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261話:エネルギー資源革命・その2

「まあ、驚くでしょうね。彼女は人の知り得ない知識を有している部分があるから、あまり気にしないほうがいいわよ」


 ラミー夫人が苦笑しながらラブラドに告げるが、ラブラドは少し考えてから、「いえ」とつぶやいた。


「知り得ない知識というのは、常識外あるいは非常識とも言えますが、錬金術にとって必要なのは『あり得ない』ことを叶えること。そういう意味では、ある種、錬金術の体現とも言えます」


 あり得ないを叶える。金属以外のものを金属に変える。確かにあり得ないを叶えるという表現は正しいかもしれない。


「突飛、あるいは、常識的ではない考えが、新しい発見につながることも少なくありません。そういう意味では、錬金術において非凡な才を持つというのは納得しかありません」


 まあ、わたしの場合は、わたし自身の突飛な思考ではなくて、外の世界で確立されたものを持ってくるという部分が大きいので、その評価はありがたいけれど、喜ばしいものではないというか、素直に受け取りづらい。


「過分な評価はありがたいですが、現状、その突飛な発想をもってしても解けていない問題がありましてね」


 わたしの知識や発送では、全くどうにもならない問題というのが存在する。それは、この世界に根深ければ根深いほどどうにかなる問題でもある。


 別理、異なる常識では、新しいこと、その世界にないものをもたらすことはたやすくとも、その世界に根差した問題にはおろそかになる。わたしのその部分を補っていたのはビジュアルファンブックという鍵だったのだけれど、こと新エネルギーの問題に置いては、それが役に立たない。

 逆に言えば、この世界の理、常識で生き続けてきた人間の知識では、新しい転換をもたらすことは難しくとも、既存のものを組み立てていく、あるいはレベルアップさせていくことが得意なわけで。


 これが政治とか魔法とか錬金術方面以外で言うのなら、わたしとラミー夫人がいわゆるお互いを補い合って回していた関係になるのだけれど、錬金術においてはそうも言っていない。


「魔力の抽出と供給。これ自体は、既に何度か検討されたものですが、実用段階となると話が違いますね。ですが、その仕組みを紐解くというのに行き詰っているという感じではありませんね」


「ええ、実用段階にあるというのは分かる通りですが、問題は、抽出したこの魔力というものを用いて、別の用途に転用していきたいと考えています」


「別の用途……。魔力を魔法以外に?

 なるほど、考えてみれば、魔力を消費、あるいは変換して魔法という現象に転じていると考えるのなら、その魔力そのものを魔法以外の形に消費、あるいは変換することも不可能ではないのかもしれませんが」


 この世界で、特にこの大陸で根強くというか、広く支持されている宗教的な考えで言うのなら、魔法というのは神々に与えられたものであり、魔力量や魔力変換はいわばどれだけ神々に愛されているかというような感じではあるので、魔力を魔法以外に使用するという発想は、確かにあまり出ないのだろう。

 というか、魔法以外に使えるとすら考えていないのかもしれない。


 神々が魔法を与えて、それに付随するのが魔力なのだから。


「問題は、どのように出力して、どのような形で作用し、どのように実用に持っていくかという根底の部分なのです」


「これは錬金術だけじゃなくて、魔法的専門家も……いえ、逆効果でしょうか」


 そう。この仕組みに魔法的な研究家、専門家が関わっていないのは、宗教的に神々から与えられたもの、魔法、魔力という根底の考えを覆して、あるいは別方向に、柔軟に考えることが出来るかと言うと難しいからだ。それは、魔法の研究に、あるいは魔法の専門に詳しければ詳しいほど、そうなっていくでしょう。


「出力のほうを考えていますが、抽出のほうは考えなくていいのでしょうか」


「幸い、当分は……、それこそ、何らかの実験で放出事故でも起きない限りは、おそらく枯渇しない程度には貯蔵がありますから」


 まあ、放出事故でも起きたら、どういう形であれこの国はただでは済まないでしょうし。


「普通は、抽出から段階を踏んで考えていくものだと思うのですが、まあ、いいでしょう。先にそちらを考えましょうか」





 こうして、稀代の天才錬金術師一族、ムーンストーンの一族と異界の知識を持つわたしが手を組むことになり、研究は一足跳びに進んで行く。




 既存エネルギー。これらと新エネルギーが一線を画すには、それを使うシステムが構築されてこそである。ただ魔力を抽出、貯蔵、供給出来たところで、それだけでは何の意味もなさない。

 定着には既存のエネルギーよりも効率的かつ便利である必要がある。


 だって、既存の方法の方が効率がよくて、便利であるなら、それを使ったほうがいいのだから。これはエネルギーだけではなく、大抵のものに言えることだけれどね。


 例えば、新しいゲームハードを出すときに、いままでのゲームハードよりも劣る性能で、重くて……ってそんなのだったら流行らないし。でも、それでも流行らせるにはどうしたらいいか。それ以外の供給を断つ。例の通りのゲームだったら、それでもそのハード以外で新作が出ないなら、プレイヤーたちはそれを買うしかないでしょう。

 まあ、それはあくまで最後の手段。だって、そんな方法は開発側としては利があっても、ユーザーには不満が残る。エネルギーのように、常に身近で運用していくもので、それはダメでしょう。


 なら、それが流行るまでの下地も含めて、徹底的に造らないといけないわけ。


 問題は、現状で、これを家庭にまで広げる下地は不可能ということ。

 まず領地での配分の問題、ほぼ家のないような状態にある平民への供給ができない、貴族と平民で配分の問題、そもそも供給ルートをちゃんと確保できるなら安全な道が国中に広がってるだろって言う問題などなど。


 そうなると、例えば火を起こして焼いているものをIHのような魔力でどうにか焼くみたいな身近への置き方はできない。王都の一部ならできなくもないでしょうけど、それはそれで「格差」の象徴みたいになりそうな気がする。


 であるならば、やはり交通。


 ただ、現状では、馬車が主な移動手段であり、また、それを車に変えることは難しい。道の舗装が行き届いていないどころか、ちゃんと道になっていない場所が多すぎる。一部区間だけの運用であるのならば、それこそ、線路を敷いて列車の運行とかになるだろうか。


 それでも開拓と、敷設、列車を作ることから運用、運行、様々な問題が出てくるわけだけれど。


 そうなると、それをあまり気にせずに、既存の「道」が整っている交通か、「道」がない交通になる。航路が拓かれた海行く船か、誰も切り拓いていない空路行く飛行機。後者には、まず、飛行機という技術そのものが必要になり、風魔法で補助できる可能性があるとはいえ、ほぼゼロから構築していくとなると時間がかかる。


 というわけで、船。





「魔力を推進力に変換すると口で言うのは簡単ですけどね」


 嫌味のようなラブラドの言葉を無視して、目の前の実験の様子を見る。


 船に魔力を供給し、それをエネルギーとするのなら、船に必要なのは、魔力を受け取り貯蔵する機関と魔力を推進力に変換する機関。

 前者は、ラブラドがすぐさま完成させて、現在は後者の実験中。


 一つ目のプランは魔力をそのまま放出することで推進力とする。ただ、これはかなり無駄が多く、1の魔力で1の推進力が生み出される。いや、本来なら、それすらも全然効率がいいと言えるはずなのだけれど。


 これは1対1の交換なのだから理屈としては非常に理想的かもしれない。ロスなく、そのまま出力できるというのは。


「神々がお応えくださる力同様に、方法によっては、もっと効率よく使えるはずです」


 という話。ようは魔法が魔力変換によって効率が左右されるのなら、魔力を推進力に変換するのにも同じことが言えるはずだと、ラブラドは言っている。

 1の魔力で2や3もの結果が得られる可能性があると言っているのだ。


 というわけで改良プランとして推進力に「効率よく」変換する方法を考える。

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