表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/275

061話:校舎裏イベント(アイコン・ベゴニア)・その4

 好感度が大きく上昇する選択イベントには大きく分けて2つのコンセプトがあるらしい。これはビジュアルファンブックに載っていたもので、1つはその人物の人となりがわかるようなイベント。もう1つはその人物の魔法について触れるイベント。

 この2つにわけられるらしい。


 ただし、王子に関しては共通パートで人となりと魔法に対する掘り下げがあるため、このパターンから外れている。

 前者のイベントがこれまでの謎クイズお兄様と花の世話好きシャムロック、騎士として誇りを持つクレイモア君、人の話を聞いてくれるアリュエット君の部分。


 つまり、これから待っている選択イベントは、そのどれもが魔法に関係しているイベントになるというわけ。





 さて、今回のお兄様のイベントは、イベントスチルのあるイベント。窓から落下してくるアリスちゃんをお兄様が風の魔法で受け止めるもの。お姫様抱っこのイベントスチルの人気は非常に高い。

 前回の意味不明クイズ選択肢の悪評を打ち消すくらいには人気。


 イベントの経緯としては、校舎の2階を歩いていたアリスちゃんのハンカチが風にあおられ窓から外に、それを取ろうとしたアリスちゃんは窓から落下しそうになってしまう。そのときに偶然、窓下にいたのがお兄様で、落ちるアリスちゃんを風の魔法で支えて、華麗にお姫様抱っこで受け止める。


 問題はこのイベントをどう過ごすかという部分。


 まず、アリスちゃんの落下を全力で阻止する。この場合は、ハンカチが飛ばないようにする、ハンカチが窓から出る前にキャッチする、窓から落ちそうになるアリスちゃんを引き留める。

 そして、次の選択として、アリスちゃんをわたしが受け止めるというものがある。


 一番簡単なのはハンカチをどうにかすることだけど、果たしてうまくいくのか。ハンカチが飛ばないようにするってアリスちゃんが出したハンカチを全力で押さえに行くとか頭おかしい人間になっちゃうし、ハンカチをキャッチするのも失敗する可能性がある。運動神経というか動体視力と反射神経の問題だし。

 アリスちゃんを引き留めるというのもあるけど、お兄様がハンカチを拾ってきて好感度が上がりそうではある。


 そうなると、わたしがアリスちゃんを受け止めるというのが好感度の面ではいいんだけど、問題がある。

 わたしの素の腕力でそんなことをしたら、まずつぶれる。うん、女の子とはいえ、人を1人受け止めるだけの力はない。風の魔法で落下を軽減でもしない限りは無理。


 そもそも風の魔法でどうやって落下を軽減しているのかというと、突風で突き上げる力により重力で落下する力を相殺するわけで……よく考えたら、お兄様の魔力値と魔力変換であのとっさによくそれだけの突風が生み出せたな。それともほぼ軽減できていないものを腕力で抱きかかえていたのだろうか。

 ……深く考えるのはよそう。いや、よしたらわたしが真似できない。どういう理屈であれをなしていたんだろうか。


 いや、考えてもわかるわけない。だからわたしなりの理屈でどうにか軽減するしかないわけだけど。

 アリスちゃんの公式設定上の体重は46キログラム。それが2階の高さから落ちてくる。それを多少鍛えているとはいえ女のわたしがこの腕で受け止める。


 ……無理。このプランはおとなしくあきらめるべきだろう。素直にハンカチを止めるか落下を阻止するほうで考えよう。


 いや、正確にはわたしにもアリスちゃんを受け止めることは不可能ではない。わたしの魔力値と魔力変換ならそれだけの突風を起こして、受け止めることは可能。

 でも、わたしは風の魔法が使えないことになっているので使うわけにはいかない。

 そうなると、土の魔法で地面の土質を変えて衝撃を吸収させたり、地面を陥没させて衝撃を逃がしたり、あとは水属性の魔法でびしょびしょになりながら受け止めたり、そんなところになる。


 ふむ、どうするべきか。


 結局、悩みに悩んだわたしは、ひねり出した方法で介入することに決めたけど、本当にそれがいいのかどうか迷っていたのだった。






 というわけで、わたしは校舎の窓が見える位置にきていた。そういえば、「たちとぶ」のほうでは触れられていなかったけど、なんであのイベントのとき、お兄様はこんなところにいたんだろう。

 考えれば考えるほど謎だらけなイベントな気がしてきた。謎クイズ選択肢といい、お兄様の選択イベントは、実は謎が多いのかもしれない……。


 タイミング的にはそろそろのはずだけど……、そう思っていたら、進行方向からお兄様が歩いてきた。何かを探しているみたいだけど、それが理由でこんなところにきていたのだろうか。


「お兄様、このようなところでどうかされたのですか?」


 偶然を装って声をかけてみる。すると、お兄様はとても驚いた様子で……まあ、当然と言えば当然だけど、「なぜこんなところにいるんだい?」と問いかけてきた。


「わたくしは少し用事がありまして。それよりもお兄様こそ、なぜこのような場所に?」


 校舎と道の間の茂みのような場所なので普通は通らない場所。なぜこのような場所に居るのかまったくわからない。


「ああ、ボクは少しばかり探し物をしていたんだ。このあたりに落としたと思ったんだけどね」


 どうやら校舎からものを落としてしまって、それを探している途中という様子。そんな意味も込めて、お兄様がふと校舎を見上げたのにつられてわたしも校舎を見上げると、ちょうどアリスちゃんのハンカチが飛んできたところだった。


 このままだとアリスちゃんが落ちてくる。


 そう思ったときにはすでに魔法を使う準備を整えていた。


 そして、窓から身を乗り出したアリスちゃんがバランスを崩して、窓を乗り越えて落下する。その下にはすでにわたしが割り込んでいた。

 突き上げるような突風の風魔法を放ち、アリスちゃんの落下を緩める。それと同時に、細かな位置調整をして、落下してきたアリスちゃんを抱きかかえるようにキャッチすると同時に、土魔法で土質を変化。衝撃を吸収させた。


「大丈夫ですか、アリスさん」


 正直、わたしの腕は大丈夫ではないので、早くおろしたいのだけど、アリスちゃんが目を丸くしたまま固まってしまっているので、おろすにおろせない。


「え……、あれ……、か、カメリア様?」


 わたしと至近距離で目が合うアリスちゃん。しばらくの間、無言が続いて、しだいに顔が朱に染まっていく。まあ、ドジで済むレベルではないけど、ドジしたところを見られたら恥ずかしくもなるか。


「まったく、気を付けてくださいね。今日はたまたまわたくしたちがいたから助かったものの、一歩間違えば大けがをしていたかもしれないのですから」


 そう言いながら、わたしの突風のせいもあって未だに空を舞うハンカチを風の魔法を軽く使って、こっちに導く。


「大事なハンカチかもしれませんが、あなたの命もとても大事なものだということを自覚してくださいね」


 そうして、ようやくアリスちゃんをおろせた。正直、腕が疲れている。お姫様抱っこを気軽にねだる女性がいるけど、男性でもこれはきついんじゃなかろうか。

 ハンカチをキャッチしてアリスちゃんに渡す。

 これでこのイベントのほぼほぼの役割をお兄様からわたしが奪った形にはなるだろう。好感度上昇的にも3段階は回避できている……と思う。

 こればっかりは見た目ではわからないことだから断言できないんだよね。


「やれやれ、しかし、カメリアも無茶をする」


「いえいえ、お兄様が風の魔法で支援してくださったではありませんか」


 わたしはあくまでにっこりと、そうお兄様に告げた。それだけでお兄様は理解しただろう。わたしが使えるのは土、火、水の三属性。風の魔法は使えない。

 つまり、あの突風の魔法を使ったのはお兄様だということにわたしがしたいのだと。


「あ、うん、そうだね。よ、よかったよ、ボクの風の魔法が間に合って」


「わたくしも一応、土の魔法で土質を変えて、衝撃を吸収させてはいましたが、あの風魔法がなかったら受け止められていたかどうか」


 完全に風の魔法を使ったことをお兄様に押し付けて、残りはわたしがかっさらう。ただ、これでお兄様の分の好感度がわずかばかり上昇してしまう気もする。

 上昇値が可視化できれば便利なのに。まあ、「たちとぶ」内でもそんなシステムはなかったのでどうあってもそれは見えないだろうけど。


「アリスさん、ぼーっとしていますが大丈夫ですか?」


 いまの魔法を誰が使ったのかというやり取りをちゃんと理解しているかも怪しい状態だけど、まあ、あれは天使アルコルに聴かせる意味でも言っていたことだから、ひとまずはいいとしよう。


「え、あ、はい。その助けていだたいてありがとうございました」


 渡したハンカチを握りしめて、ペコリとお礼をするアリスちゃん。実はこのハンカチは、故郷から持ってきた唯一の思い出というかなんというか。

 アリスちゃんがこちらで生活するにあたり、農家時代の衣服は王都での暮らしに合わないということで新しいものに変えられて、持ち物のほとんども王都でそろえたもの。そんな中で、ただ、このハンカチだけは故郷から持ってきたアリスちゃんのお母さんお手製のハンカチなのだ。

 だから必死に取ろうとしていたという裏話がある。


「ハンカチが大事なものとはいえ、本当に気を付けてくださいね」


「は、はい。でもこのハンカチが……そのもっと大事になりました」


 ……?

 手放しかけて大事さをより実感したとかそういうたぐいの話だろうか。まあ、大事に思うことはいいと思う。


「お兄様は探し物、見つかりましたか?」


「いや、まだだね。ボクはもう少しこの辺りで探しているよ」


 ふむ、わたしも手伝うというべきかと一瞬思ったけど、この状態のアリスちゃんを放っておくわけにもいかない。


「わかりました。わたくしはひとまず、アリスさんを送ってきます」


 2階を移動していたけど、確かこの後、講義はないはず。アリスちゃんの取っている講義は把握しているけど、もうない……はずだ。

 たぶん帰るための移動中だったと「たちとぶ」でもなっていたはず。だから女子寮まで送り届ければ問題ないだろう。



 それにしても、送り届けるまでの間、終始アリスちゃんの顔が赤かったのはなんでなんだろう。特に熱があるようでもなかったし。まあ、いいか。


 風の魔法の件を押し付けたこともあるし、お兄様の失せ物探しの手伝いに戻るとしますかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ