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母上のことと父上との話~ティアヒムside~

「父上、相談があります」






 私、ティアヒム・クーリヴェンは父上の執務室へとやってきた。




 夜の、あまり人気のない時間帯。敢えてそこを狙ったのは今からする話は、誰かに聞かれない方がいいことを察していたから。







 ……母上のことで気のせいだったらいいのにと思っていたことが、確信に変わってしまった。だからこのまま放っておくなんて出来ない。だってこのままなら母上は――……。

 考えただけでぞっとする。






「ティアヒムか。どうした?」

「……母上のことです。私は母上に意図的に能力を使いました。後でそのことは母上に謝るつもりです」






 最初に私の能力を母上に使ってしまったのは、本当に偶然だった。

 幼い頃と比べると私は自分の能力を制御出来るようになっている。だから母上にそんな能力を使う気なんてなかった。

 だけど、たまたま――私はそれを使ってしまった。






「ウェリタにか」




 父上の、母上を呼ぶ声は柔らかい。

 それはそれだけ……父上が母上のことを大切に思うようになったからだと思う。







 私もその気持ちはわかる。母上の傍に居るのは心地が良い。いつもにこにこしていて、幸せそうに笑っている。

 私は弟のクリヒムに比べると愛想がない方だ。可愛げがないと言われたこともある。






 それなのに母上は、私を可愛いなんて言って笑う。それだけじゃなくて、父上のことも可愛いと思っているらしくて、凄いなと思った。

 それにいつも、他人のことばかり心配している。もっと自分のことを考えればいいのに。さっきも……私のことを心配していた。





 そういう母上だから、私はいつの間にかすっかり好きになっていた。母上がこのままずっとここにいてくれればいいと思っている。だけど母上は此処を去るつもりだというのを私は知っている。








「はい。……母上が公爵家を去るつもりなのは、父上は知ってますよね?」

「ああ。ウェリタ本人に言われている。何か事情がありそうなのだが、話してもらえない。ゆっくり聞き出せればいいと思うのだが……」





 父上は、母上にこの公爵家にずっといて欲しいと思っているのだ。

 私も、クリヒムもそう思っている。いや、それこそ、母上本人も……。







「父上、母上はそのことを他人に言えません。母上が公爵家を去ろうとしているのも、最近体調が悪そうなのも、何か考え込んでいるのも――だからです」





 私は自分の能力で知った母上の情報を――それこそきっと周りに話す気のなかっただろうことを父上に向かって告げる。

 本来なら能力を使わなければ知り得ない情報をこんな風に使わないようにしている。けれど今はそうもいってられない状況だ。






 ごめんなさい、母上。

 後から幾らでも怒られても、嫌がられても構わない。

 でも私は母上に生きて欲しいと、そう思っているから。







 ――実の母親の昔の様子を思い出して、少しだけ怖いことはある。けれど、それでも――私はこの状況をそのままにはできない。





「……それは本当か?」






 父上が、私の言葉を聞いて怒っている。




「はい。何度も能力を使って確認しました。断片的な情報を組み合わせて知ったのがその情報です。父上、私は……母上と一緒に居たいです」





 あくまで私が、少しずつ集めた情報を組み合わせて分かったことだ。

 だから正確なものは父上に集めてもらうことになるだろう。

 私はまだ子供で、自分の手でそういう情報を集めることは難しいから。

 ただそんな私にでも出来ることは確かにある。







「私もそうだ。そのためにすぐに行動する。ティアヒムは分かったことを全て教えてもらえるか?」

「はい。私の方では……この屋敷内に入り込んでいる敵を見つけ出します」





 自分の能力を制御していたのが仇となった。常に解放していれば……入り込んでいる存在についてすぐに知ることが出来たのに。

 ……基本的には人にこういう能力を使わないようにしているけれど、母上を傷つける存在には容赦をする気はない。

 それは多分、父上も一緒だろう。






「助かるが、大丈夫か?」

「はい。折角の能力はこういうときに使うものです」





 私にとって良い能力であるとは言えない。この能力のせいで実の母親には疎まれてきた。知りたくない情報を知ることも多々あった。

 だけれども――それでもこの能力があったからこそ母上のことを知れたのだ。




 こういう能力は、こういう時に使ってこそだと思う。

 父上は私のことを心配してくれているのは分かるけれど、私は思う存分今回は私の嫌いな自分の能力を使う。




 ――それから私と父上は、行動を開始した。


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