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055話:図書室イベント(アイコン・ベゴニア)・その1

 この魔法学園にももちろん、図書室なる施設が存在している。ただ、どちらかというと学生向けではなくて、研究員も兼任している講師のための資料室という意味合いが大きい。もちろん、講師の寮にも資料を置くための部屋はあるのだけど、専門分野外であったり、共用の資料であったり、そういったものが資料として在る場所。


 実は、地下通路で国立魔法学研究棟とつながっているけど、いまは使われていない通路で、国立魔法学研究棟が学園の敷地内を通って図書室を使うことも普通にある。


 そんな図書室で起こる選択イベントで好感度にかかわるのは1つだけ。

 お兄様のイベント。


 図書室で本を読むお兄様と偶然会ったアリスちゃんがおすすめの本などを聞きながら仲を深めるというもの。


 これだけ聞くとなぜこのイベントが好感度に直結するんだろうと疑問に思うのは当然だと思うわ。わたしだって最初はそう思ったから。

 例えば、先日の王子との買い物だったら、学園の外に出るという時点で大きなイベントなのはわかると思うけど、それ以前に「アンドラダイトと王都に行く」、「恐れ多いと断る」の二者択一があったうえで、前者を選んだ時点で一応、ゲーム内の好感度パラメータとしては上がっているはず。


 じゃあ、この図書室のイベントにおける、それをわける選択肢というのが、「早押しクイズ」なのだ。

 意味がわからないと思うけど、選択肢が5つ出て、制限時間内正解を選ばないと好感度上昇値が0になるという、正直お兄様らしからない辛い設定。


 なんでこんな選択肢にしたのとか、意味わからないとか散々な言われようだったし、実際、完全な覚えゲーとしか言えなかった。

 クイックセーブして、上から順番に選んで正解を見つけてというのを繰り返して、全3問。正直、これを考えたシナリオライターはちょっとどうかしていたのだと思う。

 だって、ここ以外で同じようなクイズ形式なんて出てこないし、そもそもなんでクイズに間違えただけで好感度上昇値が0になるのかもわからない。

 まあ、マイナスにならないだけマシなのかもしれないけどさ……。


 ちなみにこのクイズの答えのヒントは、選択パートのアイコンなしのイベントの中にあるという仕様で、お兄様のアイコンがないときにアイコンなしのイベントを選んでいたらある程度はわかるようになっていたらしい。……正直「知るかそんなもん」というのがプレイヤーたちの感想だったけどね。


 ……話がだいぶ逸れてしまった。それだけこのイベントには当時プレイしていたわたしにも愚痴があったの。

 まあ、それは置いておいて、どうしてこのイベントがお兄様の好感度に大きく影響するのかというと、お兄様のルートに入ればわかるのだけど。


 この問題の答えがお兄様の過去、現在、未来を表しているためだとかなんとか。


 そして、答えを丸暗記しているわたしだけど、わたしの介入によって過去と現在に関しては問題が変わっている恐れがある。


 それから未来の問題に関しては、アリスちゃんと攻略対象たちの好感度の中でお兄様がトップなときと、それ以外で問題が変わる。


 もう選択イベント史上一番ややこしいのがこのイベントだとわたしは自信をもって言える。

 正直、アリスちゃんが解けないことを信じて、スルーしようかと思ったくらいには、このイベントは厄介な要素が多い。


 でも逆に言えば、出てくる問題で、お兄様とアリスちゃんの好感度がどうなっているのかという情報を知ることができるのも事実。打ち明けるルートを回避したから大丈夫だとは思うけど、確証を得られるというアドバンテージは大きい。

 お兄様ルートに入りかけているのならそれをどうにかする必要があるし、逆にそこまで至っていないなら、お兄様に関しては現状維持でいいし。







 そんなわけで図書室。今日、ここでお兄様とアリスちゃんが本について話すはず。


 この図書室、一般の利用者が少ないとはいえ、一応学園内にあるという関係上、研究に関係ない一般的な書物も置いてある。


 まあ、お兄様はそういった本も好きだけど、どちらかというとここには領地を治めるうえで重要となると要素を学ぶためだったはず。

 例えば、過去に干ばつがあって、そのときにはどのように解決して、あるいは解決しなくて、どうなったのか。

 というのは一例に過ぎないけど、簡単に言うと前例を学んで、知識として蓄えるためということ。


 それでも読書をするのは、その一般書物のコーナーの近く。なんでかと言えば、研究資料系はその場で読み解くよりも、持ち出して読み解くほうが多いから。そして、研究系の近くにそういう場所を作って、研究員たちがたむろするようになっても学園としては困るというのもある。

 そのため、図書室の本を読むためのスペースを使っている人は現状、お兄様くらいという悲しい話。







 そうこうしているうちに、アリスちゃんがやってきた。


「あれ、ベゴニア様、読書ですか?」


「おや、アリスさんも読書かい?」


 ばったり出会った2人の元に、わたしも偶然を装って接触する。まあ、ここにいるであろうことが予測できるお兄様はともかくとして、アリスちゃんと会ったのを意図していたんだろうと思う人間はそうそういない。


「お兄様もアリスさんも読書ですか?」


 わたしの言葉に、いかにも奇遇だと言わんばかりのリアクションを見せてくれる2人。いや、本当にそう思っているんだと思う。少し罪悪感を覚えながらも、こっちは生き死にがかかっているのだ。この程度のことはどうということない。



 それからしばらく、偶然会ったというていで話は進み、お兄様とわたしたちで本の話をしていた。もはやお兄様の話など、ボタン連打で流し聞きしていた内容そのままなので、左から右へと流してもその内容を把握できている。


「そうだ、ボクのおすすめがあるんだけど」


 ここだ。ここからクイズが始まってしまう。しかし、もし、アリスちゃんがクイズに全問正解しようものなら好感度が上がってしまう。

 なので、わたしは割り込むように3冊の本を机の上に並べた。


「もしかして、お兄様のおすすめはこの3冊でしょうか」


 机に並んだ3冊はそれぞれお兄様の過去、現在、未来を表すというもの。


 過去を示すのが「エル・デ・リンク」という冒険譚。エルという青年は他人の才能を妬んで生きていたが、あるとき、湖の妖精に「自分の才能」というものを見せられて、他人の才能ばかり気にして自分の才能というものに気が付いていなかったということに気付く。そうして、彼は、自分の才能を持って3つの国を結び付けたという冒険譚。

 ビジュアルファンブックの説明によると、才能あるもの……カメリアに羨望を抱いていた様子と重なる「過去」を示す本。


 現在を示すのが「白い刃」という騎士の話。もちろん、お兄様は騎士ではないのだけれど。もともとは心優しい一般人だった女性が、好きな人を守るために騎士を目指して、最終的に大陸最強の騎士と呼ばれるまでなる話。

 ビジュアルファンブックの説明によると、好きな人……カメリアやアリスちゃんを守るために成長していく「現在」を示す本。


 最後に未来を示すのが「夢の霞」という老人の話。夢を叶えられなかった老人がずっと後悔を抱えて生きていたけど、あるとき、いまからでも遅くないと思い立ち、夢の霞を探す旅に出る。

 ビジュアルファンブックの説明によると、夢を叶えられなかった……アリスと結ばれることはなかったが自分の道へと進む「未来」を示す本。

 ちなみに好感度が高い場合は「(たかどの)の姫」という本に変わる。


「よくわかったね。まさにその3冊だよ。驚いたな……」


 お兄様は驚き半分、呆れ半分といった様子。どうしてわかったんだという気持ちとわたしならわかってもおかしくないという気持ちの半々と言ったところだろうか。

 とりあえずこの感じだと、お兄様の好感度は大丈夫のようだ。


「ですが、お兄様、わたくしでしたら先にこちらの本をおすすめとして挙げます」


 そういって、別の本を出すわたし。教養のために、わたしも本はいくつか読んでいる。……というのは建前で、娯楽になり得るのが本くらいしかなかったのと、王子やお兄様に話を合わせられるようにと読んでいたんだけど。


「ああ、なるほど、確かに導入としてはそっちのほうがいいかもしれないね」


 お兄様の挙げた本はどれも少し上級者向けというか、少なくとも平民として暮らして本をあまり読まなかったアリスちゃんに勧められるには難しすぎる本。

 実際、「たちとぶ」での主人公アリスは頑張って読んでいたけれども。それならまだ、話としては単純で、わかりやすい本を勧めてから、ステップアップしていくべきだろう。


「えっと、こんなに借りてしまってもいいんでしょうか。わたし読むのにたぶん時間が……」


「まあ、この図書室、研究者以外はほとんど使っていませんし、借りる人もまれでしょうから大丈夫だと思いますよ」


 そもそもたいていの貴族は借りずに買っちゃうし。ただ、大量に出版されているものというわけでもないので、蔵書もそれなりに価値がある。


「研究職の人だと年単位で借りていっちゃうこともあるし。きちんと返す分には大丈夫だよ」


 ちなみに、本がそれなりの値になるために、一応、背表紙に魔法学園の蔵書であることを印字してある。まあ、貴族で転売行為を働くような人はいないので、主な用途は紛失時のためだけど。だから売ってもすぐばれる。まあ、アリスちゃんはそんなことしないだろうけど。


「わかりました。じゃあ、この4冊を借りたいと思います」


 読む分には、読み書きを鍛えられるからいいことだと思う。一応、読み書きを突貫で学んできてはいるものの、そこから先、もっと、勉強していかなければ王子と結婚した後に困ってしまう。


「そのあたりの本でしたらわたくしや殿下も読んでいますから、話題としても振りやすいですし、読めない部分や意味の理解できない部分などがあったら教えますから」


 部屋にこもって読書が趣味だった王子もまた、この辺の本は読んでいるだろう。共通の話題として出しやすい、そして、意味を聞くことでコミュニケーションの機会が増える。

 王子との親密度アップにつながる……かもしれない。


「もちろんボクに聞いてくれてもいいんだけど、まあ、中々会う機会もないからね。聞きやすいアンディかカメリアに聞くといいよ」


 学年が違うので、受ける講義も異なるため、中々会いづらいお兄様のことを考えれば、まあ、そうだろう。ただ、図書館や特定の講義室など、いくつか会いやすいポイントはあるのだけど。


「わ、わかりました。頑張って読んでみます」


 さて、このイベントはどうにか乗り切ったかな……?

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