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258話:新しい時代を担う子供・その1

 旧き神の残滓は消え去り、新しい時代・未来が切り開かれた。


 それと同時……ではないけど、少し。ちょうど、その災害の後始末が始まり、城下が慌ただしくなり始めた頃のことだった。


 突然の災害に人々は驚き、慌て、国の発表を待ちながらも、災害復興で生まれる新たな仕事、受け入れ、ある者は商売に精を出し、ある者はこれを機に雇用を求める。


 そんな新しい時代の始まりを祝福するかのようなタイミングで、一人の子供が生まれる。


 陛下の第二夫人ウィリディス・ツァボライトの出産。もともと、妊娠発覚後、ずっと仕事を休むように言われていた彼女だったが、最近は身重でベッドの上にいた。そして、ついに出産という運びとなったのだ。


 この一大事に、陛下は仕事を平時通りに行おうとしたものの、わたしを始め、多くの事情を知るものが集まってしまい、結果として仕事は滞るものの、皆で出産を待つことになった。これがただの貴族の子供だったら、結構な問題になったかもしれないけど、王子、それも、長年待望されていた第二王子の出産ともなると、その緊張感というものの度合いが違う。


 そんな期待と不安の入り混じる中、「オンギャー」と響く声と共に、その誕生は城中に知れ渡った。






 第二王子誕生。それはめでたい出来事。


 ここ最近の大事件、というか大災害。あれの詳細は、未だに王家から何も発表がない。どうごまかすにせよ、ごまかさないにせよ、発表は非常に難しい。

 災害が起きたという事実と、その大きな爪痕は隠すことができない。瞬く間に広まったし、だからこそ、復興の様々な取り組みが行われているわけだ。


 わたしとラミー夫人は、このネガティブこの上ない事件を上書きするためには、いい

ニュースで相殺するしかないと考えていたし、そこでエネルギー資源という新しい技術の革新をぶつけられないかと模索していたわけだが、まあそう上手く行くわけなく、難航していたところに、第二王子誕生。

 エネルギー資源なんてピンとこないものよりも、明確にめでたいことの方が効果的だろう。





 という事情で、わたしたちは、現在、大災害のことをどう発表するかという問題に直面していた。


「正直な話をしますと、わたくしとしては『どこまで公表するのか』の線引きが重要だと考えています」


 そもそも「大きな災害が起きた」という事実は伏せようのない事実である。事実、あの災害の爪痕は多くの国民に目撃されており、復興の事業や商売が成り立ち始めている時点で、それを隠すことはできない。

 で、あるならば、隠蔽などもとよりする気はないかもしれないけれど、できるはずもないことであり、そのうえでどこまで話すかという線引きが必要になる。


「どこまでというのは段階的にどう考えている?」


 というのは王子の疑問。つまり、どこに線を引く前提でいるのか、そのラインをいくつか提示しろということでしょう。


 一つ目のラインは何も話さない。隠蔽ではなく、「なんか災害起きたねー。原因なんて知らんわー」で通す。


 二つ目のラインは災害のことは言及するものの、アーリア侯爵家には触れない。災害が起きた原因は突き止め、二度と起こらないことを約束するけど、どうして具体的な原因は話せません。まあ、真似する人が出てくる可能性があるとかで理由付けは可能。


 三つ目のラインは災害にもアーリア侯爵家にも言及するが、それぞれを結びつけない。災害のことは二つ目と同じで、それに加えてアーリア侯爵家の件について言及するが、2つの因果関係は話さない。ようはアーリア侯爵家は危険な実験の主導という理由で別件扱い。


 四つ目のラインは災害とアーリア侯爵家について全て言及する。


 五つ目のラインが旧神の残滓などのことも含めて全て話す。


 まあ、最後に関しては、信じてもらえるかどうかも怪しいところだけど、それ以上に神に言及するというのはいろんな意味で禍根を残しそうな話だ。神託というのは、ある意味ものすごく扱いが難しい。何せ、世界の意思、神の言葉をそのまま降ろせるのだから、それこそ在り様によっては、そんな神の言葉を持つ国がトップになってもおかしくないくらい、世界の勢力図バランスを左右しかねない。

 それこそ、エラキスの時代は、大陸全土がめちゃくちゃで、そんな時代だからこそ良かっただけで、周囲が立国して安定する前に、旧神の残滓の封印とそれ以後あまり表に出なくなったこともあって、安定したころには神託、聖女とかそういう扱いはそこまで大きくなかったと思われるし。

 いま、この時代では、色んな意味で危険な要素だと思う。


「罪についてはしっかり言及すべきではないか?」


 と王子は言う。罪を犯せば、しっかり罰を与え、それを知らしめる必要がある。その考えにも一理はある。ただ……


「わたくしたちも別に、アーリア侯爵家の罪を許すというわけではありません。ただ、そのことを公表した場合、そうなるかを考えるべきでしょう」


 一番簡単なのは、ラインの一つ目か二つ目で、アーリア侯爵家に関しては災害で大きな被害を被ったことで断絶、もしくは遠縁でどうにか維持という形に持っていくべき。とはいえ、あの家系図からも分かるように、実際は遠縁と呼べるような人もほとんどいないため、モーガナイトのことでつながったサングエ家から引っ張ってくるくらいの無理筋が必要になるけど。

 正直、アーリア侯爵家の悪事を明るみに出して、全てスパっと解決と行きたい気持ちも分からなくはないのだ。


 ただ、そのほうがデメリット多すぎる。


 まず、三つ目について。これだとマイナスの出来事を2つ発表することになる。災害とアーリア侯爵家の事件。本来はつながっていて1つのマイナスだったものを、2つのマイナスにするのは悪手。

 かといって、アーリア侯爵家のやったことを明かしたとして、旧き神の残滓なるものに言及できない以上、魔力抽出実験の暴走とかそういうことにこじつけられるわけで、そうなった結果、今後エネルギー資源革命としてその技術を使う上で、ネガティブな印象が付きまとう。「また暴走したらどうするんだ」とか「本当に安全なのか」とか。

 もちろん、正義感、倫理観的に、そこを伏せるのはどうなんだという気持ちも理解できる。そうした観点から、この一件の落としどころを突き詰めた結果。







 王都の国民たちは、国からの発表というお触れに、「ついにあの不可思議な災害について言及があるのか」といまかいまかとそのときを待っていた。不安がるもの、好奇心を抱くもの、戸惑うもの、怒るもの。様々などよめきが城下を満たしていた。


 しかして、陛下の登場とともに、そのどよめきは静かにひそやかなものになっていった。


「傾聴!

 ただいまより、国王陛下より国民の皆様に公表することがございます」


 それにより、一瞬ざわめきが生まれるも、すぐに静まった。


「この度は、ロックハート領の一部地域及び、その周辺に多大な被害が及ぶ災害が発生した。そのことについて、国の調査で分かっていることを公表させてもらう」


 これに対して、国民たちはかなり驚いたようで、少し疑問を抱いているようにも見えた。

 それもそうだろう。言ってしまえば、規模こそ大きいものの、ただの災害。その現状や調査内容を陛下自らが直々に話すということに対して、そう思ったものがいるのもおかしくはない。


「あの災害は、人為的に引き起こされたものである」


 だが、その疑問も、陛下の続けられた言葉で吹っ飛んだだろう。あんなものが人為的に引き起こされるというのか、そんなざわめきが王都中を包んだ。


「その犯人は、先の魔力抽出の危険実験を行っていた伯爵たちを裏で主導していたアーリア侯爵家である」


 侯爵家の起こした大事件という前代未聞の話に、どよめきは収まらない。


「既に、アーリア侯爵家は捕らえ、あの災害の引き金となった魔力抽出実験による機械の暴走は迅速な対処によって最低限の被害で収まったと言える」


 結局、国の発表では、アーリア侯爵家の起こした事件ということにして、災害への説明とアーリア侯爵家の現状を説明する運びとなった。


「よって、あのような災害は二度と引き起こされないことを約束しよう」


 ここで問題になるのが「エネルギー資源革命」。だが、それに関して陛下は、こう説明することにしたらしい。


「具体的な説明をすれば、第二、第三のアーリア侯爵家のような存在が現れるやもしれぬ。そのため、詳しくは話せないが、かの実験は、魔力を限界まで抽出したことに起因する。幸い、すぐにそれをどうにかすることができたが、現状、溜められた魔力を一気に解放すれば二の前になりかねないことが分かっている」


 不安を煽るような言葉に、国民たちはどうしたものかと顔を見合わせる。


「そのため、この魔力を極力安全に消費していかなければならない。そのために、錬金術棟を始め、様々な場所でその研究を既に始めている。この魔力を新しい資源として安全に消費する活用をしなくてはならないのだ」


 つまり陛下の話をまとめると、またあれが起きないように、このエネルギーを使わないといけないから、新しい資源として活用していくよって話である。


 正直、これでネガティブなイメージが拭えるかは微妙なところであると思うが、まあ陛下の方針だから仕方ないし、便利に活用できれば払しょくできるだろうと、未来にかけるしかない。

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