おでかけのお誘いを受ける。
ところで今の季節は夏である。
クーリヴェン公爵領は国内でも北部に位置するので、冬の時期はとっても寒いと聞いている。今は美しい緑の景色も、冬にはすっかり真っ白に染まるらしいの。
夏でもこのあたりはそこまで暑くない。比較的過ごしやすい場所だと思う。
いつものようにお菓子を作って、子供達へと持っていく。
「夏はいつも湖に行くの。ウェリタさんも一緒に行こう?」
その際にクリヒムからそんな風に言われた。
突然の言葉に私は驚く。
「湖? 毎年行っているの?」
私がそう問いかけるとティアヒムが説明をしてくれる。
「毎年、私達は近くにある湖へと出かけるんです。父上がこの時期は時間を作ってくれるんですよ」
「まぁ、そうなのね! これまで三人で出かけていたものなのでしょう? 私もご一緒していいのかしら?」
ティアヒムの話を聞いて、家族三人でいつもお出かけしているならぽっと出のお飾りの妻である私が混ざってもいいのか……? とそんな疑問でいっぱいになった。
「もちろん。僕はウェリタさんと一緒の方が嬉しいもん。ね、兄上もいいでしょ?」
「……私も特に問題ないです。父上にも言っておきましょう」
そんな風に言ってもらえて、思わず笑ってしまった。
ああ、でも旦那様は私が一緒に行くのを良しとしてくれるだろうか?
「ありがとう。なら、一緒に行きたいわ。湖は近くなの?」
「はい。日帰りが出来る距離です」
「そうなのね。昼ご飯はどうしているの?」
家族で湖に出かけるなんてとても素敵な話よね。
私も実家の家族と一緒にお出かけすることはあったわ。とはいっても貧乏だったから、出かけるのは本当に近場ばかりだったけれど。
でも家族で街を歩いたり、すぐ近くの村を訪れたり――そういうことをするだけでも本当に楽しかった記憶があるわ。
「屋敷の料理人たちが作ってくれたものを持っていってます」
「そうなのね」
頷きながら私は、折角だからサンドイッチなどを作ってもいいかもしれない。そんなことを思ったので提案してみる。
「私がサンドイッチとか、食べやすいものを作ってもいいかしら?」
「いいと思いますけど……」
「旦那様に聞いてみるわね。良かったらティアヒムとクリヒムも一緒に作る?」
お菓子作りには付き合ってくれるようになったから、サンドイッチづくりも手伝ってくれるかな? とそう期待した。
だって子供達と一緒に作れたら、きっと楽しいもの。
私はそう考えてにこにこしてしまう。想像しただけでもこれだけ楽しい気持ちになるのだもの。
「僕も一緒に? 作りたい!」
「……私も構いません」
「ふふっ、一緒に作れるのは嬉しいわ。旦那様にあなたたちと一緒に作る許可をいただいておくわね。材料も取り寄せておかないと」
それと後は厨房を朝から借りることも料理人たちに伝えておかないとね。それに私達で昼食を作るにしても、料理人たちの手は沢山借りることになるもの。感謝の気持ちは伝えないとね。
「……一緒に作るというだけで、楽しそうですね?」
「だって想像するだけで楽しいもの。朝から一緒にお昼ご飯を作って、それで一緒に湖に行けるということでしょう? 今からでも本当に楽しみで仕方がないもの」
呆れたようなティアヒムの言葉に私はそう答える。
それにしても毎年湖に行くのには何か理由でもあるのかしら? 思い出の地とか?
「その湖に毎年行くのは何か理由があるの?」
旦那様や子供達のことを知りたいというそういう気持ちで問いかける。
「父上が子供のころからいっていた場所だと聞きました」
「そうなんだよ。父上はね、子供のころから遊びに行っていたんだって」
旦那様の思い出の地か……。
そういう子供のころから大切にしている場所に私も連れて行ってもらえるんだと思うと、何だか嬉しい。
私はこの場所に短い間しかいるつもりはない。私の命は限られている。
そんな中でも、こうして幸せな記憶を作っていけることは私は嬉しい。
それに旦那様ともほとんど一日ずっと一緒に居られるってことなのよね? それはそれで楽しそうだわ。
昼ご飯だけではなくて、おやつもちゃんと作っておきたいわ。
子供達と一緒に思いっきり遊びたいもの。それで遊んだ後は、おやつを食べたらより一層幸せな気持ちになれるはずだわ。
そんなことを考えた私は、子供たちとの会話を終えた後に旦那様の元へと向かった。
旦那様に子供たちから湖に行くことを誘われたことや、昼ご飯を作りたいことなどを伝えた。
旦那様は「もちろん、君も一緒に行こう」と言ってくれた。
子供達とご飯を作ることは頷いてくれたけれど――、旦那様は予想外のことも口にした。
「私も一緒に作ろう」
――旦那様は、そんなことを言った。




