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098話:建国祭準備・その6

 王都に運び込まれた「杭」は、現在確認されているだけで8つ。その中で地面に刺されたもの……つまり、この王都に配置されたものは5つ。残りは未だに商人などが保持したままになっている。


 わたしは、回収に立ち会うことになった。もちろん、表向きは建国祭の準備に関する案内をラミー夫人がしてくれるということになっている。お父様にもそれで話を通しているため、今回はラミー夫人と同行しながら、その「杭」を回収する。


「あれが『杭』。どうにも報告と形状が変わっているように思えるのだけど」


 ラミー夫人が示す先には、若木のような形に、枝葉を伸ばすかのような「杭」が刺さっていた。遠目に見れば、ただの植物に見える可能性もある。まあ、近くで見れば明らかに植物ではないのだけれど。


「あれは待機状態……いえ、受信状態とでも言いましょうか。そうした状態になった『杭』です」


 わたしが待機状態と言ってから受信状態と言い直したのは、「たちとぶ2」の説明だと待機状態と言っていたけど、そもそも刺してない「杭」も待機状態みたいなものだし、そことの混同を避けるために便宜上、わたしが「受信状態」という言葉に置き換えただけ。


「あんなふうに形状変化するものなのね」


「そもそも、擬態とまでは言いませんが、発見されづらくするのは当然でしょう。あからさまに不審物と思われて排除されてしまうようなものは、兵器として欠陥兵器ですし」


 あからさまに怪しいものなんて、誰しもが排除もしくは警戒すると思う。そんなもの、兵器としては欠陥だと思う。何せ、目立たなければ目立たないほど、兵器として効果的なのだから。


「あえて目立たせる兵器なんかもあるから一概には欠陥と言えないけど、まあ、フォルトゥナとやらの効果を考えるならば、そうね。そうでないと効果が薄まるわね」


 ラミー夫人の言いたいこともわかるし、やりたいことによっても変わるでしょう。例えば、この魔力爆発が都市にダメージを与える目的なら、やっぱり気付かれないほうが正しいけど、人的被害を目的とするなら逆に目立たせて人を集めたところで爆発させるほうが効率的ではある。

 もっとも、それで人が確実に集まるとは言えないし、それなら、人の多い施設に仕掛けて倒壊させることでの人的被害を考えてもさして結果は変わらないでしょうけど。


「今回は設置までを追っていたからこそ簡単に見つけられていますが、あれを森の中や林などに仕掛けられて即時に発見するのは難しいと思います。そうした取り残しを考慮すれば、どこか被害の無い場所に再設置するという処理が適切でしょう」


 わかりやすいならすべて残さず回収すればいいけど、こうなってくるとそうもいかない。もしもという可能性は付きまとう。ならば、あえて別の場所に設置して、被害を最小限に抑えるのも手だろう。


「まあ、そうね。あるいは、王都中の森林を焼き払って、探し回れば見つけられないこともない……かもしれないけれど。燃えないでしょうし」


 まあ、確かに「杭」は燃えないので残るかもしれないけど、そんなことをした時点で大騒ぎでしょう。まだ植え替えるとかで、一旦、全部の植物を抜いていくほうが納得はしてもらえると思う。工期的に戦争に間に合わないから無理でしょうけど。


「探し方については、これからも練っていくということで、とりあえず、手早く抜いてしまいましょう」


 あまり一か所にとどまって「杭」の様子をうかがっているのも怪しいということもあって、手早く「杭」を抜いてしまうことにした。


「抜き方に特殊な工程などはいらないのよね」


「ええ、わたくしの知る限りでは、そのまま抜けばいいだけです。刺すのも抜くのも特に工程は必要ない。そう言った意味では手軽な兵器ともいえます」


 この手の兵器で、刺したら抜けないなんてなると実験すら気軽に行えないし、抜くのに特殊なギミックがあるのなら、そう簡単に密偵なんかに渡さないでしょう。もっと重要な工作員に渡して……、まあ、本来はクロガネ・スチールたちに渡す予定だったのかもしれないけど、的確に配置するためにいろいろと仕込んだプロにやらせるでしょう。

 あるいはこの商人たちがプロなのかもしれないけど、それにしてはあっさりと「杭」を見つかりすぎている。まあ、わたしたちがフォルトゥナのことを知っていると露ほども知らないから、あえて隠さないことで怪しまれないように……なんて意図があるのかもしれないけども。


 まあ、わたしが知る限りはそんなギミックはないし、おそらく商人たちもただの密偵なのでしょう。


「実物を持って見ると意外と軽いですね」


 わたしは「杭」を引き抜き、その軽さに驚いた。見た目からすればもう少しずっしりと重いのかと思っていたけど、前世の学校のパイプ椅子くらいの重さ。卒業式の準備とかで運んだりするあれくらいの重量。


「抜けば形状が元に戻るのね。さすがは神話時代の遺産。どういう仕組みなのか見当もつかないわ」


 わたしとて、その仕組みは知らない。形状記憶合金のようなもの……というわけでもない。そもそもあれは熱を加えれば戻るとかだったっけ?

 まあ、何らかの魔法に近い何かがあるのだとは思うけど、真実は神のみぞ知るということなんだと思う。本当に言葉通りに。


「研究ならあとでいくらでもできますよ。これで1つ目ですね。すでに仕掛けられてしまっているのは残り4つでしたか」


「そうね。ええ、残りは4か所。ここがおそらく東側として仕掛けられた地点なのだけど、別の『杭』が再設置される可能性もあるのかしら」


 どうなんだろうか。持ち込んだ商人同士が連携を取っているのならその可能性は高いけど、そうでないのならあらかじめ自分が設置する場所を決められているのかもしれない。


「わかりませんが、可能性は薄いかと。ですが、それよりも、もっとわからないこともあります」


 再設置に関しては、定期的にここを巡回するようにでもすれば大丈夫だろう。対処もそこまで手まではない。まあ、この周囲のどこかなんていう設置場所を変えてきたら困ると言えば困るけど。


「わからないことというのは?」


「先に話した限りでは、要所への仕掛けはしていないという話でしたよね」


 わたしが聞いた限りでは、おそらく東側と思われるここのほか、南東、西、北西、北とそれぞれ推測した場所。その近辺に要所と言える要所はない。正確には方向的にはあっても、仕掛けられたポイントの近くにはない。


「要所とされる場所は警備も厳しいから近づけないというだけではないかしら」


「むしろ建国祭当日に近づくにつれて警備は厳重になっていきます。だからこそ、わたくしは仕掛けられるとしたら最初は要所だと思っていたのですが……」


 建国祭当日になれば、一層警備体制は強化される。もちろん、人通りも増えるので紛れるチャンスではあるのだけど、それに乗じた犯罪を防ぐために、警備の目は常に光っている。そんな中で「杭」を設置するリスクを背負うなら、まだ警戒の薄い内に設置しに来ると踏んでいた。


「建国祭後に、設置して、そのまま逃げるように帰るという可能性もあるでしょう」


「……そうですね。確かにその可能性もありますが、すでに設置されている可能性というのも外してはいけない気がしてきました」


 確かに、建国祭後の帰り際のどさくさに紛れて設置したまま逃げるということも不可能ではない。だから可能性としてはあり得るけど、それよりもあり得るのは「すでに設置されている」というもの。


「見逃していたということかしら」


「いえ、おそらく建国祭に乗じて入ってきたものたちの見逃しはないと思います。確証はありませんけど。ですが、そもそも要所に仕掛けるのに、そのような人材が適切な場所に自由に設置できるはずもありませんよね」


 特に王城。王城の周囲に仕掛けたところでほとんどダメージは与えられない。そうなると王城の内部に仕掛けないと意味はない。でも、ただの地方の品を運んできた商人にそんなことができるとは思えない。


「なるほど、ハンド男爵を介してやってきた彼らがすでに要所には仕掛けていたと?」


 可能性として否定するべきではないと思う。そう考えれば、潜入が厳しい騎士団にまでわざわざ潜入させた理由の1つとして詰め所への設置というほかの人物には難易度が高すぎるミッションのためということも考えられる。


「王城の庭師なら王城内に仕掛けるのは容易ですし、騎士にも密偵はいましたから詰め所へ仕掛けることもできるでしょう。クロガネ・スチールなら魔法学園にも仕掛けられますし」


 そのほか、貴族の使用人をしていれば魔法学研究棟への設置も可能だろう。そして、考えてみれば彼らの目的にもこれは関係している。


「彼らの目的が『邪魔になる存在の選定』というのなら、まさしく、仕掛けるには最適の人材ではないですか。邪魔だと判断した場所に仕掛ければいいのですから」


 要所の見極めとしてこれ以上の人材はいないというほどにファルム王国側からすれば最適な人材だと思う。だとすればその可能性は十分にあるでしょう。


「再度、要所には探りを入れてみましょうか」


「わたくしも王城や魔法学園、魔法学研究棟などに関しては、あらためて探してみます」


 まあ、あるとわかったうえで探してみないと見つからない。そもそも、要所に関しては、本当にわかりづらく設置されているはずだ。簡単に見つかったら処理されてしまうはずだし。


「要所の中でもどのあたりに仕掛けるかがわかればだいぶ探しやすくはなるでしょうけど」


「そもそも、要所が先に挙げたものだけではない可能性も出てきましたからね。わたくしやラミー様、アリスさんの周囲もあらためて洗いなおしたほうがよさそうです」


 邪魔な存在として挙げられたわたし、ラミー夫人、アリスちゃんの周囲にも仕掛けられている可能性がないとは言えなくなってきた。


「中にはめったに人を入れないから大丈夫だとは思うけど、アリュエットあたりに周辺をくまなく探させてみようかしら」


 ああ、アリュエット君がこき使われている……。まあ、アリュエット君自身の危険にもつながるのだからこの場合はこき使ってでも探させるべきではあると思うけど。


「では、次の『杭』を回収しながら、仕掛けられそうな場所の心当たりでも考えていきましょうか」


「そうね。範囲の絞り込みとまではいわないけれど、致命打を与えられるポイントを私たちで挙げれば、なんとなくは見えそうな気もするし」


 そう言いながら、わたしとラミー夫人は南東のポイントに向かうのだった。

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