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079話:アリス誘拐事件・その2

 この日、わたしは、誘拐事件の際にアリスちゃんが誘拐される場所と誘拐されて連れていかれる場所の確認をしておこうと、街を歩いていた。


 アリスちゃんが誘拐されるのは、王立魔法学園ととある花屋を結ぶ道。この道は人通りが少ないわけではないのだけど、にぎわっているわけでもない大通りから外れた通りだ。


 ……見ていて思うけど、よくここで誘拐に成功したなあと思う。


 例えば、ものすごくにぎわっていて、少し声をあげたくらいでは喧噪にかき消されてしまうような場所ならわかる。

 例えば、だれもいないような寂しい路地裏とかなら目撃者もいないだろうしわかる。

 でも、そのどちらでもない中途半端な道でよく誘拐なんて目立つまねが成功したものだ。そもそも、普段馬車が通るような大通りならまだしも、馬車があまりいないので、停まっていたら目立つだろうし、印象にも残るでしょう。


 誘拐犯はバカなのではなかろうか。


 いや、バカだからこそ、ファルム王国の間者にいいように使われてしまったのだろうけど。ああ、貴族が実行犯というわけではないから、いいように使われたバカにすら雇われるバカというところか。

 まあ、実際成功しているのだからバカにできないのかもしれないけど。


 それとも、その時間には絶対にだれも見ていない、あるいは、見られても大丈夫な相手しかいないと確信した綿密で計画的な犯行だったのだろうか。……アリスちゃんがいつ外出するのか、日程はともかくとして、時刻的なものまではわからないだろうに、そんなわけもないか。




 一通り隠れられそうな場所や注意しておくべき場所などを見ると、誘拐されたあとに連れていかれる廃屋敷まで向かう。場所は王都の中で端の方でこちらは人通りも少なく、人気はあまりない。


 ストマク伯爵の屋敷。


 このストマク伯爵はかつて、王都に屋敷を持つくらいの貴族だったけど、脱税がバレて、それをクロウバウト公爵家に追及され、爵位がはく奪、屋敷も押収されてしまった。


 その結果、国が差し押さえた屋敷は、その後、解体もされず、放置された結果、廃屋になってしまったのだけど。管理はしっかりしようよと思いながらも、その場合、どこの家が管理するのか、国が管理するなら何に使うのか、そのほかもろもろな問題もあって、結果放置されたらしいことは「たちとぶ」でも語られていた。


 このストマク伯爵はビジュアルファンブックでも語られることはなく、その後どうなったとか、どこでどうしているとかはまったく不明。


 ああ、誘拐犯とストマク伯爵は何の関係性もなく、王都の手ごろな廃屋として利用されただけ。



 そう、これから起こる誘拐事件にネタバレも何もないのだけど、この事件の裏にいた貴族はインテスティン子爵。領地は確か、南のほう。南とはいっても、パンジーちゃんのブレイン男爵領とかほどの辺境ではなくて、王都から若干南に行ったところというだけなのだけど。


 こちらは一応、ビジュアルファンブックで補足があって、子爵という爵位を持っているけど、領地にこれと言った特産物もなく、南側からの漁業の特産品を輸入しているほか、平原のため農業も行われているが、川がほとんどないため、西にある湖から他領を経由し水を引いている関係上、水関係の税が高く、あまり盛んではないらしい。

 この西にある湖というのは、元ツァボライト王国との国境にある湖のこと。

 このような事情からかなり貧乏な生活を送っているらしく、生活は辺境の男爵と同じかそれ以下らしい。つまり、パンジーちゃんのところと同じか、それ以下ということ。パンジーちゃんのところは特産品として海産物があって周辺に売ったり、自領で食べたりするので、まだ潤っているのかもしれない。


 そういった事情を加味すれば、インテスティン子爵は、ハンド男爵と同じような形で利用されたのかもしれないけど、最終的に足がつくことを考えれば、彼らもそんなインテスティン子爵に自分たちの情報を与えないだろうから適当なことを言ってそそのかしたほうが納得できる。


 例えば「光の魔法使いは国から手厚く保護されている。身代金を要求すれば国からいくらでももらえるぞ」とか。まあ、普通は「手厚く保護されている」なら手を出さないんだけども。まあ、この辺は憶測に過ぎなくて、「たちとぶ」内では「私怨による誘拐」としか語られていなかった。



 ストマク伯爵の屋敷は手入れこそされていない様子で、庭の草木がうっそうとしているものの、屋敷自体はそこまでボロボロというようでもなく、足を踏み入れたらすぐにどこか壊れていて、けがをするみたいなことはなさそう。


 王都の別邸ということもあって、そこまで大きな屋敷ではないし、敷地内にはほかの建物もない。


 安全に救助するために、どこに人員を配置すべきか、それを考えながら敷地の周りを怪しまれない程度に観察して、その場を去った。








 という調査の結果をラミー夫人に伝える。ラミー夫人にはすでにインテスティン子爵についての調査を依頼していた。なので、互いの調査結果の交換という形になる。まあ、もっとも、ラミー夫人ならわたしが入手した程度の情報は既に持っているだろうから、あらためて人の配置する場所をすり合わせるための情報共有といった意味合いのほうが強いでしょうけど。


「なるほどね。大体、こちらで把握している通りね。……あらためて思うけれど、本当にこれで誘拐が成功するのよね」


 さすがの彼女も、誘拐される通りのことを考えてはそう思うらしい。わたしもまったく同じ気持ちだけど、「たちとぶ」では成功したとしか言えない。


「わたくしとしても同感ですが、わたくしの知るところでは実際に成功していました。ただ、証拠も多く、その結果、殿下が誘拐犯の居場所を特定するに至ったわけですが」


 まあ、杜撰だからこそ、王子がどうにかできたのだから、それでいいのかもしれないけど。今回はさらに保険としていろいろとしておくから解決は早まると思う。


「そうね……、まあ、いいでしょう。とりあえず、人員の配置に関してはあとで詰めるとして、先にこちらからインテスティン子爵について話してもいいかしら」


 インテスティン子爵の調査に関しても進展があったらしい。わたしは頷き、ラミー夫人に続きを促した。


「まず、インテスティン子爵は間違いなく関与しているわね。これはほぼ確定と見て間違いないわ。あっさりと情報がつかめすぎて、逆にだれかがそう仕向けているのではないかと思うくらいには情報がつかめたもの」


 ラミー夫人は苦笑い気味だ。それほどに杜撰だったのだろうか。まあ、「たちとぶ」のことを考えれば本当にそれほど杜撰だったのだろうけど。


「それから誘拐犯に関してだけど、主犯となるのは4人だと思うわ。まあ、ほかに仲間がいるのか急場で雇うかして、それなりの規模で行うでしょうけど」


「なぜ4人だと?」


 それに関しては、わたしもまったく把握していない。「たちとぶ」内でもビジュアルファンブックでも誘拐の実行犯に関しての説明はまったくといっていいほどなかった。そもそも立ち絵もなかったし。スチルでの描写もなかったので、その情報は持ち合わせていない。


「少し前にインテスティン子爵の領内で商家の娘を狙った連続誘拐事件があって、その犯人自体は捕らえられたのだけど、調査の時点ですでに釈放されていたわ。インテスティン子爵の命令だそうよ」


 なるほど、その犯人が4人組か、あるいは、逮捕されていたのが4人だったわけか。それにしても、そんなわかりやすい犯人を使うなんてことあるだろうか。


「誘拐犯が捕まれば、インテスティン子爵の領内で捕まったことはすぐに分かりますよね。釈放したインテスティン子爵に疑いが集まるのは当然だと思うのですが、そのあたりはどうするつもりなのでしょうか」


 ラミー夫人が調べて記録が残っているのから、王都で捕まったところですぐに明るみになると思う。当然、釈放したインテスティン子爵に責任があるだろうし、誘拐事件への関与がバレなかったところで、釈放した責任で、爵位はく奪の可能性は高いと思う。


「さあ、私にもさっぱり。ただバカなだけか、何かしらの逃れる手段があるのか、自棄になっているのか、どれとも言えないわ」


 わからなくて当然か。逃げおおせる手段があるのなら、どんな手段か知っておきたいけど、まあ、インテスティン子爵はあくまで操り人形に過ぎない。わたしたちの狙いは、そのさらに裏にいるファルム王国だ。


「まあ、インテスティン子爵に関してはこんなものよ。それで人員なのだけど……」


「人員に関してはジョーカー家側からは完全にファルム王国の密偵に充ててください」


 ラミー夫人が直接指揮を取れる人員がファルム王国の間者の調査にあたるべきだろう。それが多いに越したことはない。


「そうなると、誘拐事件自体のほうはどうするのかしら。警備でも借りてくるか、ロックハート家の人員を割くかになるでしょうけど」


「いえ、騎士を借ります」


 騎士。彼らほどこの状況に適した人員はいないでしょう。ただし、動かすのが非常に難しいけれど。


「動かす手立てはあるということでいいのかしら」


 それは「誘拐事件が起きるということを明かさずに動かす方法はあるのか」という問いかけでしょう。


「どうでしょう。やってみないとわかりませんが、できる限りやるつもりです。それこそ、難しいようでしたらロックハート家の人員を割きます」


 現状は交渉しだいというか、わたしへの信用と、言いくるめる力にかかっていると言わざるを得ない。さて、クレイモア君相手に、どこまで協力を得られるだろうか。できる限りスムーズに言ってくれるとわたしとしてはありがたい。


「まあ、最悪の場合は、密偵の調査のほうを減らすこともできるわ。逆に多すぎても露見するリスクはあるし」


 多すぎてもバレるリスクが高いのは当然だけど、人員がいるに越したことはない。例えば1人を追跡していても、同じ人がずっと後をつけていたら怪しまれるし、そうしたときに、定期的に別の人と交代する必要などはある。全員が全員、常に調査するための人員というわけではなく、そうした集団としての調査のためにも、やはり人員は必要。


「とりあえず、やってみましょう」


 そうして、その日のわたしとラミー夫人の話は終わった。


 さて……、騎士を動かす足掛かり、クレイモア君の説得をどうしたものかと、わたしは頭を巡らせるのだった。

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