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259話:新しい時代を担う子供・その2

 一通り、新エネルギー資源について語った陛下は、一拍の間を開けて、次の話題に移る。


「そして、こんな国民の皆に様々な苦労を掛けている中、私事ではあるが、先より妊娠していることを明かしていた第二夫人が、無事、子供を出産したことを報告する」


 先ほどまでの暗い話題、よく分からない話題から打って変わって、子供の誕生という分かりやすいめでたい話題に、国民たちは喜んだ。


「この国に、第二王子が生まれたことになる。名は――デマントイド。よろしく頼む」


 デマントイド。デマントイド・ディアマンデ。それがこの国に生まれた新しい王子の名前。

 翠柘榴石。そんな意味を持つデマントイドは、なんとアンドラダイトの亜種。名前の通り緑色。ウィリディス……緑であり、ツァボライト……グリーンガーネットである母親とダイヤモンドであるディアマンデ家の間に産まれた子供としてこれ以上にないくらいにピッタリな名前ではあると思う。


 国は、災害の爪痕、不安を残しながらも、新しい風に喜び、讃えた。





 第二王子。時代や立場においては、様々な問題を孕む立場であるが、ことこの時代に関しては、特に大きな問題になることはなかった。


 それはひとえに王子……、アンドラダイト・ディアマンデ第一王子の人望とその才を多くの民も多くの貴族も認めていたからであり、またこの激動の時代の手綱(たづな)を握るにはデマントイド殿下では、あまりにも若すぎるという事実もあった。


 激動の時代、あるいは動乱の時代。そう称すにふさわしいほどの大きな事件が世間をにぎわせ続けたのは事実。


 アンドラダイト王子の婚約者処刑、隣国ファルム王国との同盟、ミズカネ国との交流開始、スペクレシオン公爵の定位、長年秘匿されてきた第二夫人の公表、前代未聞の伯爵四人による危険実験の露呈、未曽有の大災害の発生とそれが古い侯爵家主導という事実、第二王子の生誕。


 なんか、ほとんどにわたしが関わっているような気がしないでもないけど、そんなことよりも、これがほぼ1年から2年足らずで起きた出来事である。そして、ここから起こるかもしれないエネルギー革命。


 まあ、まさしく「激動」でしょう。


 それに、デマントイド殿下に民衆が期待している部分は、そういった新しい世界の方ではなく、過去の問題かもしれない。まあ、それはおそらく勝手な期待でしかないのだろうけど。

 ツァボライト王家の生き残りとディアマンデ王家の血を引くなんて肩書なら、ツァボライト王国関係の問題にいろいろと巻き込まれそうである。


 まあ、それが分かっているから、陛下もウィリディスさんもなるべく、デマントイド殿下が成長するまでの間に、ファルム王国と協議して、そっち方面に力を入れることになるでしょう。もともと同盟の際にも出ていた話ではあるけれど。

 とにかく、これからのこの国は、おそらく新しい時代に向けてかじを切り出している。そして、これから生まれてくる子供たちが、いまを生きている子供たちが、その時代の担い手となれるように、苦労しないための下地を作っていく必要がある。





 その第一歩……かどうかは分からないけれど、アーリア侯爵家の後任……、つまり、いままでアーリア侯爵家がやっていたことを任せる相手というのが決まった。


 それがパースピレイト伯爵家。現当主であるクオーツ・パースピレイト伯爵がパースピレイト侯爵となり、仕事を引き継いだ。


 この人選にはいろいろとあるのだろうが、まず、直下ではないとはいえ、アーリア侯爵家の下に位置する役割を持っていた。そして、アーリア侯爵家のアレコレに一切かかわっていない。単純に優秀である。

 そうした諸々から選ばれた彼もまた、去年双子の子供が生まれたばかりで、そういう意味では、次の世代へとつなげる重要な人材なのかもしれない。


 もう一つ、理由があるとするなら、アーリア侯爵家と同じで、現当主のクオーツに弟がおり、兄の補佐を行っているというので、いままでヘリオドールに振り分けていた分も同じようにできるかもしれないという部分もある。そういえば、弟の方も去年子供が生まれていたか……。


 とにかく、この国は大きく動き始めていた。





 新しい時代を担う子供たち。そんなふうに呼ばれる面々は、デマントイド殿下だけではない。まあ、わたしたちもまた、「子供たち」と呼ばれる年代観ではあるのだけれど、それよりも下の世代。ガルデニャ・レバーたちである。


 ガルデニャ・レバー。二属性の魔法使い。


 デマントイド殿下が何属性かも知らないので、正確には分からないけれど、ラミー夫人、パンジーちゃん、無自覚なスクラ・マサクスという二属性の魔法使いたちに並ぶ、次世代の魔法使い。

 いままで表舞台に立つこともなく、公表もされていなかった彼女が、ついに舞踏会に参加すると聞いて、心躍ったのはおそらく、この世界ではわたしくらいのものだっただろう。それくらいに無名。言い方は悪いけど、パンジーちゃんのブレイン領よりは知名度があるよね、くらいの感覚でしかないため、彼女に注目している人はほとんどいないと言ってしまってもよかった。


 だからこそ、わたしは彼女と直接対面することが叶ったのだけれど。


 ガルデニャ、クチナシにレバー、肝臓。沈黙の臓器なんて言われる肝臓にクチナシ……口無しなどというダジャレみたいな名前ではあるが、しかして、その少女はまさに人形のようなというべき少女だった。ある意味では、フェリチータよりもずっと「人形のような」という形容詞が似合う。

 ただそれは無機質、無感情というわけではなく、西洋人形のようなという幼さと可愛らしさ、美しさを併せ持つような、そんな意味合いでの「人形のような」。


「初めまして、ガルデニャさん」


 わたしの呼びかけにビクリと肩を震わせる。まあ、知らない大人……、10歳くらいの子から見たら「大人」でいいでしょう、その知らない大人から急に話しかけられたら、そんな反応もするでしょう。


「えっと……、あの……」


 戸惑う彼女のもとに大慌てで父親と思しき人物が寄ってくる。まあ、不審者がいたら大慌てで寄ってくるのは当たり前だと思うが……。いや、実際のところは違う理由でしょうけど。


「こ、これはこれは、スペクレシオン公爵。娘がいかがしましたか?」


 わたしがスペクレシオン公爵でもロックハート公爵令嬢でも、彼はこうして慌ててすっ飛んできたでしょう。


「わたくしがガルデニャさんに話しかけることに不思議なことはないでしょう」


 わたしの言葉に、いまいち意図を掴めていないレバー伯爵。まあ、公表していないことを知っているなんて思わないでしょうし、そんな反応になるのも分かるけど。


「将来有望な二属性の魔法使いであるガルデニャさんに話しかけることは、不思議ではないでしょう?」


 だから、改めて言い直す。実際、スカウトにせよ、粉かけにせよ、公爵が有望そうな人材に声をかけるのはおかしなことではない。しかし、「二属性」という言葉に、レバー伯爵はギクリとした顔をしていた。


「な、なぜ……」


「なぜも何もないでしょう。それに、いずれ、魔法学園に通う頃には知られていることでしょう?」


 何をもって、「二属性」というのを伏せていたのかは、わたしには分からない。わたしよりも5歳下なので、数年前には既に判明していたはずだが、まあ、そのころにはわたしやパンジーちゃんの名前が上がっていたころなので、それに遠慮したのだろうか。


「はい、確かに、娘は……、ガルデニャは水と木の二属性の魔法使いです」


 水と木、複合魔法なら「自然」かな。この国では、珍しいかもしれないけれど、レバー伯爵領はロックハート領寄りの東側、産業も農作物系だったはずなので、地域性的にはあっているのかもしれない。いや、農業なら土と木でもおかしくないけど。


「ガルデニャ・レバーさん。いまは分からないかもしれませんが、あなたはきっと、これからのこの国を支える柱になるでしょう」


 こんなことを言われてピンとくる人の方が少ないでしょうけれど、それでも、きっと、彼女は次の時代を担う柱になるでしょう。

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