクーリヴェン公爵夫人であること……、クリティドの妻であることを認めてくれているということだもの。





 私とクリティドの仲を応援していると、そんな風な態度を向けられると、私はクリティドの傍に居てもいいんだと安堵する。

 ただ好意的な人達だけしかいないわけでは当然ない。




 私がクリティドの命を狙っていたことまでは知られていなくても、私がクーリヴェン公爵家と敵対したバルダーシ公爵家の養子になっていたことは確かだ。バルダーシ公爵家は潰れてしまったのに、私だけ何の罪にも問われないことに色々と思う所がある人はいるらしい。





「クーリヴェン公爵は本当に優しいですなぁ。夫人はバルダーシ公爵家の養子になっていたような女性なのに、離縁をしないなんて…っ。しかし同情での婚姻の継続は互いのためにもならないのでは?」




 ……クリティドのことを褒めながらも、私をこのまま妻にしていくことに対して言及をする。

 あくまでクリティドのためにと、そういう言葉を口にしているつもりなのだろう。



 こういう人たちがいるだろうと想像が出来たから私は――実家に戻った方がいいのではないかと一人で考えてしまっていたんだ。だって私がクリティドの妻であることで、ずっと嫌な思いをさせてしまうんじゃないかって。それはクリティドだけではなく、子供達もそう。






「同情などではない。私がウェリタのことを愛しているから、傍に居てくれと縋ったんだ」




 はっきりとそう言ってくれるのは嬉しいけれど、周りに人が沢山いるの! 私はクリティドの言葉に顔がぼっと赤くなるのが分かった。




 こういう社交界の場では、こんな風に感情を表に出さない方がいいのは分かっているけれど私は耐えられなかった。

 私の顔が真っ赤になると同時に、近くにいた貴族夫人が扇子を貸してくれた。私はそれで顔を隠して、ちらちらとクリティドと貴族の男性のやり取りを見る。






「そ、そうなのか。しかし夫人は子爵令嬢だろう? 公爵夫人を務めるのは我が娘のように――」

「ウェリタの身分は関係ない。私はウェリタがどういう立場であろうとも、彼女だから妻にしたいと思っただけだ」





 あの貴族の男性は、自分の娘をクリティドに嫁がせたいと思っていたのだろうなというのが分かる。だから私よりも、爵位の高い令嬢の方がいいのではないかとか色々言っているのだ。

 でもクリティドは取り付く島もない様子でばっさりと口にする。私の顔がさらに熱を持つのが分かる。クリティドはあまり人に興味がないように見えて、こんなにも情熱的だ。





 ……こんなに人がいる場で、私への好意を隠しもしない。あなた、そんなキャラだったの!? と正直言って驚く。

 恥ずかしいけれど、嫌じゃない。寧ろ……嬉しいと思っている。ああ、もうこんなことを思っている時点で――私はクリティドのことが好きなんだろうなと思った。




 ……私ってちょろい。



 気持ちが追い付いてからでいいと言われて、少ししか経ってない。自分は死んでしまうからって、誰かと恋をすることなんて考えてなかった。そんなことは頭になかった。でも……もうすっかり私はこの人のことが好きだ。



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