突然、軟禁ですか?
最後まで書き溜め終わったので、二時間おきに予約投稿しておきます
「ウェリタ、しばらく此処に居るように」
「母上、勝手に出ちゃ駄目ですからね? 医者も呼んでいるから」
「母上、めっ!」
いつも通り過ごしていたある日のこと、私は旦那様や子供達に突然そんなことを言われた。
特に予兆があったわけではない。私は普段と変わらない様子で過ごしていたはずだった。
なのにいきなり旦那様と子供達に外に出ないようにと、部屋の中に押し込められる。侍女や執事たちもそれを当たり前のように見ていて――誰一人止めないことにも驚く。
それでいて私の周りには沢山の使用人たちが控えている。
この状況は本当に何なのかしら!!
旦那様は私を部屋から出ないように言った後、やることがあるからと姿を消してしまった。待っていて欲しいと微笑まれたら、頷くしかなかった。
ティアヒムとクリヒムはちょくちょく、私の元へとやってくる。だけどティアヒムはやることがあるらしく、クリヒムよりは来る頻度が低い。
本当に何が起こっているのかしら?? 私にはさっぱり分からない。周りの侍女達も詳しい事情を把握しているわけではないみたい。
私は不安になってしまう。
突然、こんなことになるなんて……。何が起こっているのだろうかと考えて、一つのことに気づきはっとする。
もしかして……バルダーシ公爵家が動き出してしまったりしているのかしら。
私が……旦那様を殺す密命を実行できていないから。仲良くなるだけなって、なんだかんだはぐらかして旦那様の命を奪うための行動をしなかった。
そのせいなのだろうか。
……痺れを切らされて、旦那様が危険な目に遭っているのではないか。私が……至らないせいで。
そう考えると怖くなった。
私は……本心から旦那様を殺したくないと思った。
密命を受けて、私が命令を聞かなければ大変なことになるとは分かっていても――。それでも、私は……そんなことなんて出来ないって。
だから紙になんとか情報を残してなるべくこういう事態にならないようにしようって勝手に思っていた。
……でもやっぱり私にはそんな状況を変えるような力なんてなかったんだなって思う。
私がもっと、力があったら……、特別だったらきっと別だったんだろうって。
旦那様を殺すのも嫌だ。だからといってバルダーシ公爵家に反抗することなんて私には出来なくて。
本当に中途半端で、どうしようもない。
……あんまり暗いことは考えないようにと思っていたのに、不安とか、怖さとか、そういう気持ちばかりが頭の中をずっと巡っている。
「……奥様、大丈夫ですか?」
「……ええ。大丈夫よ」
常に周りに人がいる状況だから、手紙の続きは書けない。
だから比較的、体調は良い方だと思う。魔力回路はこれまでの影響でボロボロになっていて、そのため相変わらずの不調はあるけれど……。それでも最近の中では健康的なほうだ。こんなに身体が軽いのは久しぶりで、それに関しては気分が良い。
周りから私が暗い顔をしていると心配されるけれど、色んなことを考えてしまっているのだ。
「母上、なにか、怖いことでもあった?」
私は子供たちの前ではそういう表情は見せないようにしようと思っていた。それなのに、クリヒムが部屋にやってきている時にそういう表情を見せてしまった。
「怖いことなんて、何もないわ」
私が笑みを貼り付けてそう言い放つと、クリヒムは不満そうな顔をする。
「母上、めっ、だよ?」
「え?」
「怖いなら怖いって言わなきゃ駄目なの」
クリヒムはそう言いながら、私の目をまっすぐに見ている。そしてにっこりと微笑んで続けた。
「母上、僕は雷が怖いって思うよ。それにね、大きな魔物とかも! 怖いことがあった時は父上や兄上が助けてくれるの」
そう告げるクリヒムに思わず私は笑ってしまう。
なんて可愛いのだろう。こんなに可愛い子を見ていたらついつい笑みがこぼれてしまうわよね。
「旦那様とティアヒムは、とても素晴らしい父親と兄なのね。素敵だわ」
「僕にとってだけじゃないよ? 母上にとってもだよ?」
「ええ。そうね。私にとっても自慢の旦那様と息子だわ」
「うん。だからね、怖いことがあったら父上に守ってもらえばいいんだよ?」
無邪気にそう言って笑うクリヒムのことを、私は抱きしめる。
あまりにもクリヒムが愛しく思えたから、そして……自分の不安を紛らわすために。
「そうね……」
そう答えながらも、私は何が起きているか分からないこの状況で何をどうしたらいいかなんてさっぱり分からなかった。
クリヒムは、旦那様に守ってもらえばいいなんていう。
でも……私は、旦那様を殺すような密命を受けているのだもの。クーリヴェン公爵家に害を成そうとしているバルダーシ公爵家が送り込んだ暗殺者のような存在だわ。
……そんな私が、怖くて仕方がないからと旦那様に助けてなんていうことなんて出来ないわ。




