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049話:イベント攻略・その7

 あのイベントから数日が経ち、ロードナ・ハンド男爵令嬢の処遇が決まった。


 王立魔法学園を除籍。


 シンプルでわかりやすい結果だった。だけど、まあ、みだりに魔法を使って傷つけようとする行為をよりにもよって魔法学園で行ってしまったのだから当然と言えば当然の処遇であった。


 そして、人の口をふさぐことはできないので、そこに王子が居合わせたことなども含めて伝わっていった。


 結果としてやはりというかわかっていたことというか、「王族の権威」問題が提起されて、貴族の間でそんなことがいわれるようになったけど、魔法学園側からの公表内容的にもロードナ・ハンドに非があるというのが大勢の意見で、ほとんど盛り上がらずに、その問題は消え去っていった。


 ハンド家は声をあげなかった。

 非があると認めたから?

 それともわたしの予想通りにファルム王国側の意向を汲んで?


 それは、いまの段階でわからない。けど、その答えをいつか知る日が来るのかもしれない。

 アリュエット君を経由したラミー夫人からの伝言によると、そろそろ本格的に調査に乗り出すそうなので、その情報に期待したいところだ。






 学園の生活は1人除籍されたくらいで大した変化はない。だけど、パンジーちゃんいわく、学生寮の雰囲気も変わってきたという。


 最初のころに台頭したロードナ・ハンドによる派閥が徐々に縮小されていったものの、消えていなかったときは、結局、一度でもそこに賛同した人が大きく動くことはできなかったけど、その頭が消えたので落ち着いた流れに変わっていったようだ。


「それでも、最後までロードナ・ハンド男爵令嬢に従っていた方たちの中には、ポストロードナと言いますか、彼女の意思を継ぐような方は現れなかったのですか?」


 妄信者というか、中にはそういった彼女の思想そのものに賛同していたような人がいてもおかしくはない。だからそんなおかしな輩が登場するのではと懸念していた。


「いいえ。まあ、いたとしてもそう簡単には名乗り出ないわ。何せ殿下の庇護にあることを今回の件で証明した結果だし」


 それもそうか。名乗り出たところでロードナ・ハンドの二の舞を演じることになるだけだから。


「まあ、現行犯で取り押さえられたロードナ・ハンド男爵令嬢以外の方々はおとがめなしで済みましたし、これ以上不用意に騒ぎ立てる方もいませんか」


 ロードナ・ハンドは現行犯というか、魔法を人に対して傷つけるためにみだりに使ったことが主なので、それ以外の加担していたであろう男爵子息、男爵令嬢たちは特に何もなく、おとがめなしという状況。

 これはアリスちゃん自身の提言もあるのだろう。アリスちゃんも積極的に罰するようにいうタイプではないし、言い逃れのできないロードナ嬢以外は特に何も言わなかったのだと思う。


「彼らも今回の顛末を見て、自分たちが一歩間違えばそうなっていたこともわかったでしょうし、その自覚があればあるほど黙っていると思うわ」


 最初のほうの嫌がらせから徐々にエスカレートしていった行為。もしかしたら、ロードナ・ハンドが自分自身ではなく、取り巻きに魔法を使わせていたら。そうなったときに、自分も同じように除籍されていたかも、そんなことは誰よりも彼ら彼女ら自身が分かっているでしょう。


「カースト問題は毎年のように起こるとはいえ、基本的には貴族と貴族の問題。だけど、今年は標的にされてしまったのがアリスさんでしたからね。貴族同士という最後のセーフティが外れて、思わずここまで暴走した結果になってしまったのかもしれませんね」


 結局のところ、大なり小なり、似たようなことは毎年起きていたが、貴族同士であれば、家の名前に傷がつくとか親同士の確執とかコネクションの広さとか、そのあたりでそんなに大きなことは起きない。

 でも、今回は平民であり、そんなセーフティなどないアリスちゃんが標的にされてしまった。平民と貴族。爵位よりもわかりやすく大きな格差。あるいは覆ることのない絶対的な格差と言い換えられるのかもしれない。


「その程度でたがが外れる未熟さが貴族としてどうなのかという話だと思いますけれどもね。まあ、ひとまずこの問題は解決したとみていいのかもしれません。経過観察は必要ですが」


 まあ、解決したといっても「表向きは」という注釈が入るだろう。その実際のところがどうなっているのかは、ラミー夫人の調査待ち。


「それじゃあ、複合魔法についてようやく次のステップを教えてもらえるのね」


 パンジーちゃんはすでに2つの魔法の同時発動をかろうじてできるくらいの域に入っている。安定こそしていないけど、そこからは自己鍛錬で深めていく部分だろう。


「そうですね。そろそろ本格的に複合魔法のステップに入ってもいいかもしれません」


 むしろ、いまの段階でなれさせていくほうが合理的なのかもしれない。小さい魔力同士を掛け合わせたほうが失敗したときのリスクが減る。


「ただし、ここからはわたくしが直にやってみせて指導ができるわけではありません。パンジー様自身がつかんで発展させていく必要がありますから進展せずとも焦らないでくださいね」


 わたしはあくまで三属性の魔法使いとしてパンジーちゃんの指導に当たらないといけない。実際に見せて指導というのができない以上、わたしの説明をパンジーちゃんが飲み込んで自分の形にしてもらわないと。


「ええ、分かっているわ。でも、そこに進めれば、あの『北方の魔女』の領域に足を踏み入れることができるというのならやるしかないでしょう」


 こうして、複合魔法の修得に向けてパンジーちゃんの特訓が始まった。







 ロードナ・ハンドの件から数日が経ったいまでも、アリスちゃんはまだ復帰していない。王子とお兄様も学園には顔を出していない状態だ。


 事情聴取というか、事情説明というか、詳しいことをさかのぼってまで聞かれていて、2人はある程度のフォローを入れているのだろう。それでも復帰まではそうかからないはず。


「しかし、あんな仕打ちをされた相手に対しても、除籍程度の処分で済ませてやるのは甘すぎねえか?」


 庭園のベンチにもたれかかりながら、シャムロックが言う。除籍程度で甘いというのならどの程度を想定しているのだろうかと思いながら言葉を返す。


「アリスさんとしては、話し合いで分かり合うつもりでしたからね。それに除籍以上となると追放か処刑。そこまで行くとさすがにやりすぎでしょう」


 まあ、邪魔だからという理由で処刑されたカメリアに比べれば、もっと実害があるのだからカメリアが処刑ならロードナも処刑されて当然かもしれないけれど。


「追放ってハンド家から放逐するってことか。まあ、そのくらいしちまってもいいんじゃねえの。というか俺なら多分そのくらいはやってたんじゃねえかな」


「ウソをつかないでください。面倒くさいことはやらないでしょう。シャムロックさんなら適当に出た処分で妥協するはずです」


 あくびをしながら「まあ、それもそうだな」とシャムロックは答えた。


「それにしてもお前は裏でいろいろと動きすぎだ。どうせ他にも何か動いているんだろ。少しは休むことを覚えろ」


「あら、だからこうして、いまたっぷり休んでいるではありませんか」


 この庭園で講義の合間の休憩をしていたので、休んでいるというのはウソではない。まあ、裏でいろいろとやっているというのは事実なんだけど。ラミー夫人に頼んでいる件といい、これから先のイベントへの調整といい、校外学習の件といい、やることはいっぱいある。


「お前は尋常じゃないくらいの科目を履修してるうえに、たまに、履修していない寡黙にも顔を出しているだろ。そのうえ裏でコソコソと……」


 確かに、顔を出すのは自由だと言われているので、履修していないものにも参加することがあるけど、そこまで高頻度で参加しているわけではない。


「そういうシャムロックさんは最低限しか履修していないじゃないですか。ほとんどここ以外で会いませんよ」


 たくさんの科目を履修しているということは、それだけ会う機会が増えるはずなのだが、シャムロックとはほとんど合わない。必修の科目くらいだ。


「俺は木だからな。お前と会うことはあまりねえのは当たり前だ」


 わたしの魔法は、一応、土、火、水ということになっている。木のシャムロックとはあまり会わないのも当然と言えば当然。お兄様とも学年が違うことのほかに、魔法属性が風であることもあって学園ではあまり会わない。

 もっとも、お兄様に関してはいくつかの全学年で共通して履修できる科目でいくつか被っていて会うこともあるので、シャムロックとほぼ同じくらいの頻度では会っている。


「のんびりするのはいいですが、あなたもやりたいこと、やるべきことを見つけていかないといけないのかもしれませんね」


「……やりたいことがないわけでもないがな」


 ぼそりとつぶやくようにシャムロックが言った。しかし妙だ。「たちとぶ」の通りならこの時点のシャムロックにやりたいことなんて言うのはなかったような……。


 アリスちゃんと関わっていくうちに、アリスちゃんを守るために家を継ごうとするのだから、そこまで関わりが薄いいまにそうなるとは。


 でも、アリスちゃんのイジメ事件に関わらせたから、そのことが起点になってその方向に考えが動いたという可能性も……。シャムロックを連れて行ったのは失敗だったか。


「アリスさんの一件があなたに影響を与えましたか」


「はあ……。お前はさあ……」


 何やら溜め息を吐くシャムロックだけど、さては図星だったからそんな反応になったのだろうか。しかしだとすればまずいわね。

 校外学習までのイベントでシャムロックとアリスちゃんの距離をぐっと離さないと……。


「何でお前は自分に対してってことを真っ先に考えられねえのかな……」


「何の話ですか?

 というかわたしはいつでも自分本位で考えていますとも」


 そう、わたしはわたしが生き延びるために裏でコソコソ策を巡らせているのだ。

 なぜかそういったのにも関わらずシャムロックは深いため息を吐いていた。何でだろうか。

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