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059話:追加イベント・その2

 学園が休みで、かつ、イベントも何もないこの日、わたしとアリスちゃんとパンジーちゃんで王都に新しくできたカフェにきていた。王都に多い、格式ばったカフェではなく、いくつかグレードを落としたもののようだ。


 いわゆる格式ばったカフェは貴族たちが立ち寄るところではあるのだろうけど、ここはその少し下の位である魔法学園に通う貴族の子息令嬢や王都に店を構える商家をターゲットにしているように見える。


「へえ……、ここが最近うわさになっているカフェね」


 パンジーちゃんが周囲を見回しながら店内を確認している。わたしの受ける印象としては、前世のそのへんのカフェと比べると当然、本格的でコーヒーの香り漂う少し足を踏み入れがたい店という感じ。

 まあ、それはあくまで前世の感覚があるからで、貴族としての感性だけでいうなら、普通に行くカフェよりは庶民よりとなるわけ。


「このカフェはコーヒーだけではないのですね」


 というのも、さっき言った王都のカフェというのはあくまでコーヒーを提供する場所という感じで、貴族たちにとっても社交の場という認識が強い。パーティー以外での交流の場ともいえるだろうか。

 王都ほどではないけど、規模の大きい街などにあるカフェでは、もっと平民にも利用できる価格帯で、まさに前世でわたしが普通に通っていたカフェと同じようにコーヒーや飲み物と軽食を取り扱っているところが多いと聞く。

 このお店はそういう意味では、その2つの中間的存在と言える。


「そこが評判になっているみたいですよ。まあ、わたしはカフェに実際に来たのは初めてですから他がどうなっているのか知らないんですけど……」


 まあ、普段コーヒーを飲むためのカフェにいっているなら新鮮に感じるのかもしれない。むしろ、わたしとしてはいつも通りというか落ち着くというか、カフェでコーヒーとサンドイッチ頼んで宿題やるみたいなことを思い出す。


「では、せっかくですから頼んでみましょうか」


 軽くということで、3人ともコーヒーと3人で1皿サンドイッチを注文した。貴族が食べることも想定しているようで、たかがサンドイッチなれど、ただのサンドイッチではないようだ。パンや具材も高級なものを用意しているようで、カフェの軽食ならまずまずといったところ。

 たぶん前世の喫茶店のサンドイッチと比べたら格段においしいんだろうけどね。

 コーヒーもそれなりに高級なもので、ちょっと濃いめのため苦くはあるけど、飲みやすい。


「こういう形で休憩するのもたまには悪くないかもしれないわね」


 パンジーちゃんがコーヒーを飲みながらしみじみという。まあ、ブレイン男爵領にはカフェとかあまりなさそうだし……。


 これはパンジーちゃんの領地を馬鹿にしているとかではなくて、コーヒーはもともとこの大陸ではない別の大陸からの輸入品だった。その輸入の大半をアルミニア王国が独占している状態にあるから、ディアマンデ王国にはファルム王国を経由して商人が運んでくる。

 もちろん、アルミニア王国から海路で内海側に運ばれてくる経路もあるけど、その多くはアルミニア王国の一大港のある北側だ。ディアマンデ王国からその一大港に行くには、一度外海に出ていく必要がある。

 結果として、コーヒーはファルム王国経由となってしまう。もちろん海路経由で北側のベリルウム王国から運んでくる手はあるけど、それを阻むのが北方にそびえる銀嶺(アルゲントゥム)山脈。

 だから関所の位置からしても物流からしても、ブレイン男爵領のほうには流れない。流れる分はあったとしてもカフェなどを開ける量にはならず、貴族が飲む嗜好品として扱われるほうが多いのだ。


「ところで、お2人は複数の属性を使える魔法使いなんですよね」


 一通り、カフェの中や商品に手を出したことで満足したのか、話題はカフェから移り変わる。アリスちゃんが振ってきたその内容は、わたしとパンジーちゃんの共通点である複数属性の魔法だった。


「ええ、そうよ」


 肯定するパンジーちゃんに合わせてわたしもうなずいた。実際、わたしとパンジーちゃんが出会ったのはそれが理由のようなものだったし。


「学園では他に見たことがないんですけど、かなり珍しいのでしょうか?」


「そうですね。珍しい存在と言っても過言ではないでしょう。この国で現行の魔法使いとしてはわたくしとパンジー様、ラミー・ジョーカー様の3人だけですから」


 あくまでいま表に出ているのはという注釈がつくけど、おおむね3人で間違っていない。それくらいに珍しい存在ではある。


「ただ、珍しさでいえば、アリスさんのような光の魔法使いのほうが十分に珍しいですよ。わたくしたちのような複数属性の魔法使いは他国にもそれなりに存在しますが、光の魔法使いは複数人が同時代に存在したという話は聞いたことがありませんし」


 まあ、あくまで残っている文献や記述からの推測だけど。もし、複数光の魔法使いが存在した場合は、アルコルがすごいことになりそうだし。


「いえ、わたしなんてそんな……。それに複数の属性が使えたら、魔法ももっといろんなことができるようになるんですよね」


 それに対して、わたしたちの反応は微妙なところだった。確かに、わたしのようにご属性も使えればそれなりにいろんなことができるけど、二属性程度だと、普通の魔法使い2人用意すればいいというレベルだ。


「普通にしていたらできることはそんなに多くないけれど私は違うわ。複合魔法を習得しようとしているのだから」


 パンジーちゃんがどや顔で言うけど、アリスちゃんはいまいちわかっていない様子。でも、それとは別に、アリスちゃんの背後で一瞬だけ天使アルコルが「複合魔法ですって……?」と驚きのあまり飛び出していた。


「複合魔法というのは2つの属性の魔法を合わせて別の属性として扱う魔法のことですよ」


「では、パンジー様もカメリア様もそれが使えるんですか?」


 この辺はどう説明すればいいのだろうか。天使アルコルの耳も考えて「氷結」のことだけを話に出せばいいだろうか。


「わたくしには使えませんよ。現在確認されている複合魔法は水属性と風属性の複合魔法である『氷結』。わたくしは風属性を使えないので『氷結』は使えないのです」


「使えるのは『北方の魔女』と呼ばれる方のみよ」


 パンジーちゃんも努力して、かなりいいところまで来ているけど、やはり魔力値と魔力変換がネックで、それを考えると少しずつじっくりとやっていくしかないという感じだ。


「『北方の魔女』?」


「アリュエット様のお母様のラミー・ジョーカー様のことですよ。ジョーカー公爵領は、ディアマンデ王国の北方にあるので、その関係で、彼女の異名も『北方の魔女』となったのです」


 そして、もう1つ、ラミー夫人には顔がある。「黄金の蛇」。……いまは厄介な仕事を頼んでしまっているけど、大丈夫だろうか。あれからしばらく進展というか報告は来ていないけど……。


「他の属性では複合魔法って使えないんですか?」


「おそらく使えるとは思いますが、そもそも、『氷結』ですら水と風の二属性の魔法使いがだれでも使えるというわけではない状態ですからね。0から新しい複合魔法を生み出すとなると難しいのです」


 もっとも、わたしは0からではなく、6種類の複合魔法、「氷結」、「熱風」、「砂塵」、「業火」、「自然」、「樹林」を把握したうえで使えるようになったというほとんど反則のような状態だったけど。


「カメリア様は、えっと、火と……」


「水と土の三属性よ。私が水と風の二属性」


 魔法を使って見せた覚えもないし、覚えていなくても当然か。


「何でも混ぜれば複合魔法になるなんて簡単わけがないですし、やっぱり難しいんでしょうか」


 というアリスちゃんの後ろでは天使アルコルがうなずいていた。難しいというほうに同意しているようだ。


「ですから、新しい複合魔法を生み出すこともわたくしの研究の一部なのです。もっとも、土、火、水の組み合わせではどうやっても難しいようですが」


 おそらくアルコルはこの属性の組み合わせでは複合魔法が成立しないことはわかっているだろう。


「カメリア様でも難しいとかできないとか知らないということがあるんですね」


「わたくしだって万能ではありません。難しいと思うことも、知らないことも、できないこともたくさんありますよ。それを補うために努力をしているのです」


 万能だったら、最初から何もせずに死なない道へ向かえているだろう。それができないから懸命に道を模索しているのだし。


「カメリアさんは高みを目指しすぎていると思うけれどね」


「どうでしょう、わたくしにとっての目標は十分に低いラインだと思いますけれど」


 生き延びる、それは人間として願う最低限のラインだと思う。だからこそ、目標は十分に低い位置にあると思っているんだけど。


「そのうち、後天的に他の属性すら使えるようになるのではないかと思うくらいにいろんな努力をしすぎているし、錬金術なども歴史的重要な発見をいくつかしているようですし」


 さすがに後天的に魔法の属性が増える事例は聞いたことがないし、そもそもすでに五属性の魔法が使えるんだけど。


「おっと、長居しすぎているようですね。いつまでもカフェで席を占拠しているわけにもいかないでしょう」


 ごまかすように、それでいて、自然な流れで会話を断ち切って、そんなふうに促した。周囲を見れば、同じタイミングで来た客はすでにいなくなっており、別の客に入れ替わっているような状態。

 うわさになっているというだけあって、客もそれなりにいるようだ。いつまでも居座っていては迷惑だろう。


「そうね。話はここでなくてもできるし」


「あら、ではロックハート家に来ますか?」


 こうして女子会は場所を変えて、その日中行われたのだった。

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