264話:17YEARS LATER(ポム・グラネ・イート)・その2
デマントイド・ディアマンデ。その母親はなんとあのウィリディス・ツァボライト。さらには、ファルム王国との同盟まで結んでいるというし、魔力船なんていう意味不明超テクノロジーまで存在している始末。
一体全体、何がどうなればそんなことになるのかという事件のオンパレード。
歴史改ざんとか言うレベルじゃねえ!
カメリア・ロックハートが生きていて、さらにはスペクレシオン公爵になっているのも意味不明。
何がどうなったらこうなるのか、たった一つのバグで起こる変化じゃないでしょ、絶対。きっと、おそらく、メイビー、私の知る歴史にたった一滴の雫が零れ落ちたくらいじゃあ、こうはならないはず。いろんな出来事が重なってこうなったに違いない。それか落ちた水滴が洪水レベルだったか。
「兄さんは凄いんだ」
って王子様は言う。そりゃそうだ。あのオレ様王子のアンディだもん。ヒーローだよ。凄くないわけないじゃん。
「歴史を変える偉業を成そうとしている。だからこそ、僕はあの人が王位に相応しいと思うんだけどね」
歴史を変える偉業!?
まさか、まさか……アンディが、アンドラダイト・ディアマンデが、この歴史の改変の犯人!?
ってそんなわけないか。そもそもこの場合の歴史って、この世界のいままでの歴史からみて変わるような偉業であって、私の知る歴史を変えるような偉業ではないから。
「でも、歴史を変えるってどんな……?」
「さあね。僕じゃ考えつかないような、そんなことだと思うけど。兄さんたちは『星座を墜とす盟約』って呼んでたかな」
「星座を……落とす……?」
文字通りの意味だとしたらそりゃとんでもないことだけど、偉業ってよりは異常だよ。いや、そもそもそんなことが可能なのかって話だけど。
それに、星を落とす、隕石みたいなことなら理解できなくはないけど、「星座」を落とすって意味不明だし。
それから盟約ってのもなんなの?
約束みたいなことだけど、計画とか野望とかならともかく、盟約って誰に対して?
計画とか野望とかは自分自身で完結するけど、約束や盟約って誰かに対してするものでしょう?
「まあ、スペクレシオン公爵や兄さんの考えは僕には分からないからね。アリスさんと一緒にいつも頭を悩ませているんだ」
アリスさん!?
アリス・カード。その名前も私は知っている。というか、カメリア・ロックハートよりも先に当然出てくるだろうと思っていた名前。
「おや、殿下。そちらの可憐な少女はどちら様でしょう」
不意に後ろから声をかけられた。一瞬、反応が遅れてしまったけれど、振り向いた先には少し真面目そうな感じの男性がいた。
「やあカンゴ。こちらは、イート子爵令嬢だよ」
カンゴ。そう呼ばれた男性は「ああ」と納得したようにうなずいて、私に握手を求めるように手を差し出した。私はそれを握り返す。
「ボクはカンゴーム・パースピレイト。パースピレイト侯爵家に連なるものだ」
パースピレイト侯爵?
聞いたことのない侯爵家の名前に、私は首を傾げた。
「おや、聞き覚えがないかい?」
「アーリア侯爵家の件からの繰り上がりって未だに言われているオマケ侯爵って言われるんですがね」
アーリア侯爵家の件?
アーリア侯爵家といえば二大侯爵家とも言える有名な侯爵家だったと思うんだけど、何かあったんだろうか?
「この辺の話は城下にはあまり伝わっていなかったのかな?」
「そんなことはないと思いますが……」
「十数年前に、何十年と危険な実験などの首謀をしていたとしてアーリア侯爵家は解体されてね、パースピレイト伯爵が侯爵になったんだよね」
そ、そんなことがあったなんて。というか、私の知る限りでのアーリア侯爵家にそんな話はなかったんだけど、もしかして、そんな何十年も前から歴史が変化している?
「そうなんですね。えっとパースピレイトさん?」
「ああ、学園にはボクのいとこたちも通っているので、名前のほうで呼んでもらえると混同せずに済むと思うので」
ああ、そうなんだ。
「じゃあ、カンゴさん。私のことを聞いて納得していたみたいですけど、何かうわさとか流れてたりします?」
名前だけで納得されるくらい、なんか変な噂とかあったらヤダな~。浮いちゃうし。
「君が来るということは聞いていたからね。そのくらいかな」
「何せ、急な入学決定なんてアリスさん以来みたいだしね」
でも、アリス・カードは入学からだったから。それよりも、急に放り込まれる私のほうがレアケースってわけか。
「あっ」
そんなことを考えていたら、今度はどこからかそんなまずいものを見た、みたいな反応の声が聞こえた。振り向くと目に隈を携えた男性が、王子にペコペコと頭を下げて、そそくさと逃げるように去って行った。
「オニキス先輩……、挨拶くらいはちゃんとするべきだと思うんだが……」
「まあ、あれも彼の個性だろうさ」
少し咎めるような態度のカンゴさんと、それをなだめる王子様。あの人は一体……?
「ああ、彼はオニキス・ネイル。錬金術に没頭していてね、その腕前は錬金術の多大なる功績を持つスペクレシオン公爵が直々に認めるほどではあるんだが」
「いわゆる研究者っぽい気質なんですね」
ああいうのは、ある種定番のタイプだけに理解はある。研究者キャラ。なんか個別バッドとかあるとマッドとかヤンデレにされがちな気がするけど、一途なタイプも多い印象。
「まあ、長子ではないからというのもあるのだろうね。元々継ぐ気がないから没頭できるってことさ」
「継ぐ気がないというか継げると思っていないって感じだと思うけどね。僕と同じで」
王子様の言葉に、苦笑いを浮かべるカンゴさん。まあ、直々に「継げると思っていない」とか言われたら、そんなふうになるのも分かる。
「まあ、ボクも当主の直系ではないので、殿下の言いたいことは分かりますが」
カンゴさんは、どうやら当主の直系ではないという。いとこがいると言っていたから、そっちが直系なのかもしれない。
「話をすれば、あそこにいるのが、その直系じゃないかい」
肩をすくめて視線を向けた王子様につられて、私もカンゴさんもそっちを見た。そこにいたのはベンチに寝そべる男性とそれを怒っている私と同年代くらいの女性。
「プラシのやつ……、マディーにも迷惑かけてその上……!」
歯を食いしばるようにそんなふうに呻くカンゴさん。どうやら男性のほうがプラシ、女性がマディーと呼ばれているらしい。
「すみません、殿下。お見苦しいものを。少し注意してきます」
そう言ってカンゴさんは彼らの元へと駆け出していった。ぽかんとしている私に説明をしてくれる。
「プラシ、プラシオライト・パースピレイトとマディーことマディラシトリン・パースピレイト。双子の兄妹で、カンゴのいとこなんだ。一応、カンゴのほうが先に生まれたってことで、カンゴが兄ぶっているけれど、年齢は一緒だし、そこまで変わらないんだよね」
なるほど、双子の兄妹だったのか……。にしてもカンゴさんと比べるとプラシくんはどことなく不良っぽいし、マディーちゃんはそれをたしなめる妹ちゃんかな。
「プラシはあんな風だけどね、火と木の二属性魔法使いで、これからに期待されているんだよ」
「じゃあ、順調にいけば次期パースピレイト侯爵ってことなんですね」
「言いにくいことをズバリというね……。ただ、魔法と貴族の責務を果たす力は別だからね。そういう意味ではカンゴを推す声もあるんだけどね。僕は順調に行けば現当主とその弟と同じように、プラシが当主でカンゴがその補佐をするんじゃないかな」
つまりいまの当主、プラシくんマディーちゃんのお父さんとカンゴさんのお父さんの関係は兄弟で、兄を弟が補佐している感じみたいだね。
「それにしても二属性だなんて凄いですね。私なんて火属性だけですし」
「それを言うなら僕も木だけだよ。火ならマディーも火だから、一緒に授業を受けるだろうし、彼女から色々と教わるといいかもしれないね」
へー、マディーちゃんは火属性なんだ。まあ双子の兄が火と木なら分からなくもないけど。ここでプラシくんじゃなくてマディーちゃんにって言ったのは女の子同士のほうがいいと思ったからでしょう。




