260話:エネルギー資源革命・その1
魔力を抽出する技術。そんな超技術がどこから出てきたのだろうかと、そんな疑問を抱かなかったといえばウソになる。もちろん、魔力というものがあるのだから、それを抽出する術や貯蔵する術があってもおかしくはない。
長い間、それこそ建国からずっと研究し続けてきたとか、そんな背景があったとしても果たして本当に完成するのだろうか。
だが、現実問題、完成しているのだから出来たのでしょう。
そう思っていたのだが、事実は違った。
この技術というのは、どうやらメタル王国時代の遺産、災禍で失われたものをかき集めて、それを使えるようになるまで読み解き、つなぎ合わせて、実用段階に持っていくまでにあれだけの月日を要していたらしい。
そういう意味では、メタル王国という一大王国は進んだ技術を持っていたものの、それが潰えた。前世で言う水道やコンクリートがローマで存在したにもかかわらず、ロストテクノロジーになってしまったのを思い起こすような。
まあ、あっちはもっといろいろな理由でロストしてしまったのかもしれないけれど。
ともかく、このエネルギー自体はロストテクノロジーで成立しているもので……、ということは、メタル王国末期はもしかしたら、もっと科学技術が進歩していたのだろうか……。
わたしが知っているのはメタル王国の建国時点なので、そこから長らく反映して、大陸全土を支配していたメタル王国の中期や末期のことは知らない。でも、よく考えれば、大陸全土で起こるような災禍を考えると、そういう超技術があってもおかしくない気はする。魔法という可能性もあるけれど、そんな超大規模の魔法戦争が起きるレベルの魔法があったかは怪しい。ラミー夫人が複合魔法を生み出すまで、複合魔法というものもなかった。
あるいはメタル王国ではあったが失伝したという可能性もあるにはあるけれど、アルコルが早すぎると言うからには、当時あった可能性は低いと思う。
であるならば、高度文明崩壊説とか文明リセット論よろしく、そういった超技術があってもおかしくはない。
それはともかくとして、このロストテクノロジーを実用化するには、わたしたちもまた、アーリア侯爵たちが長い年月かけて解析、解読してきたこの技術を理解していかなくてはいけないわけだ。
そも魔法とは人々を導くためにある。
それは神から明言された事実。
では、魔法を使うための力の源、魔力とは何か。いかようにしてそれを抽出していて、いかようにしてそれを技術転用するのか。
わたしの知る限り、「魔力」とは世界の根源にある魔力の塊から放出されて、世界中に舞っているものであり、それと同時に、それによって生まれた生命が体内に生み出すことができる力という説明がビジュアルファンブックに載っていた程度でそれ以上の知識はない。
魔法というシステムそのものが作られたのが「人々を導く」ことに由来するのだとしたら、その魔法を使うための概念である魔力もまた、そのシステム上に「そういうもの」として作られたのではないだろうか。
……だとしたらなんだという話なのだけれど。
根本としてそういう仕組みであるのなら、それを応用した新エネルギーというものを使っていくのなら、それもまた「人々を導く」という仕組みに則らなくてはならないのではないだろうか。
まあ、じゃあ「人々を導く」新エネルギーの仕組みってなんだよって話なんだけれど。
そこで登場するのが「ルイン計画」に「キュイ計画」。
これらの呼称はアーリア侯爵たちが用いていた呼称なんだけれど、キュイ・ルイ・ルイン、妖精座に名を連ねる人物が由来っぽくて、「ルイの遺産」シャンスことツァボライト王国もその関係にあるんだけど。
抽出が「ルイン計画」。供給が「キュイ計画」。
これもメタル王国時代の文献をかろうじて読み解いた結果、その名前を用いたっぽいので、そこにヒントがあるのでは?
……って思っていた時期がわたしにもありました。まったくわからん。
いや、うん。一応、キュイ・ルイ・ルインとは無関係で、キュイとルインという単語が用いられている可能性も無きにしも非ずではあるのだけれど、その場合、「ルイン」と言えば破滅とかそういう意味があるし、「キュイ」に関してはフランス語……、フレンチレストランなんかでは「火入れ」なんて意味があったりもするけど、それとの関連性もあまり見いだせない。
かといって、今度はキュイ・ルイ・ルインの逸話、伝承の方にフィーチャーしていくと、そもそも消失した伝承とか逸話だったらどうしようもないし、そんな分かりにくい理由で名前を付けるかと。
わたしが資料を見ながらああでもない、こうでもないと悩んでいると、ラミー夫人がだれかをつれてきたのが分かった。まったくもって失礼ではあるのだけれど、資料からさほど視線を逸らすことなく、その対応を行う。
屋敷ならそうもいかない……、いや、ラミー夫人なんかは屋敷だろうとそうするでしょうけれど、まあ、わたしのばあいはそうもいないけれど、ここは錬金術を研究するために借りている場所なので、基本的にラミー夫人が通すのは、そういう対応がされても大丈夫な人員だけだ。
それ以外のまともな対応が必要な場合は、こっちに連れてこずに、わたしを呼び出して対応する。まず、部屋には極秘、国家の機密とも言えるような案件があるため、盗み見られる可能性を否定できないこと、次にわたしの髪がぼさぼさだったり、服がよれよれだったりする可能性があること、などなど、そういったいろんなこともあってそういう対応がとられるのだから、その上で、ラミー夫人がここに連れてきたのなら、大丈夫な人材でしょう。
「またロクに寝ずに資料とにらめっこ?」
ラミー夫人の呆れたような声に生返事を返しながら、要件を聞く。ここのところ、貴族としての仕事もこなしつつの、研究に没頭しているため、睡眠時間は数時間あればいいほうだった。
「今回は、少しばかり特殊な人員を連れてきたわよ」
「えっと、ラブラド・ライトです」
その名前に、わたしは資料から目を話して、その姿をきちんと視認する。ラブラド・ライト。その名前には覚えはない。だけど、「ライト」と名乗った。それには覚えがあった。
「たちとぶ2」にはペリステ・ライトというキャラクターが登場する。彼女自身はそこまで重要なキャラクターではなかったのだが、確かに、いま、この現状においては、彼女というほかに適任な人材はいない。
だとするなら、ペリステ・ライトと同じ「ライト」を名乗るラブラド・ライトなるこの人物が、同じだとするなら、ラミー夫人の言う「特殊な人員」であり、まさしく適任でもある……かもしれない。
「……ラブラド・ライト」
その名前を呟きながら、どこでもない彼女の耳を見た。そこには見覚えのある意匠イヤリング。月の形をしたそれが目立たない程度に存在していた。
「ムーンストーンの一族ですか」
わたしの発言に、まるで時間が止まったかのように動きを止めるラブラド。まばたきすらしない。何秒ほどそうしていたか、その時をうごかしたのはラミー夫人だった。
「ムーンストーンの一族?」
「はい。ライトの姓は本当の姓を隠すもので、本当の姓はムーンストーン。代々続く錬金術の家系です。貴族ではありませんが、ある種、貴族よりも高貴かもしれない、錬金術を提唱した最初の賢人たちの子孫と言われていますね」
この世界において、錬金術は四人だか五人の賢人が提唱し、作り上げられてきた。その根本にあるのは「他のものを金属に変換すること」。永遠の命だなんだという部分ではない。
ただ、ムーンストーンの一族の探求というのはすさまじく、錬金術という分野の探求に関しては他の追随を許さないほどと言われている。
ペリステ・ライトもまた、その一人であり、「たちとぶ2」の時間軸では錬金術、あるいは化学分野の発展がすさまじい、それが戦争による恩恵であるという話はしたと思うけど、そこに一役買ったのがペリステ・ライト。
でも、そんな人材なら、なんでいまのいままで日の目を見ていないのか、あるいは有名になっていないのかという疑問が出ると思うけど、それもそのはずで、ムーンストーンの一族は、この国では南のある領地の地下に拠点を持っている。ファルムにも拠点があるし、おそらく、この大陸中のあちこちに拠点がある。
それはペリステいわく、遥か昔の名残。いまならその意味も分かる。メタル王国時代に、あちこちにあった研究施設を拠点として転用しているのだろう。
そんな各地の拠点を行き来し、いたりいなかったりするうえ、場合によってはそこに籠ることもあるので、ほとんど表に出てくることがない。ちなみにわたしは一度だけ、その拠点に行ってみようかと思ったこともあった。戦争を回避することで発展しないかもしれない錬金術、化学のために。まあ、結果として、わたし自身が頑張るという方法を取ったため、訪れることはなかったのだけれど。
「へー。商家に錬金術の技術を売り込みに来ていた自称研究家の裏にはそんな顔がね」
「というか、そんな怪しい情報だけでここに連れてきたんですか?」
「勧誘したうえで、能力を確かめて、その間に一応、素性を確かめて……ってやって、これでもずいぶん勧誘から時間経っているのよ?」
そうだったのか。というか口ぶり的には、新エネルギー着手前からスカウトしていたっぽい。まあ、今回の件に限らず有能な人材は、確保するに越したことないからね。
「……驚きました。稀代の錬金術の天才と聞いたときから会ってみたかったのですが」
どうやらわたしのことはムーンストーンの一族の耳にも届いていたようで、光栄であると同時に恐れ多い。わたしなんて別の世界の知識でズルしているだけだし。ゲームのカメリアは、錬金術の知識はあったはずだけれど、流石にわたしと同じくらいではなく、あくまで一般的な程度だったはずなので、ムーンストーンの一族の耳に入ったのはこの世界線だからでしょう。




