表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/275

077話:アリス誘拐事件・その1

 アリスちゃんが誘拐される事件が発生するのは、王子ルートを進行してしばらくのこと。つまり、いまはまだ時間的猶予がある。


 誘拐事件までは1週間以上あるだろうか。


 そもそも王子ルートの流れを簡単に説明すると、校外学習で距離を縮めたアリスちゃんと王子だったけど、王子とは、うまく距離を縮めることができず、どこかよそよそしいようなそんな様子が続く。王子としても仲良くしたいが、そこにはカメリア・ロックハートという婚約者というな邪魔と身分の違いによる周囲からの目、そして何より、危険も伴う王族という立場にアリスちゃんを巻き込んでしまっていいのかという葛藤。

 しかし、そんなさなか、アリスちゃんが誘拐される事件が起きる。王子は、アリスちゃんが誘拐されたのは自分のせいなのではないかと思い、懸命に情報を集めながら、その居場所を突き止める。誘拐事件を解決、王子はアリスちゃんを無事に助け出した。星空を見上げながら王子とアリスちゃんは星に関して話して、誘拐事件パートは終わる。

 そのあと、イチャイチャしながら距離を縮める日常パートがしばらく続き、物語は建国祭へと移っていく。そして、建国祭の準備をしながら、アリスちゃんと王子は互いに覚悟を決めて、互いに思いを確かめ合ってエンディング。

 エンディング後に、建国祭当日、カメリアの処刑をさらっと流しつつ、物語は終わる。


 と、まあ大体こんな感じ。


 つまり、いまは「たちとぶ」の通りだとすれば、すれ違いの真っただ中……のはずなんだけど、特にアリスちゃんと王子でよそよそしさなどもなく、いままでとまったく変わっていない。さっそく「たちとぶ」から外れているような状況。

 だけど、わたしはそれほど悲観的ではなかった。


 おそらく誘拐事件が起こるであろうということは確定している。であるなら、王子とアリスちゃんの仲がいいこと自体にはそこまで問題はない。

 これがまた四六時中一緒とかになると、誘拐のタイミングとかに影響が出て、問題が起きそうだけど、そういうレベルでもないし、普通にただ仲がいいだけだ。

 物語の進行に影響がないのなら、そこまで悲観する必要はないでしょう。


 しかし、ここで問題になってくるのは、誘拐事件のときの間者たちの動きと、それからウィリディスさんのことがいつバレるのか正確なタイミングをこちらがつかめていないこと。

 建国祭の翌月、つまり今年最後の月で戦争が起こるということは、その前のタイミングですでにウィリディスさんのことがバレて、クロガネ・スチールをはじめとした間者たちは撤退しているはず。


 誘拐事件のタイミングのころには、すでにウィリディスさんのことがバレていて、戦力削りのための誘拐だったのだとしたら、本格的にアリスちゃんの身が危ない可能性もある。ただ、「たちとぶ」では、立ち絵ありだった先生ことクロガネ・スチールが消えたともいなくなったとも明言されていなかった。


 すくなくとも建国祭について話していた先生の立ち絵はクロガネ・スチールだったのは間違いない。だから誘拐事件のときには撤退していないことになる。


 あるいは、撤退せずに戦争になったら侵攻軍と合流するという可能性もあるのではと思ったけど、「たちとぶ2」でのマカネちゃんの発言からするに、戦争開始時点でクロガネ・スチールは自国にいたはずなのだ。

 どこかしらで、少なくともクロガネ・スチールは撤退もしくは帰国をしている。


 つまり、彼が撤退あるいは帰国したのは、誘拐事件後、建国祭について説明してから戦争開始するまでのどこかとなる。

 建国祭後、つまり本編終了後という可能性は捨てられないけど、いくら準備しているとはいえ「いました」、「じゃあ戦争開始」という即日開催はいくら何でも無理がある。

 秘宝捜索側と障がい見極め側の情報の精査とそれを合わせた作戦も必要だろう。いくら奇襲に近い開戦とはいえ、無策ではない。


 なぜこんなにもタイミングを気にしているかというと、誘拐事件のときにすでに撤退態勢だったのなら、こちらの対応も変わってくるから。

 逃げられる可能性を極力減らすためにどうするべきかを考えて、作戦を練る必要がある。






「また難しい考えごとですか、カメリア様」


 アリスちゃんがそんなふうに声をかけてくる。お気楽そうな声だけど、これから先に起こることを考えれば、このくらいのお気楽さはむしろないとやっていけないかもしれない。


「少し考えごとをしていました。ですが、まあ、考えてすぐに分かることではないのですけれどね」


「お前は常々思考を巡らせすぎだ。多少は休むことも覚えろ」


 そうはいうが、考えを放棄してしまって、死んでしまっては元も子もない。ともかく、いまは最善を尽くすために思考を回す必要がある。


「わたくしが思考を休められるとしたら、それは目的を達成したそのときでしょうね」


 それまでは、何が何でも思考を回し続ける必要がある。死なないために、どれだけでも頭を回す。無駄な思考だろうと、正しい思考だろうと、それが無駄かどうかはそのときにはわからないし、その思考の正否はやっぱりそのときにはわからない。


「その目的はよほど大層なんだろう。いまだにさっぱり見えてこない」


「もしかすると、そのうちわかるかもしれません。まあ、それまでわたくしが生きていればの話ですが」


 わたしが死んでいたら、目的を明かすも何もない。その時点で目的は達成できていないのだし。


「前にも言ったが危ない橋は渡るなよ。ここしばらくは国家間の大きなもめごとも起きていないが、だからこそそろそろ何か起きてもおかしくない」


 王子の耳に入らない小競り合い程度のできごとならいくつかあるだろうけど、それを除いた国家規模のできごととなれば、近年だとクロム王国の王家転覆騒動くらいで、国家間の規模になると、それこそツァボライト王国とファルム王国の戦争にまでさかのぼるだろう。

 それは、まあいろいろと理由はあるのだけど、王子が言いたいこともわかる。国家間の緊張がゆるみだしたころに、そういった戦争などは起きやすい。だからこそ、「あまり危険なことに首を突っ込むなよ」と言いたいのだろう。

 だけれども、首を突っ込まざるを得ない。それがわたしの目的に直結しているのだから仕方ないでしょう。


「ええ、まあ、近い内になにやら起きるかもしれませんが、わたくしはわたくしの目的を果たすために全力を尽くすだけです。それが危険なことだったとしても。まあ、それでも命は大事にしますよ」


 なにせ、端的に言えばそれが目的なのだから。「死なないこと」が目的なのに命を粗末に扱うわけがない。


「お前は、錬金術、魔法、学問、すべてにおいてこの国に貢献している。だから、その……、なんだ、何かあったら国が全力で守るだろう」


 それは王子なりの言葉なんでしょうけど、わたしとしては、もしかしたらわたしを処刑するかもしれなかった人にそれを言われても何とも言えない気持ちにしかならないんだけどね。そもそも、国というのも一枚岩ではない。

 貢献しているからこそ妬ましくて、なんて貴族は絶対にいる。自分の挙げるはずの功績を取られたとか、自分が研究するはずだったのにとか、そんなことを思う輩は必ず存在する。そんな人たちが全力で守ってくれるはずなどない……とは思うけど、さすがにそれを王子に向かって語っても嫌な空気になるだけだろう。


「まあ、何かあったら期待しております」


 なんて無難に返した。期待はしていないけども。


「カメリア様は目的があるみたいですけど、その目的を果たしたらどうするんですか?」


 アリスちゃんの質問に反応したのは、わたしよりも、王子の後ろに控えていたウィリディスさんだった。まあ、彼女も思うところがあるのでしょう。


「決めてはいますよ。ですが、それは目的を果たしたあとにでも、教えて差し上げます」


 そう、「自由に生きる」。そんな次なる目的のことを。アリスちゃんに王子を押し付けながら、教えてあげようじゃないの。


「まあ、わたくしの目的の話はいいでしょう」


 これ以上聞かれても答えることはないし。別の話題に変えたほうがわたしにとっても、ほかのだれにとってもいいだろう。


「そうですね、アリスさんは最近、学園の外へは行きましたか?」


 雑な話題振り……のように周りには見えたと思う。でも、これはれっきとした情報収集の一環だ。


「いえ、最近は学園と寮だけですね。でも、庭師の方がいいことを教えてくださいまして、もうしばらくすると王都のお花屋さんに珍しい花が入荷されるそうなんです。だから、そのころには一度出かけるかもしれませんね」


 これはわたしも知っている。「たちとぶ」において、誘拐されたきっかけは、その花を買いに行ったこと。じゃあ、庭師が犯人でアリスちゃんを誘導したんだとか、王都の花屋が犯人でアリスちゃんを外に連れ出すために庭師に吹き込んだんだとか、誘拐事件のシーンをプレイしていた当時のわたしはそんなことを考えていた。

 まあ、結局全部大外れだったんだけど。庭師も花屋も事件にはまったく関係なかったし、その珍しい花も普通に売っていた。


 ちなみに、潜入者が裏にいると聞いてすぐに、その2人の身辺調査を依頼したけど、その周辺人物に至るまで潜入者とつながりのありそうな要素はなかったので、本当に犯人でも何でもなかった裏付けが取れてしまった。

 庭師も花屋も疑ってゴメンね。でも汎用立ち絵とはいえ立ち絵ある庭師とか怪しいじゃない。


「あら、いいですね。まあ、こんな話題を振ったわたくしも街には最近行っていないのですが、おいしいお菓子を売っていると評判のお店を聞きまして、アリスさんの行く生花店の位置しだいですが、寄ってみてはいかがでしょう」


 まあ、当然ながら花屋の場所は把握しているし、わたしがいま挙げたお菓子屋は、誘拐された経路の花屋と学園の間にある。

 確実にその経路を通るようにするための保険だ。ちなみに、選択肢によっては、アリスちゃんはこのお菓子屋の話を寮で偶然耳にして、花屋に行くついでに、王子にお菓子を買おうとする。

 王子とアリスちゃんがすれ違っていないので、そのイベントが起きるかどうかわからない部分もあって、ここであえてわたしが話題を出すことにした。


 ちなみに、ルート突入後の選択肢は、差分的な選択肢でしかなくて、結末などには全く影響しない要素。どっちを選んでもバッドエンドになることはないし、ちょっとしたオマケのようなものと考えていい。

 そんなことを考えながら、お菓子屋の位置をアリスちゃんに教える。


「へえ、あ、その位置ならちょうどお花屋さんまでの道にありますね。じゃあ、ちょっと寄ってみます」


 ウキウキしているアリスちゃんに王子は和やかな目を向けていたけど、わたしとしては確実に誘拐されるように仕向けている以上、少し心苦しくもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ