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058話:校舎裏イベント(アイコン・クレイモア)・その3

 その日、この王立魔法学園には甲冑に身を包んだものたちが隊列を組んで歩いていた。別に大きな事件があったとか、何か大変なことが起きているとかそんなことはまったくない。


 これはクレイモア君のイベントに関係している。


 このイベントは、アリスちゃんが学園の敷地内で偶然、なぞの集団を目撃して、気になって後をつけると、そこにはクレイモア君がいた。それは実は新人騎士たちの訓練の様子。アリスちゃんはクレイモア君から騎士とは何かについて聞きながら、訓練の様子を見るという話。


 なぜ学園で新人騎士の訓練をしているのかというと、簡単な話で、この魔法学園という場所に起因する。まずもって貴族の子息令嬢が集う場所というだけでも警戒すべき場所ではあるけど、今年は特に王子もいるし。そして、貴族の子息令嬢が集うということは、未熟な魔法を使える人が集まっているともいえる。

 数年に1回くらいは事故が起きることもあるとかないとか、そんな魔法学園なだけあって、騎士は通れる道や学園内の施設位置などを把握する目的も含めて、定期的に魔法学園でも訓練する。

 だから簡単に隊列を組んで歩き、場所と通路を把握していつもの訓練に戻るという感じではあるのだけど。


 わたしは、騎士たちの後にひょこひょことついていくアリスちゃんを見かけたので、そろそろ予定の位置に移動することにした。






 イベントの位置では、アリスちゃんがおどおどと何が起きているのかわからなさそうに様子を見ていたので、わたしが声をかける。


「おや、アリスさん、このようなところでどうかしましたか?」


 わたしの言葉に、「わっ」とちょっと驚いたような声をあげてから、慌ててこちらを向く彼女はちょっと恥ずかしそうに目をそらしていた。


「か、カメリア様。いえ、あの、あれは何なのかなと思いまして」


「ああ、あれはこの国の騎士ですよ。クレイモア様の家がその統括をしている騎士で、この国の秩序を維持するための方々です」


 前世でいうところの警察官や消防士、救急救命士など、そのあたりの職業がすべて1つにまとまって騎士というところかもしれない。

 もちろん、貴族にはそれぞれ私設に近いボディーガードを雇っているところもあるけど、王族や王城の護衛、王都周辺の警戒などはこの騎士が担っている。

 先日、王子とアリスちゃんとわたしで王都の店を回ったときに遠くでついていた護衛役もこの騎士から借りていた。


「あ、いえ、それは簡単にはわかります。わたしもスパーダ家にはお世話になっていたので」


 まあ、そのへんの基礎知識は、王都につれてこられたときの教育で理解しているだろう。いわば常識のようなものだけど、しかし、騎士はそこらの街や村にはそういないものだから王都で習ったはず。


「この魔法学園はいろいろなことで騎士の方々のお手を煩わせることがありますからね。そうしたときにスムーズに行動できるように、騎士の方々はこうして、たまに魔法学園で訓練をしているのです」


「そうだったんですね」


 そんな騎士たちの前に立ち、訓練を指導しているのがクレイモア君だった。クレイモア君は、わたしたちに気付いていたけど、さすがに訓練を優先したらしい。

 公私の区別ぐらいはついているというか、わたしがついているから大丈夫だろうと判断したようだ。わたしがいなかったら「たちとぶ」通り、こちらに来ていたかもしれない。


「騎士、古くはこの国ではキャバリエレなどとも呼ばれていたようですが、彼らは騎士道という教えを重んじ、行動しています」


 キャバリエレというのはイタリア語だかなんだかで騎士という意味の言葉らしい。この国では大昔、騎士のことをそう呼んでいたとクレイモア君がこのイベントで言っていた。おそらく「スパーダ」も「スペード」とはかけてあるもののイタリア語で「刃」という意味だし、それに合わせてあるのだと思う。


「騎士道ですか?」


「そう難しいものではなくて、礼節であったり、信念であったり、そういった行動の模範となる教えが書かれているものです」


 このあたりが実際の騎士道に則っているのかはわからないけど、この世界ではそういうものらしい。

 特にそれ以上の説明があった覚えがないので、わたしもこのくらいしか知らない。


「あの方たちは貴族なんですか?」


「中には貴族の次男、三男で騎士を志す人もいないわけではありませんが、平民の方もいますよ。ですから騎士で魔法を使える方は一部ですね」


 騎士というのは貴族に近い役職の1つでもある。そういう意味では、もしかすると、クロガネ・スチールのように潜入に用いられている可能性がないではない。ただ、厳しい訓練のわりに得られる情報は少ないし、そもそも、スパーダ家による審査が厳しく、推薦であろうと通らない可能性もある。


「騎士の方々は王都を中心に活動していると聞いていたんですが、それ以外の地域はどのようにして守っているのでしょうか」


「そうですね。まず、王都から離れた街や村には大体、領主の護衛を務める衛兵が数名派遣されていることが多いと思います」


 本当に領地内でも小さな村などになるとそう言ったものもなく、村民が自警している場合もあるらしいけど。


「衛兵さんは領主様の管轄だったんですね」


「ええ、まあ、ただ衛兵長は騎士が派遣されているので騎士の管轄ともいえますけ。ただそれとは違う形態をとる領もあります。例えば、ロックハート領は騎士の方々を派遣するという形になっていますし」


 衛兵長が騎士なのは、領主が私兵を集めて、国に反旗を翻して暴れるのを防ぐため。一応、国からの監視という意味もある。

 ジョーカー家は自前で護衛や警備を育てているので騎士を借りたりはしていないけど、ロックハート家はスパーダ家から借りている形になっている。この辺りは衛兵関係を名目にした脱税などを防ぐためとかなんとか。まあ、あくまで外からそういわれないためにやっているというだけの話。

 ジョーカー家にそれが許されているのは、そんなに人数が多くないことと、北方という厳しい環境には、それに合わせた教育が必要であり、派遣した騎士では対応できないことが多いから。


「後は国境の関所には騎士の方が派遣されています。まあ、他国接点として重要な場所ですからね。そういった意味でも派遣は必然的でしょう」


 他だと、パンジーちゃんのところのブレイン男爵領などにもある港などにも少ないけど派遣している。この辺りは、他国からの密入国を防ぐためであったり、不当な品目を輸入しないためであったり、海賊行為の防止であったりと王都から遠いくせにやることは多いので、騎士としては大変な場所らしい。


「貴族の方々全員に騎士が派遣されていたらとても人数が足りませんよね」


「ですから、王族や一部の貴族を除いてはボディーガードのような専門の人を雇って護衛を任せていますね」


 ロックハート家も昔はそうだったけど、いまの護衛はすべて騎士に変わっている。これは先ほどの脱税がどうとかとは関係なくて、わたしが王子の婚約者になったため、王族関係として、そのような形になっただけ。


「そうだったんですね」


 うなずきながら、そういえば貴族の護衛って騎士っぽくないこともあったなと思い出しているのだろう。


「クレイモア様の家が騎士を統括しているのは知っているのですが、どうして、クレイモア様自身も騎士であろうとされているのでしょうか」


「クレイモア様の家であるスパーダ公爵家はもともと、大昔は騎士の家系だったと言われています。本来、騎士が貴族になったとしても騎士爵でそこから上がることはほとんどありません。ですが、ウルフバート様の功績が讃えられて、いまの地位まで上り詰めたのです」


 そうして、騎士から公爵にまで上り詰めたいまでも、騎士としての精神、騎士道を重んじ、けっして忘れないことから、スパーダ公爵家の人間も騎士として行動し、その模範であるようにしているという。


「ウルフバート様というのは?」


「かつてのスパーダ家の当主ですね。ものすごく高名な騎士で、多大な功績を残したと言われています」


 まあ、具体的なところはわたしも詳しく知らないんだけど。彼はスパーダ家に剣と教訓を残して、それがクレイモア君ルートで非常に深く関わってくる。特に、スパーダ家当主の証たる「ウルフバート」と呼ばれるウルフバートが残した剣。これはクレイモア君ルートのかなめと言ってもいい。


「そんなに凄い方がいて、きっと、クレイモア様もその方を目指しているんですね」


「ええ。彼は一見、貴族の方々を重んじる姿勢が低姿勢に見えるかもしれませんが、(こころざし)は誰よりも高く、理想を見上げている方ですからね」


 騎士として貴族の誰よりも低く、貴族を丁重に扱う彼だけど、目指している場所は誰よりも高いと思う。生き延びることだけを目指すわたしなんかよりもずっと。


「わ、わたしから見れば、カメリア様もずっと高い志を持っていらっしゃるように見えます」


 なんの慰めだろうか。なぜか懸命にわたしをもてはやそうしてくるアリスちゃん。まあ、ここで「そうなんですね、クレイモア様凄い……」となっていたら完全に失敗というか何のためにイベントに介入したんだという話なので別にいいんだけど。

 まあ、実はクレイモア君に関しては、そんなに好感度の問題は気にしていない。そのあたりの理由は次の王子のイベントにも絡んでくるのだけど。


「さて、いつまでもここにいては、クレイモアさんたちの邪魔になってしまいますね。アリスさん、行きましょうか」


「あ、はい」


 イベントにかかわる部分の本来、クレイモア君が説明すべきことは全部説明した。これ以上、ここにいる意味もないだろう。


「そういえば、先日、寮で王都に先日オープンしたカフェのうわさを聞いたんですが、とても評判がいいみたいなんです。価格もわたしがいけるくらいみたいで」


 アリスちゃんは、ロードナ・ハンド男爵令嬢の一件以降、きちんと交流ができているようでよかった。


「その、わたしがいけるくらいのお店なので、カメリア様には合わないかもしれませんが、今度一緒に行ってくださいませんか」


「そのお店のうわさはわたくしも聞いていますが、確かに評判はいいようですね。では、今度の休みにでも行きましょうか」


 しかし、王子は気軽に誘えないが、攻略対象を誘うと好感度に影響が出るかもしれないし……。パンジーちゃんでも誘ってみるか。

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