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041話:イベント攻略・その3

 わたしは王城を発ってすぐに、ジョーカー公爵家に向かっていた。もちろん相談の相手がそこにいるからだ。アポイントメントは事前にとってあった。むしろ、今日、アポイントメントを取っていたから、それに合わせて王子に相談に行ったというほうが正しいかもしれない。


 何せ、今日のアポを取ったのは入学してしばらくしてのことである。ただ、ラミー夫人が北方へ行っていたこともあり、時期がずれてこのタイミングになった。まあ、それはそれで、このイベントと重なったタイミングになったのは好都合でもある。






 アリュエット君は不在だったので、使用人に案内されてラミー夫人の部屋に通された。いつも通りという感じで書類に向き合う夫人。


「ごめんなさいね、会うのがずいぶん遅れてしまって。北方の査察が思ったよりも時間がかかってしまって。それとも、そのへんはすべており込み済みだったのかしら」


「さすがに買いかぶりすぎです。この時期にずれ込んだのも偶然ですが、それはそれで良いタイミングとなってしまいましたけど」


 これに関しては本当に知らなかった。そもそも、ラミー夫人の動きはほとんど知らない。特に入学時から個別ルートに入るまでの間は。個別ルートもアリュエット君のルートでのものしか知らないけど。


「良いタイミング……?」


 まあ、そのへんは説明しないと分からないでしょうし、説明しないで適当に流すなんてことはしないで、流れは説明するつもりだ。


「では、まあ、まずはそのあたりから説明しましょう。本題を話すうえでも話しておいたほうがいいことですし」


 そう前置きして、わたしは王子に話したのとほぼ同じ内容のことをラミー夫人に説明した。夫人の理解が早くて、王子よりもすんなりと話が通ったのはさすがだと思う。


「ひとまず大まかな流れは理解したわ。でも、やっぱりあなたにしては杜撰な計画としか言えないわ。つまり何かあるのでしょう?」


 わたしの計画が杜撰ということは何かあるからあえてそうしていると解釈されるあたり、いままでの積み重ねなのか買いかぶりなのか。


「そうですね。では、まず、計画を動かすタイミングに対する杜撰さ。ロードナ・ハンドの気分しだいという部分についてですが、まあ、こちらに関してはとても簡単な話です」


 というよりもこのあたりに関しては、ラミー夫人も分かっているのだと思う。彼女の持っている知識なら、そこにたどり着けるだろうし。


「あなたの『知り得ない知識』で、行われる日時や場所が分かっているのでしょ?」


 そのくらいの予想はつくとでも言いたげに、肩を竦めながら言うラミー夫人。さすがに分かるか……。まあ、王子たちとは話している情報の量が異なるので、前提条件からして違うから比較する意味はないのだけど。


「ええ、その通りです」


「まったくもって便利なものね、その『知り得ない知識』というのは」


 便利というが、完璧なわけではない。それが特に今回の件で露呈している。だからこうしてここに来ているわけだけど。


「だけど、あなたのことだからアリス・カードという子が虐げられることはあらかじめ知っていたのだから、そうならないように事前に立ち回ることはしなかったの?」


 つまり、いじめ自体を回避してしまえばよかったのではないかという話。わたしも考えなかったわけではない。


「一応、事前に、寮での生活は合わないのではと提案してスパーダ家か王家、あるいは言い出しっぺのわたくしの家であるロックハート家で引き取るという案も考えたには考えたのですが……」


 そのルートをたどると大きな問題がいくつも現れる。だからこそ、選ばなかったのだ。


「まず、アリスさんの人間的成長の機会を阻んでしまう恐れがあるというのが1つ目の理由です」


「あら、何もそれを乗り越えなくては人間的に成長できないわけではないでしょう?」


 確かに人間的に成長するというのは何もあのイベントを経ないといけないわけではないのだけれど、成長の機会を奪うのは個人的なレベルの話ではなく、もっと大きな規模で問題をはらむ可能性があった。


「光の魔法使いという存在は、自身で力の発現する形を選択します。人間的成長の機会や壁というのは、そこに大きく直結するものですからそれを阻むのはあまり好ましくありません」


「なるほど。後の戦争が起きたときにも、その発現する形というのが影響しそうですものね。そう考えるのは仕方ないか」


 確かに戦争に対してというのも1つの正解ではあるのだけど、もしかするともっと大きな規模で問題となっていたかもしれない。まあ、そのあたりは確証の無いことだけど。


「そして、もう1つは、殿下とアリスさんの距離を近づけるために必要だったからです」


「確かに、殿下が助ければ距離は近づくでしょうけど、殿下が危険にさらされること自体はいいのかしら」


 もちろん、そのへんにもいろいろと気を配っている。もっとも、本来の「たちとぶ」では、王子が全部勝手にやっていたことなので安全性も何もないけど。


「元々、わたくしが介入しない場合でも『知り得ない知識』によれば殿下が無事に助けていましたが、確かに危険が伴います」


 もしもということは常に起こる想定でいたほうがいい。だからこそ、他への手回しをするのだから。


「ですから、アリュエット様やクレイモアさんに手を貸していただくつもりですよ。万が一ときに殿下を守ってくれるように」


 クレイモア君なら王子の危険に関わることといえば断らないだろうし、アリュエット君も手を貸してくれと言えば断らないだろうから。


「あら、あなたが直接守ったほうが、もっと安全なのではなくて?」


 当然というか間違いなくそのほうが手っ取り早い。そして、もちろ、いざというときに助けない理由もない。


「何事にも保険は必要です。そして、何より、殿下が危険な目に遭うかもしれないという状況に立ち会えないというのはスパーダ家の跡継ぎとしてクレイモアさんにわだかまりを作りかねません。アリュエット様も、よく話す間柄なのに何も相談されなかったらよくは思わないでしょうし」


 これはあらゆる意味で「保険」なのだ。わたしが王子を助けられなかったときの保険でもあり、もし後にこの件が明らかになったときに人間関係を悪化させないための保険でもある。


「でも、まあ、あなたのいうように、この一件で殿下とアリス・カードの距離が縮まるとしても、あなたが思い描くように2人を結びつかせるのは難しいのではなくて?」


「あくまでも、この一件は前提条件です。それも殿下だけではなく、アリュエット様やお兄様などを含めたアリスさんと結ばれる可能性のある方々とアリスさんが結ばれるための」


 お兄様に関しては、初イベントで打ち明ける選択肢があるものの、それを選ばなくても攻略できないことはない。まあ、その場合、個別ルートで若干、発言に矛盾が生じるんだけど。

 まあ、乙女ゲームというかアドベンチャーゲームにはよくあることなので気にしてはいけないのだろう。


「前提条件……。ということは、逆に言えばこの一件がないと誰とも結ばれることはないと?」


「それは分かりませんが、少なくとも今回の一件と校外学習を経て、彼女の好意が誰にも向いていない場合はそうなると思います」


 好感度が一定値に達していないか、もしくは全員の好感度が同じときに発生するバッドエンドルート。個別ルートに入れないというもの。

 ちなみに、同じ高い好感度のキャラクターが2人以上いる場合、王子がいれば優先的に王子のルートに、王子がいなければ先にその好感度になったキャラクターのルートに入る。


「では、あなたとしては校外学習までの間に、殿下と彼女を積極的に近づけるのね」


「そうなりますね。さいわいにも起こり得ることはある程度把握しているので、そのサポートをしていく形になるでしょう」


 ようは、王子のイベントはイベント通りになるようにして、それ以外のイベントは邪魔をしてしまえばいい。

 正直な話、「たちとぶ」における個別イベントは、同日の選択イベントで複数人のキャラクターが好感度に大きく影響するイベントが発生しているということは少ない。

 例えばアリュエット君の好感度が一気に上がる選択イベントがある日に、お兄様やクレイモア君を選べたとしても、お兄様やクレイモア君の選択イベントは好感度が大きくあがるものではないことが多いということ。

 数値で分かりやすく言うと、アリュエット君の選択イベントが選択肢によって好感度5上昇する選択イベントがあるときは、他のキャラクターは選択肢なしで、選択イベント選択による好感度1上昇のパターンが多い。


 これが分かっていれば、好感度に大きく影響が出そうなところに介入して、王子の好感度は大きくあげさせて、それ以外を大きくあげさせないということが可能なのだ。


「あなたの『知り得ない知識』にはばらつきがあるというのは分かっていたけれど、今年の学園のことはかなり詳しく知っているという認識でいいのよね」


「あくまでわたくしが知っているのは入学から建国祭までの間で、かつアリス・カードさんの周囲の一部だけ。ある種、アリスさんの主観に関することだけとでも言いましょうか。

 ですから、ロードナ・ハンド男爵令嬢に関しては、今回の一件で初めて名前を知ったというようなことも起こります」


 わたしの知識ではあくまで「モブ貴族」という認識であったロードナ・ハンド。そしてもう1人、引っかかる名前を持つ、わたしがその名前を知らなかった人物。


「アリス・カードが虐げられることやそれがいつ、どこで行われるのかなどは知っていても、相手の名前は分からなかった?」


「あくまで『貴族』ということしか。わたくしの『知り得ない知識』というのにも、このように穴があります」


 ちょうどいい会話の流れだ。ようやくこのまま本題が話せそう。そう思いながら、話すことを頭の中で整理する。


「穴?」


「そうです。これがもう1つの杜撰さの要素であるハンド男爵家が声をあげないという予想と相談するために来た本題につながっているのですが」

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