267話:17YEARS LATER(ポム・グラネ・イート)・その5
魔法学園に来てからしばらく。私は最初に会ったパースピレイト家三人組や王子様、オニキス先輩などと一緒にいることが多かった。ちなみに、パースピレイト家三人組は全員一個上で、オニキス先輩が二個上、王子様が同い年。
まあ、学園の仕組み的に学年が違うくてもさほど大きな問題にならないし。後はプラシくんがサボりがちなのと、オニキス先輩がサボりがちなので、その2人との遭遇率が高いことも一緒にいる要因。
まあ、プラシくんのサボるとオニキス先輩のサボるは全然違うんだけど。
ふっつーにサボるプラシくんに対して、錬金術の研究のためにサボるオニキス先輩。結果的に見れば同じでも、やってることは天と地ほども違う。
「かったりーなー」
カタリナなんて名前に聞こえなくもないけど、プラシくんが「かったるいな」と言ってるだけ。場所は学園内の庭園。人もあんまり来ないからサボるには定番だけどさ。
「プラシくん、またサボり?」
「人をサボり魔のように言うけどよ、ここにいる時点でお前も似たようなもんだろ」
あ、バレた。いや、別に私はそこまでサボっているわけじゃないんだけど。
私の場合、受ける講義が火属性一つとそのほかって感じで、他の人よりも多くはないし、家の放任主義も相まって特にすることもなければ、お金も潤沢なわけでもなく、そうなったら学園内で時間を潰すしかないわけで。
「お兄ちゃんと一緒にしないの。ポムちゃんもちゃんと言わないとダメだよ」
マディーちゃんは、このサボり癖のあるプラシくんを注意するためか、結果的に講義に出られないことがあるものの、できる限り頑張って出席している優等生かつ苦労人。結構仲良くなった、一緒に買い物に行ったり勉強したりするくらいには。
「そんなキミたちに少しばかり頼みたいことがあるんだけどいいかな」
なんて言葉を言いながら登場したのは王子様。しかし、頼みたいことってなんだろう。王子様の頼み事なんてロクなもんじゃない気がするけど。
「頼みたいことってなんです?」
私が質問したのに対して、マディーちゃんがアワアワとしていたけれど、別に王族からの頼みは無条件で受け入れなくてはならないなんてことはないでしょ。
「兄さんが僕の友だちに会ってみたいって言っていてね。身分とか立場とか気にせずに私的な場だから軽い気持ちで来てほしいんだけど」
そういう「軽い気持ちで」とか言って行ったら全然重かったりするんだよね。「正装不要」とかの文言に騙されるアレと一緒。
てか、お父さんとかじゃなくてお兄さんなんだ。まあ、年齢的な部分で考えるとそりゃそうかって感じなんだけどさ。
「それで私たちに頼むって、友だち他にいないんですか?」
「ホント、ハッキリ言うよね、キミ」
「ハハハッ、やっぱ面白いわお前」
プラシくんが大爆笑、王子様が苦笑い、マディーちゃんが頬をひきつらせていたけど、言うて他の面々はともかくとして、私なんて出会って数日だし。それを紹介する面子の中に含めるって言うのは……。
「まあ、実際、城に呼べるまでの友人は多くないというか、キミたちくらいだからね」
王子様ともなれば、友人を作るのが難しいというのは分かる。例えば、本人が気にしていなくても、爵位が低い家の子たちは遠慮するだろう。私みたいなのは例外としてね。
そうなると公爵家か侯爵家の子息令嬢くらいで、本当に全く気にしないプラシくん、敬うけれど仲良くしているカンゴさんあたりは友人として立てやすいかもしれない。
「でも、次の王様になりそうな人と会って、身分とか立場とか気にせずにって言われても」
「まあ、なったら完全にそういうの無理そうだからなる前にってのもあるんじゃねえの」
なんてプラシくんがつまらなさそうに言った。なるほど、ある意味、プラシくんのサボり癖も、侯爵になってしまってはできないからこそなのかもしれないね。だからって擁護できないけど。
「でも子爵令嬢ですよ?」
「兄さんは特にそのあたりに寛容だから大丈夫だと思うよ。そもそもアリスさんとか平民だしね」
そう言われればそうなんだけどね。でも、あの面子でアリス・カード以外だと、みーんな爵位高いしなあ……。
「じゃあ、まあ、そうまで言うなら」
渋々ではあるけど、私はうなずいた。まあ、あのオレ様王子と会ってみたいっていうのはある。
ということで、私は王城に来ていた。
今回は招待されているというのもあるけれど、正式なものではなく、あくまで私的な要件ということで、特に案内なども付けられなかったけど、場合によっては大変なことにならない?
そんなことを思いながらも、プラシくんとマディーちゃん、お目付け役として付いてきたカンゴさんが同行している。
「なんで誘われたときにいなかったのにちゃっかり来てんだよ」
「先に殿下にお誘いを受けたからだ。それにお前が失礼を働かないか見るよう伯父様からも言われている」
あくまで「お前が」と言い切るあたり、マディーちゃんは信頼されているんだろうなあ……。でも、私が失礼を働かないかも見といてくれると助かります。
「あなた方が招待されたお客様方ですね。ここからはご案内いたします」
突然メイドが現れて、一同が面を食らっている中、私だけは別の理由で固まった。
いや、うん。知っている。知っていた。でも、でもさあ……。
「大丈夫、ポムちゃん?」
マディーちゃんが固まった私を心配して声をかけてくれたけど、それに返している余裕はなかった。
「いつもご子息にはお世話になっております」
ペコリと私は頭を下げる。それに対して、彼女は少しばかり固まって、一瞬だけ目を見開いた。
「なるほど。あなたがポム・グラネ子爵令嬢。いえ、ポム・グラネ・イート子爵令嬢ですね。初めまして、ウィリディスと申します」
ウィリディス・ツァボライト。第一王子、アンドラダイトの侍女であり、現在は第二夫人、そしてデマントイド王子様の母親だ。
その名乗りを聞いて、私以外の全員が再び硬直した。
「では、改めて案内します」
誰もがメイド服にツッコむタイミングを失い、そのままウィリディスの後をついていくことになった。というか、息子の友人を見定めるために昔の服を引っ張り出してきた、とかであって欲しいけど、どうにもそういう感じじゃないから、いまもメイドとして現役なのだろうか。王子様も初対面のとき、母親と同じで人を世話するのが好きと言っていたし。
「お客様をお連れしました」
「ああ、入れ」
ドアの前でそんなやり取りを経て、私たちは一室に通される。特に変わったことのない部屋。謁見の間とか大きな食堂とかでもなく、ただの一室。とはいえ、王城のただの一室だから広いのは広いんだけど。
「ウィリー……。本当にその恰好で出迎えたのか?」
「はい。何か問題が?」
「大ありだ。少なくともデマントイドが来る前に着替えて来い。面倒くさいことになるだろう」
そんなふうにアンディとウィリーの愉快な会話を繰り広げている傍らに、呆れるような顔をしている2人の女性がいた。
私はその顔に覚えがある。正確には私の知る顔の名残があるというか、面影があるというか。
「殿下、来客を放っておくのはどうかと思います。彼らも困惑していますし」
「っと、そうだな。申し訳ない」
女性の言葉にアンディことアンドラダイト・ディアマンデ王子が思いのほかあっさりと頭を下げる。それに驚いたけど、まあ、王子様……デマントイドがあんな感じだし。
「いえ、あ、頭をあげてください」
マディーちゃんは慌ててそんなふうに言う。カンゴさんも似たような反応だ。
「デマントイドのやつはもう少ししたら来る。腰を掛けて待っているといい」
そういえば、肝心の王子様が不在だった。王子様抜きで友達にあっておきたかったってことなのかな。それとも偶然かもしれないけど。まあ、私たちが来る時間なんて王子様には分からないだろうし。
「それにしても、あなたがポムさんね。初めまして、わたくしはカメリア・ロックハート・スペクレシオン」
「っ……。初めまして、ポム・グラネ・イートです」
何でピンポイントで私に……。っていうか、オレ様王子だけだと思ったから来たのに、普通にアリスもカメリアもいるの何なの!
「三すくみの話、とても興味深かったわ。アレ、サタゲ?」
「!?」
それはとてつもない衝撃だった。いや、予想はしてた。でも、それでも、その衝撃は目の前が真っ白になったほど。
そう、実はあの三すくみの話は、とあるソシャゲの属性相性の三すくみの説明をそのままパクっただけ。
それが――サンタンゲーム。正式にはもっと長いけど、一般的にはそう呼ばれてた。略称がサタゲ。元ネタは百年戦争だけど、ゲールじゃなくてゲーム。その世界では百年間ゲームが続いていたという。
そのゲームのプレイヤーとなって、NPCたちを扱い勝利を目指すって言う、偉人要素やオリジナル要素の入り混じったガチャガチャ乙女ソシャゲ。だからジャンヌダルクが男体化してたり、マリーアントワネットが元ネタのマリオ・アントーニョってキャラがいたりする。
しかして、サタゲと言われたならば、サタゲーニストの礼儀としてちゃんと返さなければ……。
「推しはカロルマーニュ。軍営はフラワー!」
「ほう。推しはシャルドレロワ。軍営はフラワー」
私たちは握手を交わした。同軍営の同士なのだから。
「しかし、マーニュとはまた王道ですね。いえ、ドレロワ派のわたくしが言えた義理ではありませんが」
カロルマーニュ。名前から分かると思うけどシャルルマーニュ、カール大帝が元ネタのキャラ。なんとなくこの時点で分かると思うけどサタゲに出てくるキャラは史実とか関係なく、ごっちゃ混ぜ。
シャルドレロワはオルレアン公が元ネタだとかなんとか。ちなみにフラワーはフランス陣営がベース。イングランド側はインネットスターという軍営でアーサーとかが人気。
「急に何の話だ」
「いえ、趣味の話です。お気になさらず。それで、あなたのもう一つの名前は?」
なんて答えるべきか。ごまかす?
いや、意味ないか。
「金剛寺柘榴」
そう。私のもう一つの名前。
「それはまた面白いですね」
なにが?
正直、本名を面白いとか言われることないでしょ。場合によっては喧嘩売ってると思われる。
「あら、気づいていないのですかね。ポムグラネイトは柘榴のことですよね。柘榴石はガーネットですし、金剛石はダイヤモンド。偶然にしては出来過ぎているようで偽名かと思いましたが」
「いや、普通ザクロの英名とか知らんし!」
思わずツッこんでしまった。でも普通ザクロの英名とか知らんでしょ。柘榴石とかは知ってるよ?
でもザクロは英語でって聞かれてとっさにポムグラネイトって答えられるやつなんていなくない?
「結局のところさっきから何の話をしているんだ」
呆れたような顔でアンディが、アンドラダイト・ディアマンデがいう。
「ああ、はい。そうですね。彼女が変革者か改変者かは分かりませんが、簡単に言うのなら、わたくしたちの『星座を墜とす盟約』にとても協力していただけるかもしれない人材でしょうかね」
「……『星座を墜とす盟約』?」
前にも王子様から聞いた。でも、それって一体……。




