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054話:校門イベント(アイコン・アンドラダイト)・その2

 というわけで、わたし、王子、アリスちゃんの3人は、魔法学園の校門で待ち合わせて、王都を案内することになった。


 アリスちゃんの服装は、「たちとぶ」における制服以外のデフォルト衣装と同じだったけど、これは単に作画の問題ではなく、これ以外のよそ行きの服をもっていないためとビジュアルファンブックに明記されていた。このデフォルト服は、王都に来た際に与えられたもので、基本的にはこの一着と制服二着を着まわしている状態である。

 なので、建国祭のときのドレス以外は、本当に制服かこの服しか描写がない。


 だから、ひそかに、今日の観光でアリスちゃんに服をプレゼントできないかと考えている。もちろん、そんな高価なものではなくて、アリスちゃんでも買える範囲の普通の服で。


「それでは殿下、エスコートをお願いしますね」


 あくまで主は王子なので、わたしはエスコートされる側に回る。なお、ここにウィリディスさんはいないけれど、離れたところでわたしたちについている護衛たちと一緒に行動しているためだ。


「わかっている。まずはこちらからだ」


 そう言って案内されたのは高級店。いまのアリスちゃんではとても手が出ないような店ではあるけど、これは事前の打ち合わせ通り。

 ピンからキリまでというか、高級な店から無難な店まで幅広く、王都の店を知ってもらうほうが案内の意義がある。


「わあ……、大きなお店ですね……」


 高級店だけあって、規模も広く、店にある品はそこまで多くなくて、ほとんどがオーダーメイドに近い。ちなみに、アリスちゃんの建国祭のときのドレスはこの店で買ったもののはず。

 実はこのドレスはルートごとに微妙に違っていて、イメージする色というものによってドレスの色やデザインが変化している。

 例えば王子のルートでは「結婚」や「純真」をイメージにした純白のドレスで、露出も少なく、ウェディングドレスをイメージしていたと書いてあった。もちろん、ウェディングドレスそのものではなくて、あくまでドレスのデザインにそれを落とし込んだものだけど。

 お兄様のルートでは淡い青緑色(ペールアクア)のドレス、シャムロックのルートでは深緑色のドレス、アリュエット君のルートでは濃紺のドレス、クレイモア君のルートでは淡い薄紫色(オーキッド)のドレス。

 どれも、エンディング前のイベントスチルでしか見られないので、詳細なデザインはビジュアルファンブックでしか見られないのだ。


「ど、どれも高価そうですね」


 ごくりと喉を鳴らしながら、生地の質を確かめているアリスちゃん。普段身に着けているものよりも高級に感じるだろうし、実際そうだ。

 学園の制服も貴族が着ることを想定されているため、それなりの生地ではあるものの、この店の物と比べればいくらか落ちる。


「あ、あのう……、わたし、とてもではありませんが、ここで服を買えるようなお金はありません……」


 店員に聞こえないくらいの声でわたしに言うアリスちゃんだが、当然そんな予定はないので、わかっているとばかりにうなずいてから答える。


「この店舗は王都の中でも高級な店舗がどのようなものなのかを知ってもらうために案内しただけですよ。これから行く店舗は、アリスさんでも手が届く範囲に収まっていますから安心してください」


 当然、そのことは店主にも伝えていた。普段ならわたしの顔も覚えている店員が声をかけてくるが、今日はそういったことをすべて伝えているため、向こうも会釈程度で済ませている。


「そ、そうだったんですね。よかった……」


 そういってから、アリスちゃんはせっかくだからと店内を見て回り、いろいろなものを見てから、次の店へ行くことになった。






 次の店は、アリスちゃんでも手が届かなくもないくらいの店だ。とはいえ、1着がアリスちゃんの1か月から2か月の生活費分くらいかかるけども。

 だから、絶対に手が出せないわけではないけど、そうそう手が出せるほどの値段ではないという微妙なラインの店。


「ところでアリスさん、あなたはその服以外に何着、服がありますか?」


 ここでわたしはあえて、アリスちゃんに服の話題を出した。もちろん、「たちとぶ」の通りならもっていないはず。それにもっていたとしても大量に持っているはずはない。だから、あえて聞いたのだけど。


「えっと……、2着です」


「……それは、制服を含めて、というよりも、どちらも制服ではありませんか?」


 わたしの言葉に「うっ」と図星を突かれたような反応を示すアリスちゃん。やはり「たちとぶ」通りのようだ。


「これから先、校外学習もあります。普段の生活にも支障が出かねないかもしれません。攻めて、もう何着かは必要ですね」


 こうすれば服をいくつかプレゼントすることができるだろう。わたしも見繕うが、王子にも選ばせて、なんかいい感じの雰囲気にできればいいと思う。


「しかし、アリスさんに似合う服ですか」


 せっかく選ぶのだから、できるだけアリスちゃんに似合ったものにしたいと思うのは女心というものだろう。


「金髪ですからね、やはり白色のトップスでしょうか」


 ゴールドには白や黒のような色が合うだろうか。アリスちゃんの外見で目をひくのはやはり美しい金髪とラズベリルのような瞳。


「それとも寒色系……、青なんかも合いますか」


 金色を黄色ととらえるなら補色である青で引き立つような気もする。ただ青が濃すぎると服に目が行ってしまうのでパステル系だろうか。


「非常に悩ましい問題ですね……」


 あるいは主人公という意味では、赤色なんて言うのもありなのかもしれない……と思ったけど、赤みが強すぎると髪色と喧嘩しそうな気もするし。


「え、あの……」


 アリスちゃんを見ながら、頭の中で服を合わせていく。これがドレスとかなら、それこそ建国祭のものに合わせていくだけでいいんだけど、普段着ともなると中々に難しい。

 ドレスは着飾る場で着るものであり、主張が強くても問題はないけど、さすがに普段着でそれはあり得ない。そんな服を着て歩いていたら目立って仕方がない。


「グリーン系の服も似合いそうな気がしますが……」


 緑色は赤色との補色関係。瞳色が引き立つだろう。それにモスグリーンのような深い色ではなく、もっと明るいものならば……。


「ふむ……アリスさんはどの色のコーディネートでも似合いそうなので逆に難しいです」


 わたしなんかだと髪色が髪色なだけに、合わせる服も限られてくるのだけど、アリスちゃんのような髪であれば、余程下手なコーディネートをしない限りは大丈夫だろう。


「殿下はどれがいいと思いますか?」


「え、あ、ああ。どれも似合うと思うが……」


 どれも似合うとかあいまいな返しはよくないと思うのだけれど、まあ、助け船として選択肢をしぼっていってあげよう。


「そうですね……。殿下は白と水色、どちらが好みですか?」


「なぜオレの好みを聞く。着るのはアリスだろう?」


 実際、こういうときにどっちと聞く場合はたいてい自分の中で結論が出ていることもあるけど、そうじゃない場合もある。


「こういうのは第三者の意見が重要なのですよ。自分であったり、同性からの意見であったりすると、どうしても傾向が偏ってしまうこともありますから、できれば異性の意見が」


 新しい服に挑戦するというのは中々勇気がいることで、自分で服を選ぶと無難なほうに流れたり、似たような色のものを買ってしまったりする。そういうときに新しい方向性の風をくれるのが他の人の感想なわけだ。


「そういわれてもな……。しいて言うならば白か」


「では、白のトップスの1着は決まりですね」


 そう言いながら、他の何着かも同様にアリスちゃん、王子の意見を交えつつ決めていく。合計4着ほど購入することになった。


「あ、あの、こんなに買うお金は……」


「このくらいは、今日の案内のおまけですよ。店の傾向もつかめたでしょうし、次からは自分でどうにかできるでしょう」


 実際、数着増やしておけば、今後、そこまで高頻度で服を買わなくても、どうにかなるだろう。コツコツ貯めていけば、寒くなる頃には自分のお金で冬服を1、2着は買えるはずだ。

 その後は王子とくっつけば服も自由にとまではいかないけど、買いやすくなるだろうし。






 洋服を何点か買った後は、ぶらりと何店舗か回りながら、案内を進めた。アリスちゃんが日常で立ち寄りそうな範囲を網羅する感じで、ぶらぶらと。

 そして、アクセサリショップに立ち寄った。ここもくる店の候補として入っていたので、店には連絡が入っているはず。シルバーアクセ中心の店で華美な装飾だったり、宝石が埋め込まれていたりということのない、シンプルなデザインの店だ。


「どうですか、アリスさん、気に入ったものはありますか?」


「あ、はい。これならわたしにも買えそうですし」


 土属性の魔法により、金属の抽出と加工の難易度が下がっているため、前世よりは比較的安価で手に入るアクセサリ類。もっとも、相対的に安く見えるというだけで、けっしてものすごく安いというわけではない。


「では、これをお揃いで買いましょうか」


「そんな安物でいいのか?」


 わたしの言葉に、王子が言ってくるが無粋というものだろう。わたしはため息でもつきたげな顔で王子にいう。


「これは友情の証……などというと大げさですが、同じ時間や思い出を共有するものであって、値段なんて関係ありませんよ」


 前世でいうところの遊園地で同じ耳付きカチューシャをつけたり、同じキーホルダーを買ったりするのと同じで、値段などではなく時間、思い出の共有。


「というわけで、殿下とアリスさんも揃いの品を買ってみたらどうでしょう」


 こうして、王子とアリスちゃんにお揃いのアクセサリを買わせたり、今度は同じような理屈でアリスちゃんにわたしと王子のお揃いのアクセサリを買うように勧められたり、そんなことをしながらものすごく楽しく案内兼買い物が終わった。


 そうものすごく楽しかった。


 楽しかったけど……、これは介入に成功したのだろうか……?

 いや、王子の好感度上昇イベントはもう1つある。そちらを成功させれば何とか……。

 わたしの苦悩は続く。

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