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097話:建国祭準備・その5

 わたしがラミー夫人にアポイントメントを取りつけるべく、連絡を入れると、すぐにでも来ていいというので、その言葉通りに、翌日に、ジョーカー家に向かい、ラミー夫人の私室に案内された。


「あなたが連絡をくれたということは、あれが『杭』で間違いないということよね」


 ……まあ、確かに、現段階で、ラミー夫人たちからすれば「杭と思われるもの」でしかなく、それが間違いなく杭であると断定できるだけの根拠がない。わたしの描いた絵に似ているかなというだけでは不十分だ。


「ええ、『杭』で間違いないと思います。現状、いくつ確認されていますか?」


 おそらく、あれ1つということはないだろう。それならどのくらいの数が確認されているのか知りたい。


「現状、4つほど確認されているけど、まあ、この調子だと建国祭当日までに、もう数個は入ってくるでしょうね」


 この王都に運んできたということは、王都に魔力爆発で損害を出す、あるいは王都を吹っ飛ばすことが目的だと考えられる。そうなると、どの程度の魔力を注ぎ込むかにもよるけど、少なくとも9つは必要だと思う。さらに要所を狙うなら加えて5つか6つは必要になる。

 実際、「たちとぶ2」で使われようとした際には、13個だったかな?


「あくまでわたくしの推定ですが、ここからさらに最低5個、多くて10個ほどでしょうか。もちろん、打ち止めという可能性もありますし、10個以上入ってくる可能性もないとは言えません」


 一応、数は出すものの確証はない。


「つまり、そのくらいあれば王都は壊滅するということかしら」


「そうですね。仕掛けるポイントにもよりますが、9個ほどで可能かと。ただ、加えて王城や魔法学研究棟などの要所を破壊するのにいくつか使うとして15個ほどと言ったところでしょうか」


 あくまでそれだけあれば王都が吹っ飛ぶというだけで、あくまで最低値、これ以上に持ち込んでいる可能性も否定はできない。


「この場合、押収すればいいのかしら」


「いえ、あえて相手に杭が機能していないことを知らせる必要もないでしょう」


 ここで押収すれば、少なくとも杭が刺さっていないことがわかってしまう。わざわざ、それを教えてあげる必要もない。


「つまり、杭を刺したあとに、気づかれないように回収するということね。回収したあとはどうするのかしら。保管か研究にでも回す?」


 確かに研究する必要はあるだろう。もしかしたらそれで壊し方がわかるかもしれないというのは大きい。でも、それにも少しリスクが伴う。


「数本は研究に回してもいいと思いますが、発見したすべての杭を持ったままというのは危険です」


「それは魔力爆発が起きるということかしら」


「いいえ、杭は杭として機能している状態……、つまり地面などに刺さった状態でのみ効果が発揮されます。ですから抜いてしまえば効果は発動しないとは思いますが」


 設定上はそうだったはず。そもそもそうでなければ自分のところに置いている予備の杭なんかも爆発してしまうだろう。杭は地面に刺すことで待機状態、あるいは受信状態と呼ばれる形状に変化する。その状態でのみ魔力が伝えられる。


「じゃあ、何が危険なのかしら。抜いたのが相手に伝わるとか?」


「いえ、そうではありません。あくまでリスクの話ですが、わたくしたちが見つけた『杭』がすべてという保証はありません。そうなったとき複数の『杭』に伝達されるはずの魔力が1本の『杭』に集まったとすれば……」


 それだけ大きな爆発がその周囲で起こる。王都壊滅とまではいかなくても、その場所では甚大な被害が出てしまう恐れがある。


「魔力増幅器は使えない、おそらく魔力は足りない、この状況で意味のある威力が出せるとは思えませんが、それでも、その可能性は十分に考えておくべきでしょう」


 そもそもにしてフォルトゥナの発動ができるのかという疑問はあるものの万が一ということを考えれば、そのリスクを負うべきではない。


「じゃあ、どうやって処理を……?」


「そうですね。被害の出ない郊外に刺してしまうか、それともいっそ、ファルム王国のどこかに刺してくるとか、そのようなところでしょうか」


 こちらで被害の出ないところにするか、いっそ相手にお返ししてしまうのがいいだろう。まあ、わたしたちがファルム王国まで行くのも難しいので前者の処理方法が楽だろうか。


「なるほどね。それなら、いくつか処理に使えそうな場所をピックアップしておきましょう。あとであなたにも確認を取るわ」


「こちらとしては、そちらが決めた場所で構わないと思いますが、まあ、その程度なら喜んで確認しましょう」


 そもそも、どこが被害の出ない場所とか聞かれてもわたしにはわからないし。できるだけ人がいないところとしか言えない。地盤的に危ないとか治水的にダメとか環境的にダメとかそのあたりは専門家でないとむりでしょう。


「それで、配置するとすればどのあたりかという見当はついているのでしょう?」


「ある程度は。しかし、先入観が強すぎると見逃す原因にもつながりますから、話半分程度に聞いてください」


 ここにしかないって決めつけは見逃す可能性をはらむ。それを考えれば教えないほうがいいのかもしれないけど、まあ参考情報程度に聞いてもらおう。


「王都の要所である王城、魔法学研究棟、魔法学園、騎士団の詰め所などは単独で『杭』を刺される可能性があります。加えて、王都の8つに分けて1つずつ。中心に1つ。このくらいでしょうか」


 魔法学園は要所というより、将来性をつぶせる場所というべきか。貴族の子息令嬢がまとめてなくなれば国力はガタ落ち。加えて騎士団の詰め所をつぶして戦力を削ぎ、魔法学研究棟の破壊で魔法の発展を遅らせる。王城は固いが、少しでもダメージが入れば十分。そして、王都の四方八方もついでに。

 こうすることで王都壊滅とディアマンデ王国の壊滅が同時に成されるというわけだ。


「まあ、私が仕掛けるとしても似たような場所に仕掛けるでしょうね。あとは川などでしょけど」


「水は必要な生活資源ですからね。まあ、王都の場合は地下水のくみ上げもありますし、そもそも水の魔法使いがいればわずかながら供給はできますから」


 兵糧攻めというか、井戸をつぶしたり、川をつぶしたりというのは基本的なことでしょう。もっとも、水に関しては水の魔法使いが、食料に関しても食べられたものではない味にしても、どうにか木の魔法で供給できる。


 そう考えるとこの世界では戦争の形そのものが結構、前世の戦争とは異なっているんだろうなあとは思う。まあ、具体的な戦争の資料もあまり残っていないので、資料があるのは近年のツァボライト王国とファルム王国の戦争とかもっとずっと東側のものとかだけど、前者は一方的な攻め込みに近いし、東方のは詳細までわからない。


「あなたと私で頑張って供給する羽目になりそうだけれどね、その状況」


 ……確かに。わたしとラミー夫人が公共水道代わりになりそうだ。嫌な想像をしてしまった。


「問題は本当に、持ち込んでいるのがどの方面からもバラバラに入ってきているのよね」


「……確かに、わたくしが確認したのも東側の区画でしたから」


 そう、昨日、わたしが確認したのは東側の区画。西側にあるファルム王国からは遠い方面。だというのにもかかわらず、「杭」を持ち込んでいるのだから、どの方向から来るというのは関係ないのだろう。


「こういう事態に備えてあらかじめ配って潜り込ませていたのか、それとも、潜り込ませていた密偵に商人でも装ってディアマンデ王国内を回りながら配っていったのか」


 まあ、どちらでも変わらないとはおもうけれど。それに、どこから持ち込まれるのかわからないという肝心な部分は変わらないし。


「まあ、これからも十分に注意はするし、発見ししだい、見張りは付けているからどこかに刺したらわかるようにはしているし、ある程度、確認出来たら改めて呼ぶわ」


「そうしてもらえると助かります。わたくしにはもうあまり時間が残されていませんから」


 そう「最終手段」を使うまでの時間が刻々と迫っている。もっとも、使ったあとになら、あるいはもっと自由にこの件に対して対処できるかもしれないけど。


「……『最終手段』を使用したあとは陛下に説明をすると言っていたけれど、すぐに?」


「いえ、その前にここに寄らせていただこうと思います」


 これは最後の打ち合わせといっても過言ではない……のかもしれない。まあ、杭の情報のやり取りをするからそのときにもできるのだけど。


「ああ、言っていたアレね。正式な継承というわけでもないし、いまから渡しても構わないのだけれど」


「いえ、持っていてもおかしいでしょうし、その後の行動について改めて整理したいので」


 わたしの言葉にラミー夫人は少しだけ困ったような顔をした。


「建国祭の当日、私はここにいると思うけど、いつもと1つ違うのは旦那……、ユークもいると思うわよ」


 ユーク。ユーカー・ジョーカー公爵の愛称。まあ、この時期にまで北方に籠ってはいないだろう。すぐに戻るだろうけど、建国祭に顔見せぐらいはするはずだ。


「そこであなたがユークに見つかったらどうしようもないけど」


「まあ、そのときには公爵も巻き込みましょう。あの方なら、あなたの悪戯を見守るような気分で、わたくしのことも見逃してくださるかもしれませんし」


 わたしの知る限りのジョーカー公爵はそのような人間だ。まあ、そもそも見つからないようにというのを徹底するべきでしょうけど。


「……苦笑いしている様子がありありと浮かぶわ。まあ、公爵を1人味方につけておくというのはいいと思う。ファルシオンは……、まあ、無理でしょうし、トリーも微妙、そうなるとあなたのお父様か私の旦那でしょう」


 ファルシオン・クレイモア公爵はウソとか不正は無理だろう。トリフォリウム・クロウバウト公爵は性格的な問題はともかく、公爵夫人や公爵令嬢と秘密裡にやり取りをするというのが家の立場上難しい。そうなるとお父様かユーカー・ジョーカー公爵。しかし、状況的にお父様が快諾するビジョンは見えないので、ユーカー・ジョーカー公爵が最適か。


「まあ、公爵が味方に付いてくださると、時間を稼ぐといいますか、話をうまく運んでいただけるでしょうし」


「旦那の立場を考えれば、その話題運びも不自然ではないものね。……もしものときは巻き込むということでいいかしら?」


「わたくしよりもラミー様とユーカー様が巻き込まれていいのかを決める側だと思いますが」



 建国祭まであとわずか。それはつまり「最終手段」の結構までのリミットでもあり、「たちとぶ」のエンディングが近いということでもある。


 すべてはそこから……、エンディングの先からが戦いの始まりだ。

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