表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/275

078話:複合魔法の訓練・その2

 今日はパンジーちゃんに複合魔法の指導をしていた。これから先、本格的に王子ルートを進行していくなら、要所要所での……例えば、今回の誘拐事件のようなポイントでの介入やそのための準備は必要でしょうけど、それでもほかの攻略対象たちとの好感度調整が必要なくなって、王子とアリスちゃんに任せられる分、わたし自身の空き時間は増えた。


 だから、やれることの幅や不十分だったことに充てられる時間も増えた。その1つがこのパンジーちゃんの複合魔法の訓練である。


「魔力を……、魔力を……、均等に……」


 パンジーちゃんは未だに複合魔法には至れずにいた。それでも、一歩ずつではあるけど前進して、あと一歩というところまでは来ているとわたしは思う。わたしが思ったところで、パンジーちゃんしだいな部分もあるので、まだまだ遠かったという可能性もなくはないけど。


「水の魔力と……、風の魔力を……」


 神経を集中させて、魔力を混ぜ合わせようと懸命なパンジーちゃん。魔力量的にもそんなに何回もできないので、今日の訓練としてはこれで最後でしょう。


「均等に……、均等に混ぜ合わせて……」


 魔力が練られたのを感じ取る。それがどういう形になって出現するか。水と風がバラバラに出現するか、「氷結」となって出現するかで、成否が分かれる。


「イメージを固めて、撃ち放つ!」


 瞬間、パンジーちゃんの手元から冷気が放たれ、地面の一部を僅かに凍らせた。これはまぎれもなく、「氷結」の魔法だ。


「……!

 やったわ、見て、カメリアさん!」


 まばたきをして、それが本当のことか確かめるように数秒目を見開き、両手を挙げて喜ぶ。まあ、当然と言えば当然の反応だろう。わたしは拍手をして彼女を讃える。


「おめでとうございます、パンジー様。これで、この国で2人目の複合魔法の使い手となりましたね」


 これは素直に称賛している。お世辞でも何でもなく、凄いできごとだ。なにせ、「たちとぶ」において、彼女が複合魔法を習得することはなかったのだから。それを完全に覆し、その一歩を踏み出した。それだけで褒め称えるには十分なこと。


「ありがとう、カメリアさん。あなたのおかげよ」


 不敵な顔で笑う彼女は、偉業を達成したからか、自信ありげでとても輝いて見えた。そのパンジーちゃんがわたしへの感謝を述べたまま、さらに言葉を続ける。


「でも、先ほどの言葉は間違っているわね」


 さきほどの言葉……?

 間違うという言葉ができようされそうな言葉をほとんどしゃべっていない。「おめでとうございます」に間違いもなにもないだろうし……。そうなると、


「2人目というところよ」


 まあ、間違っていると言われそうなのは「この国で2人目の複合魔法の使い手となりましたね」という部分くらいのものだろう。

 でも、表向きにはラミー夫人とパンジーちゃんの2人だけがこの国で、いま複合魔法を使うことができる魔法使いであることは間違いない。


「何が間違いだと思うのでしょうか」


 2人目で合っているよ、と暗に伝えるけれど、パンジーちゃんはわずかに呆れた顔をして、わたしの目を見て言う。


「どれだけ私があなたと一緒にいたと思っているの。気が付かないはずがないでしょう」


 ああ、これは、まあ、バレているでしょうね。語気からも、そう確信していることが伝わってくる。


「あなたも複合魔法を使えるはずよ。だから私は3人目だわ」


 それに対して、どう反論するか考えながら、口を開こうとしたときに、パンジーちゃんはそれを制して言葉を続けた。


「もちろん、カメリアさんに事情があることくらいわかるわ。言わない理由……、いえ、言えない理由があることも。でも、それでも、私が知っているということくらいは言っておきたかったのよ」


 さて、どうしたものか。ここで完全にしらを切ることもできる。何を言っているのかわからないと言い切ってしまうこともできる。


 でも、そうするべきなのだろうか。


 もちろん、知っている人を減らす、情報漏洩を無くすという観点からいえば、まず間違いなくしらを切るほうが正しいと思う。でも、本当にそれでいいのか。


 ……。そう。ここは……。


 フィンガースナップを鳴らし、パンジーちゃんの元へと冷気を運ぶ。「氷結の魔法」だ。


「そうですね、ここに来ても隠しおおせるものではないでしょう。わたくしもまた、複合魔法の使い手です。いままで明かさず申し訳ありませんでした」


 まあ、あれだけ丁寧に複合魔法について教えて、「聞いたことをそのまま教えているだけです」では通らないだろうとは思っていた。


「そして、それを明かしてしまった以上、簡単に推察できてしまうことでしょうから明かしますが、わたくしは五属性の魔法を扱うことができます」


 もはや、4つも5つも変わらない。風が追加で使えると教えた以上、そこを黙っておく意味もない。


「私の予想以上だったわ。でも、やはり、私の感覚は間違っていなかった」


 パンジーちゃんは苦笑いしている。わたしも同じような顔をしていることだろう。


「このことは殿下も存じていらっしゃるの?」


 彼女の問いかけにわたしは首を横に振る。王子にも未だにこのことは教えていない。というよりも、ほとんど知られていない。


「魔法の属性数について知っているのはパンジー様以外ですと、家族とラミー様だけです。複合魔法のことはラミー様だけですね」


 まあ、ほとんどの人は「三属性」というだけでも十分に凄い肩書に思えてしまうのだろう。それ以上ということはそんなに考えないようだった。


「あら、それは」


 本当に知っている人が少なくて、パンジーちゃんも驚いたのだろう。なぜ、わたしには素直に明かしたのかと。


「隠し通せないと思ったから明かしたというわけではありませんよ。高慢ちきな言い方となりますが、わたくしはパンジー様を認めたからこそ明かしたのです」


 そうでもなければ、わたしは秘密を明かすなどというリスキーなことはしなかった。パンジーちゃんを明かすにたる人物だと思ったからこそ、明かした。


「ですが、パンジー様、このことは」


「他言無用。それくらいはわかっているわ。もともと、だれにも話す気なんてないわよ」


 それを理解していることくらいわかっていたけど、念には念を入れていっただけ。それからもう1つ、パンジーちゃんに言わなくてはならないことがある。


「それから、パンジー様は確かに『複合魔法』を使えましたが」


「わかっているわ。この規模だからできたことだし、実際に使えると言える域までは遠いし」


 それも1つだけど、それだけではない。確かにいまは小規模に限定していたから魔力の調整に失敗しても大丈夫な規模だったというのはある。


「それだけではなく練度も必要です。魔法の発動にそれだけ時間がかかってしまっていてはとっさのときに使えません」


 使うのに一々、あのように神経を集中させて、時間をかけていたら隙が大きすぎるし、何かあるというのはバレバレだ。まあ、それは戦争想定だけど、それ以外の有事でもとっさに使えないのだったら複合魔法を使う必要はないし、普通に水か風の魔法を使えばいいだけだ。それでは複合魔法を習得した意味がない。


「確かに、カメリアさんは即座に使えていたわ。わたしもそうできるようになるまで訓練は続けないと……」


「わたくしは幼少期からずっと訓練していたので時間と慣れの問題だとは思いますけど、その訓練にも付き合いましょう」


 習得させたと言い難いし、あくまでできたという状況なので、パンジーちゃんの訓練はまだまだ続けていかないといけない。


 それでもひとまずの課題クリアというところだろう。複合魔法の使い手が3人。ただ、うち2人が「氷結」だけだから、対策を練られるとダブルアウトなのがね。

 まあ、対策って具体的に何と言われると困るけど。


「まあ、今日は初めて使えた記念に、もう休みましょう。当家でお茶でもいかが?」


 パンジーちゃんの魔力はもうカツカツだし、これ以上無理させるわけにもいかないので、無理やりにでも休憩させる。


「うれしい誘いだけど、寮の時間もあるしやめておくわ。言われずとも、自分の魔力くらいはわかるもの。今日はおとなしく休むわよ」


 わたしの意図はしっかりと伝わったようでよかった。調子に乗ってもう1回、試しに複合魔法を使ってみようとかしたら、倒れてしまうだろうし。


「そうですか。では、今度、一緒にお茶にでも行きましょうか」


 まあ、アリスちゃんの誘拐事件が終わってからになるから、しばらく先になるでしょうけども。


「ええ、いいわね。アリスも誘いましょう」


 前に3人でお茶をして以降、パンジーちゃんとアリスちゃんの仲はそれなりにいいようで、寮でもそれなりに話しているようだ。


「では、いつまでもこんなところでだらだらしているわけにもいきませんし、氷を融かしてしまいましょうか」


 凍り付いた地面を火の魔法で融かして、すぐに水たまりにする。それはすぐさま、地面に吸い込まれていった。雨が降ったわけでもないのにここだけ濡れていたら不自然なので、ほかの魔法を併用して……土魔法で土質の変化、木魔法で植物を茂らせるなど、場所を整えた。


「さすが五属性」


「誉めても何もでませんよ」


 そう言いながら、わたしたちはその場をそそくさと去るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ