064話:校門イベント(アイコン・クレイモア)・その3
クレイモア君の魔法に関する話というのは、クレイモア君の初イベントでも描かれたように「たちとぶ」においては、魔法や錬金術は知らなくてもいいと思っていた。もちろん、わたしの自覚なき介入により、わたしの知るクレイモア君は魔法や錬金術などいろんなところに手を出していきたがっているようだけど。
それで、そんな魔法に関する話がすでに描かれたクレイモア君の魔法に関する今回の選択イベントでは、王子に国立魔法学研究棟の見学を誘われたアリスちゃんだったけど、王子が当日用事でいけなくなり、それでも国立魔法学研究棟の見学をすることになって、当日に行ったら、偶然きていたクレイモア君とばったり会って、一緒に見学するというもの。
わたしは、じゃあ、王子の代わりに案内役を買って出ようと思っていたのだけど、その提案をする前に、王子から「代わりを頼む」と頼まれたので、快く引き受けた。
国立魔法学研究棟は円柱状の建造物で、人の出入りも多い。魔法はこの国でも主流の技術なので、費用も潤沢で研究者も多く存在する。錬金術と比べると雲泥の差だ。
そんな国立魔法学研究棟だけど、わたしもそれなりに出入りはしているけど、国立錬金術研究棟……「勾玉の棟」ほど熟知しているわけではない。
いや、とある事情で内部状況というか構造的な面ではよく知っているし、一部研究に関してもそれなりに知っているけど……。
そもそも錬金術は戦争回避のことも考えて発展させているけど、魔法のほうに関してはわたしよりも詳しい専門家がうじゃうじゃいるのと、わたしが表に出していい情報がほとんどないので、そんなに取りざたされるようなこともないし……。
せいぜい複合魔法関係くらいで、それも、わたし自身が使えないものを公表するわけにもいかないので、基礎情報しか出せていない。
そんなわけで、そんなに詳しくない国立魔法学研究棟を案内することになってしまったのでどうしたものかと頭を悩ませている。
「ここが国立魔法学研究棟、魔法学の最先端にして魔法のすべてが詰まっているといっても過言ではない施設です」
もっとも前提として「いま知られている魔法の」というものが入るけど。つまり光の魔法や闇の魔法、複合魔法などはこの研究棟でもまったくといっていいほど研究が進んでいない。
「凄く広い場所ですね」
実際のところ、そんな感想がでるのもわかるくらいに大きな建物ではあるのだけど、まあ、アリスちゃんもお兄様のルートに入ったら、また来ることもあったかもしれないけど、是が非でも王子ルートにいってもらう予定なので、あまりくる機会はないだろう。
「まあ、研究職にでもつきたいと思っていない限りはここにくる機会も少ないでしょう」
ちなみに、前にシャムロックに言っていた木属性の魔法による成長促進での可食植物の研究であったり、野菜開発であったりもこの国立魔法学研究棟で行われているもので、室内では行えない実験のために、屋外大型実験場という名の平地も存在して、その一角に畑がある。
屋外大型実験場は魔法学研究棟に隣接しているものの、錬金術研究棟と共用であるため、わたしもよく利用している。……が、今回はそこまで紹介しなくてもいいだろう。
「おや、あそこにいらっしゃるのはクレイモアさんではありませんか?」
などとわざとらしくいったけど、いるのはわかっていた。しかし、クレイモア君は前に錬金術研究棟を案内しているし、そう考えると妙な縁な気もする。
「本当ですね、クレイモア様は研究棟によく来られるのでしょうか?」
まあ、たぶんほとんど縁がないはず。確か今日来ているのも、確か見聞を広めるためと届け物をするためだったはず。
「クレイモアさんもこちらに気付いたようですね」
クレイモア君はわたし達を見つけると丁寧にお辞儀をしてから寄ってきた。
「カメリア様、アリス殿、このようなところでお会いするとは思いませんでした」
「それはこちらもですね。実はアリスさんを案内するように殿下に頼まれたのですが、クレイモア様もご用件しだいですが、一緒にいらっしゃいませんか?」
進行が「たちとぶ」と同じなら、届け物はすでに終わっているはずで、あとは見聞を広めるという具体的な目的の無いほうだけ。
「よろしいのでしたら同行させていただきます。父より魔法学研究棟で見聞を広めるようにと言われていますので」
とはいうものの、わたしも大して紹介できるほどのものはないんだけどなあ。まあ、適当に紹介すればいいだろうか。厳密にどこを紹介しろと言われたわけでもあるまいし。
「アリスさんもそれで構いませんか?」
「はい、よろしくお願いします」
「まず、ここでは主に、魔法の変化に関する研究を行っています」
「変化ですか?」
魔法の変化というのは、例えば、火の魔法を球状に出現させたり、土の土質を変化させたりという、自然に起こるもの、出現するものとは異なる形に変化させることを指す。風で木を割いたり、水を球状に浮かせたり……挙げればきりがない。
魔法を感覚で使う以上、基本的には様々な形で魔法を発現させることができるはずだけど、では、それはどこまで有効なのか。どのような形状の変化までは可能で、できないものは何が原因なのか。
そうしたことを調べるのがいまいる研究室だ。
そんな感じのことをザックリと説明する。
「つまり、どこまでが魔法として認識されるのかの実験や研究ということです」
ただ、これも人によって差異があるようで、同じ変化でもできる人とできない人がいるようなのだ。
例えば、わたしは魔法を火の矢のように形成して前方に飛ばす、アニメやゲームなどにありがちなものを作れるけど、多くの人はそれを実現できないらしい。そのあたりは、やはり、イメージの差なのだろうか。
「この研究をするとどういうことが分かるんですか?」
「活用できる形が明確化できるので、いままで魔法でできていなかった仕事が魔法でできるようになるかもしれない。そうしたことがわかっていく重要な研究です」
もちろんそれだけではないけど、わかりやすくいうならということを重視しているので説明はできるだけ簡単に済ませる。
「ということで次に行きましょうか」
「ここでは、魔法の根源であるという魔力と信仰心について研究しています」
いまだに魔力とは何かということに対して、明確な答えを持っている人間はいない。そして、それと信仰心の関係性も。
錬金術でいうところの根源研究と似たような研究ともいえるけど、魔法の根源的な思想で言えば、信仰だから、実を言うと微妙に違う。
「魔力というのが何か具体的に答えられますか?」
「えっと……?」
「人や生物、大地が持つ生命の力とされていますが正確にはわかりません」
まったくわからないアリスちゃんと一応答えを持つクレイモア君。クレイモア君の回答は間違いではない。
「その通り『わからない』が正解です。いま、明確な答えを持っている人間はいません」
そう「人間は」いない。天使アルコルならば答えを持っているかもしれない。ただ、教えてくれそうにはないけども。
「だからこそ、ここではそれを研究しているのです」
その後も、魔法の性質に関する研究や魔法と統治などの歴史の関係に関する研究、水属性の魔法によって生み出された魔法の成分研究などなど、様々な研究の部屋を解説しながら紹介して回ったのだった。
「それにしてもカメリア様はよくご存じですね。専門分野というわけではないんですよね?」
「ええ、ただ使える魔法の属性数が多かったり、魔力の量や対価の量が多かったりするといろいろな研究に協力を要請されることがあるので、そういった理由はありますけどね」
あくまで専門家ではないのだけど、便利な魔法使いとしていろんな研究に顔を出しているので、実験協力者などに名前が挙げられていることが多い。
ちなみに、昔はラミー夫人にも協力要請をしていたけど、ことごとく「つまらない」、「面白くなさそう」という理由で蹴られ続け、しばらくしたら要請を出すことが無くなったという過去があるらしい。
「そのようなことまでなさっていたのですね」
「まあとはいっても本当に研究の手伝い程度です。クレイモアさんも知っての通り、わたくしはこれでも公爵令嬢なうえに殿下の婚約者ですからね。無茶なものはありませんよ」
実験で王子の婚約者が亡くなったともなれば大事だ。研究の停止どころの話ではなくなるだろうし、実際、そんな無茶を強いるようなマッドな研究者はいなかった。
「さあ、一通りは見学を終えましたけど、満足していただけたでしょうか?」
「はい。まだまだわたしは全然知らないことばかりなんだなあって改めて思いました」
まあ、アリスちゃんは知らなくて当然なんだけど、自覚を再認識したのだからいい経験になったのではなかろうか。
「自分もまだ知らない知識が多く、糧にできそうなものもあったので大変勉強になりました」
クレイモア君は、騎士に全力を注いでもいいとは思うけど、まあ、糧になったというのだからよかったのだろう。
それにしても、わたしが案内したので、2人の好感度の関係はそこまで変化しなかったと思うんだけど、実際どうなんだろう。
選択イベント自体はまだ続くけど、好感度の大幅な上昇がある選択イベントはもう終わってしまった。つまり、ほぼほぼルートが確定しまう状況。だからこそ、いまの段階で王子ルートに入るだけの好感度になっていて欲しい。
いっそ、今度、アリスちゃんに直接聞いてみるか。攻略対象たちで誰が好きなのかって。それである程度確信が持てる……かもしれない。
それから、あれからまったく音沙汰の無いラミー夫人も心配だ。クロガネ・スチールへの疑いは強いけど、いまわかっているのは「出どころはハンド男爵領シャープ村」という情報だけ。
その情報をもらってからだいぶ経っているんだけど……。
不安を残しながらも、好感度上昇の大きな選択イベント10個が終了するのだった。




