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274話:ラストイベント(アイコン・なし)・アリスの思いと王子様

 花の茶会。ディアマンデ王国には、そう呼ばれる四大お茶会が存在する。紅花、黄連、葵、紫蘭。これらは、別にシーズンごと……ではなく、13か月で打ち分けるなら1月に紅花のお茶会、2月に黄連のお茶会、10月に葵のお茶会、11月に紫蘭のお茶会が開かれる。


 ただ後半の2つのお茶会は、建国祭の時期が近いこともあって、そこまで大きな規模にならないことが多く、特に紫蘭のお茶会は、個人規模の小さなお茶会をこぞって開く公友会のようなものである。


 概ね、誘いを受ければだれであろうと参加できるお茶会であるが、基本的には各貴族の奥様方の憩いの場ということもあり、わたしなんかはこれまで、どのお茶会も顔見せ程度に一度か二度参加したくらい。


 ちなみに前世で考えるのなら紅花とかは初夏に花を咲かせたような気もするけど、まあ、深く考えても理由は知らないし、何らかの意味があってもビジュアルファンブックでは少なくとも説明されていないこと。

 そんな紫蘭のお茶会の一つに、わたしとアリスちゃん、ラミー夫人はガーネット妃に招待されたのだった。


「それにしても、よろしいのですか?

 第一夫人のお茶会といえば、紫蘭のお茶会でもそれなりの規模で行われるものと聞きますが」


 紫蘭のお茶会では、個人規模の小さなお茶会ではあるが、その「個人規模」の規模は人によって大きく異なるわけだ。中でも、ガーネット妃のお茶会は紫蘭のお茶会の目玉と言われるくらいには大々的だったと思う。


「今年はさすがに自重していますよ」


「あー。そうね、今年は、ね」


 ガーネット妃とラミー夫人のやり取りで、わたしもその理由を察することが出来た。「今年」に限定するということは、今年に起きた出来事に起因するわけで……。


「確かに、まあ、そのほうがいいかもしれませんね」


「?」


 アリスちゃんだけは、話の流れが分かっていないようだった。なので、話を誘導して、自分で気づけるように誘導する。教えてあげてもいいけど、今後も王子やわたしたちと付き合っていくなら、そういう部分に気付ける発想力というか、気づける貴族的常識というのを覚えてもらった方が良いでしょう。


「アリスさん、今年といえば何がありましたか?」


「え?

 えと……、旧神の残滓……の復活?」


 確かに、記憶としては強く印象に残る出来事だし、災害が起こったという意味では物事を大々的にやるのを自重するという意味では通じる出来事。しかし、今回は、そうではない。


「他には?」


「えと……、うーん……」


 わたしがアリスちゃんにそういうアレコレを導いていこうという意図を理解しているからか、にこやかに見守っている。


「あっ……、デマントイド殿下」


「そう。第二夫人のウィリディスさんがデマントイド殿下をご出産なされたことが発表されましたね」


 つまり、今年はウィリディスさんの主役の一年ということにしておいた方が、政治的にも外聞的にもいいということ。ここで変にガーネット妃が目立つと、対立がどうとか言われかねない。


「そういうことで、身内での小さなお茶会なんですよね」


 まあ、ウィリディスさんがお茶会を開いているわけでもないし、お茶会を開くような性格でもないので、ガーネット妃は動きにくいと思う。いまですらメイドに徹する様子を考えれば、ウィリディスさんを立てるのは難しいでしょう。


「そんなわけで、なにやら面白そうな話があるらしいじゃないですか」


 ガーネット妃がニヤニヤとこちらを見る。彼女のお眼鏡にかないそうな話題といえば、あれしかないでしょう。わたしは苦い顔をラミー夫人に向ける。ラミー夫人はそ知らぬふり。


「はあ……、まあ、女子会らしい会話といえばらしい会話かもしれませんが」


 恋愛トークなんて言うのは女子会の定番だろう。まあ、わたしは前世でもそうそう女子会なんてしていないので、実際のところの女子会での定番なのかどうかは知らないけど。


「なにかあったんですか?」


 アリスちゃんの言葉に、若干のため息をもらしながらも、わたしは素直に言うことにした。


「告白……されたのですよね」


 別に「やれやれ困ったわ」とでも言いたげなモテるアピールなどではなく、普通にどうしたものかと困っている部分はある。


「まあ!

 それは……、えっと、おめでとうございます?」


 アリスちゃんは、驚きと共に、どういえばいいのだろうと微妙な反応を見せた。


「めでたいのでしょうかね……。少なくとも返事をして結ばれていればめでたいことだったかもしれませんが……」


 ただ告白された。それだけだとおめでたいことかどうかは微妙なところだろう。まあ、一般的には青春のおめでたいイベントに分類されるかもしれないが……。


「貴族社会なんて、『告白』なんてことはめったに起きませんしね」


 ガーネット妃がくちびるを尖らせながら言う。まあ、それはそうで、基本的に「自由恋愛」などではなく、家の格であったり、政治的アレコレであったり、そういう面から家を通じて結ばれることが一般的。

 まあ、ここにそれを蹴っ飛ばしてジョーカー公爵と結ばれたような例もあるから、あくまで「一般的」な話でしかない。


「いえ、あの……、平民でもあまりないんですよ。告白って」


 「そうなの?」という視線がアリスちゃんに集中する。でも、まあ、確かにそうかもしれない。


「商人の方々も基本的には家同士で、そういうつながりで結ばれることが多いですし、農家とかもそんな感じで」


 貴族ほどではないけれど、平民もそんな感じだろう。特に、隣の町まで馬車で何時間、あるいは何日なんてこともある。必然的にコミュニティが小さくなる。そうなると、仕入れ先やあるいは販路に関わる人なんかとつながっていくかもしれない。

 まあ、町のパン屋の娘に求婚してパン屋に……なんてことも全然あるでしょうし、あくまで多いってだけの話だと思うけど。アリスちゃんの実家が農家という部分もあるからね。


「しかし、まあ、なんたって3人からも告白されちゃうんだから罪な女よね、あなたも」


「わたくし自身、何がどうしてこうなったのやらという感じです。本来、罪な女はアリスさんになってもらいたかったのですが」


「ええ!?」


 実際問題、どうしてわたしが告白されているのか、そこに疑問は尽きない。好感度調整をミスったか……?

 確かに、時間がズレたとはいえ、お兄様とクレイモア君のルートイベントは起きているわけだけど、同じ理屈で人が違うとはいえ、ルートイベントに入ったという意味ならシャムロックもアリュエット君もか。しかも、全員、ルートイベントを通ったのがわたしだから、そう解釈すれば分からなくはない……か?


「というか、3人って……?」


「クレイモアさん、シャムロックさん、アリュエットさんの3人ですね」


「え……、あー、わたしはてっきり」


「?」


 わたしがアリスちゃんの反応に首を傾げるも、ラミー夫人は「そうよね、同じこと思ったわ」とうなずいている。なんなんだ、その反応は。


「いやー、他人事なら面白いんですけどねー。意気地がないのか、それとも油断慢心か……。ホントにねー」


「まあ、でも、カメリアさんの反応を見る限り、それ以前の問題じゃない?」


「いえ、それはカメリア様もカメリア様な気が……」


 わたしを蚊帳の外にして話が続く。


「わたし……、ちょっと言ってきます」


「……じゃあ、任せましょうか」


 何がどうなって、何をどうすることになったのか、アリスちゃんはお茶会の席を立ち、どこかへ行ってしまった。


「えっと……?」


 わたしが困惑してると、ラミー夫人は呆れたように言う。


「どうせあなたのことだから、どの告白も断るんでしょうけど」


「ええー、浪漫的(ロマンチック)じゃないでしょう。そこはもう全員と結ばれる恋愛浪漫を」


「それはもうロマンチックどうこうの次元じゃないと思いますけど」


 逆ハールートに行けと……。ある意味「ロマン」ではあるかもしれないけど、ロマンチックかと言われると……。


「まあ、いつか返事はきちんとするべきだとは思っていますよ。それが誠意というものでしょう。いい返事であれ、悪い返事であれ、ですね」


 うやむやにするのは良くない。きちんと答える。それが人として当たり前の誠意であるとわたしは思う。もちろん、あえて無下にすることはできる。誠意を見せないという答えもあるということ。でも、3人とも、わたしは誠意を見せたいと思っている。思ってしまっている。




 そんなとき、部屋に入って来たのは戻ってきたアリスちゃんと王子だった。なぜ王子がここにという思いはあるものの、まあアリスちゃんが呼んできたのだろう。


 ツカツカとわたしの前まで歩いてきた彼は、わたしの前で跪き、


「オレと結婚してくれ」


 といった。ふむ……


「婚約予定ではありましたが……」


「いや、そういう話ではなくだな」


「つまり、わたくしに好意的感情を抱いていると?」


「その疑わしいものを見る目で、あえて堅い言い方をするなよ」


 いや、まあ、うん。お兄様は肉親であるし、アスセーナさんことリリオさんというパートナーを見つけたからともかくとして、クレイモア君、シャムロック、アリュエット君が告白してきたのだから、可能性はあってもおかしくない。おかしくないが……。


「アリスさんはどうするのですか?」


 まるでアリスちゃんを盾にするようで嫌な言い方ではあるけれど、言い訳ではなく、本当に彼女はどうするのかという質問。


「既に告白し、受け入れてもらっている。ただし、条件付きでな」


 条件……?

 そう思い、アリスちゃんの方を見ると、王子は「その条件というのは」と言い、それに続けるようにアリスちゃんが


「カメリア様も一緒に結婚するまで、結婚はしません」


「とのことだ」


 なるほど、まったく呆れたものだ。でも、こうして思って、何となくわたしの中でのみんなへの返答が決まった。


「分かりました」


「え?」


「いえ、これは告白への返答ではなく、事情が分かったという意味ですからね」


「それくらい分かっている」


 いや、早合点しそうだし、言質を取ったとか言われても嫌だし。


「だったら、わたくしからも条件があります。これは殿下……、アンドラダイト殿下も含め、わたくしに告白してきた全員に同じように言います」


 一呼吸置いてからわたしは続けた。


「それならわたくしを納得させて(こうりゃくして)みなさい」


 そう。攻略対象たちを攻略してきたわたしだけれども、今回ばかりは、だったらこう言って見せる。「わたしを攻略してみせろ」と。



 こうして、わたしと攻略対象たちとアリスちゃんの愉快な日々は、まだまだ続く。何年、十何年も……。

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