旦那様が戻ってきた。
私が部屋から出ないようにと言われてから数日後、旦那様が帰ってきた。
私はもしかしたら旦那様の身に何かが起こっているのではないかと思っていたから、こうして旦那様が無事に戻ってきてほっとする。
「旦那様、お帰りなさい。ご無事でよかったですわ」
私は旦那様に何かあるのは嫌だった。旦那様が怪我一つしていない様子を見ると、本当に安心した。
旦那様は私のその言葉を聞いて笑っている。その後ろのティアヒムとクリヒムもそうだ。私のことをにこにこしながら見ている。
「君は本当に……」
そしてどこか仕方がないなとでもいうような言葉を発して、私の目をまっすぐに見る。
「体調は良さそうだな」
「はい。すっかり元気ですわ。だから、お医者様に見てもらう必要はありません」
はっきりと私がそう言えば、旦那様は口を開く。
「ウェリタ、医者にきちんとみてもらってくれ。後は魔法師を連れてきたからこちらにも見てもらうように」
「嫌です!」
私は旦那様の言葉に答える。
だって、私の状況を旦那様に悟られたくないから。だけど旦那様は、そんな私を優しい目で見つめている。
……そんな視線で見つめられると、何だか妙にドキドキする。だってあまりにも優しい表情だったから。
「ウェリタ……大丈夫だ。全て分かっているから、私のためにも診てもらってほしい」
「え?」
言われた言葉を全く理解が出来なかった。
旦那様は何を言っているのだろうか。全て分かっているとか、診てもらった方がいいとか、どういうこと??
まさか……私のことを旦那様に知られてしまっている……?
優しい旦那様はそのことに心を痛めて、私のことを助けようとするだろう。でもそうなれば――クーリヴェン公爵家にも被害が……。だって知られたからにはきっとこのままでは済まないはずだもの!
……バルダーシ公爵家が、甘い家ではないことを知っている。
きっと全面戦争のようなものになって、傷つくことになってしまう。
私はバルダーシ公爵家が何をしてくるか分からないことが怖い。ティアヒムやクリヒムだって、また危険な目に遭ってしまうのかも……。それが私は嫌だ。
私が慌てていると、旦那様の後ろにいたティアヒムが口を開く。
「母上、その通りだけど大丈夫だよ。あの公爵家はつぶれたから」
「はい?」
「母上、その件に纏わることを聞かれて頷くとかだけでも辛いですよね? だから、まずは医者に診てもらって、魔法師に魔法解いてもらって」
ティアヒムの言葉にわけが分からなかった。
バルダーシ公爵家が潰れた……? あんなに強大な力を持っている家が、短期間でつぶれるなんてことがあり得るのだろうか。
ティアヒムが嘘を吐くとは思えないけれど……。あれ? そもそも私は何も口を開いてないわ。どうしてティアヒムは何も告げていない私に対して、返答するような言葉を言っているの。
頭の中が疑問でいっぱいな中で、私はそのままやってきた医者な魔法師に診てもらった。
わけがわからない間に、対応をしてもらって……本当に意味が分からなかった。
私の隣で旦那様達が説明をしてくれている。
「大元の魔法は既に解かれているが、まだ君の身体には残っているだろうからな」
「母上、ちゃんと悪いものは取らないと駄目です」
「母上、ちゃんと診てもらう!」
三人にそう言われながら、私の魔法は完全に解かれたようだ。私は心臓の縛りが完全に解かれたような感覚に驚く。
「こんなになるまでボロボロになって……どれだけ奥様は我慢強いのですか? もうこんな風に無茶をする必要はありませんからね」
「後は公爵様達とゆっくり話してください」
私はそんなことを医者と魔法師にそれぞれ言われる。
呆れたように、だけど私のことを労わるように彼らはそんな言葉を口にする。
あとは私にかけられている魔法は解かれていても、後遺症というか、魔法の影響で身体に不具合があるかもしれないからと様々な薬を処方してくれる。
液体状の薬をなんとか、飲みこむ。色は紫色で、身体によいのか? と疑問に思うようなものだった。
でも旦那様が手配してくださった方だから、私を害するようなものはないだろうと分かるけれどね。
飲んだ薬は思ったよりも苦くて、思わず咽せてしまった。
「ウェリタ、大丈夫か!?」
ちょっと咽せただけなのに、旦那様は驚くぐらいに私のことを心配しているみたい。本当に旦那様は優しい方だなと思う。
「大丈夫です。思ったより苦かっただけなので」
にっこりと笑ってそう告げれば、旦那様はほっとした様子を見せる。
そして医者と魔法師は今後安静にするようになどを呼び掛けてそのまま退室していった。旦那様が「皆、出ていくように」と口にしたため、侍女達も出ていく。この場に居るのは、私と旦那様と、子供達だけである。
「ウェリタ、君が苦しんでいるのにすぐに気づけずにすまなかった」
そうしたら旦那様から深く頭を下げられて、私は困惑した。




