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248話:その少女・元カメリア・ロックハート・その4

 上空に留まる魔力を消費、あるいは霧散させる。言うは易しだけれど、問題は多い。


 わたしの魔法は他人の魔力に干渉する術がない。つまり、役立たず。


 例えば、サクラの力。魔力とは異なる仕組み、ロジックで動くものであるから、サクラの力もまた、今回に関しては役立たず。


 そうなると現状で対処するには、ユウイチかツトムの力が必要になる。

 しかし、ユウイチは正確に魔法というものを使えるわけではなく、サクラいわく、力があるというだけ。ツトムは自身の力を超常現象として解釈しているけれど、持っている。


 ツトムは「民のものは王のもの(ぜったいおうけん)」という他人の異能をコピーする能力を持つ。それを自分で解析して、改良することもできるらしく、使い方によっては世界を変えるというほどの異能ともサクラは言っていた。


 つまり、ツトムが圧縮する魔法をコピーして、その逆の事象を魔力爆破が発生しない程度に行い、徐々に圧縮を解いていくというのが一番。


「そんなに簡単に解析できるわけがないだろう」


 と一蹴されたけど。この現状を打破するためには、犯人を説得する、サクラの言う他の人の対処方法を待つ、最後にユウイチの力に可能性をかける。主にこの3つ。

 一番確実なのは説得だけど、逆に失敗すれば取り返しがつかない。他人の対処方法を待つというのも、間に合わなかったり、思いつかなかったりしたらダメ。そうなるとユウイチにかけるという方法だけれど、正直、これも微妙過ぎる。ユウイチの力が何かわかればいいのだけれど。


「分かると思うよ?」


 わたしの考えに対してサクラが簡単そうにそんなことを言った。何をそんな馬鹿なと思って、サクラを見ると、サクラはツトムを見ていた。


「そろそろ分析はできてるよね?」


 さっき、そんな簡単に解析できるわけがないと一蹴されたところだろうと思ったけれど、どうやらそうじゃないらしい。


「ああ、そちらの解析ならだいぶ前に終わった」


「実は、前から頼んでたの。王梅くんなら嬉桃くんの力を分析できるかなって」


 前からユウイチの力について調べてもらっていたらしい。いつの間にそんなことを……。でも、本人でも分かっていなものすらも分かるってツトムの力もかなり強力。サクラが世界を変えるというのもうなずけるかもしれない。


「能力名は仮称だが、『天を突く光の剣(ゆうもうかかん)』という光のような何かを剣の形に固める超常現象だな」


 いわく、使い方は、両手に力を凝縮させるというもので、ユウイチも何となくで、なぜかできてしまった。それを見たサクラいわく、光の魔力を剣に変えているということで、それがいまいちわからなかったのだけれど、少し変わっているらしい。


 普通は、魔力を光に変えて、それを剣の形にするという形になるらしい。それとどう違うのかと言うと、ユウイチは先天的に、魔力そのものが「光の魔力」であり、サクラいわく「魔力変換資質が光」とのことだけれど、まあ、とにかくそういうことらしい。

 そして、一番恐ろしいのは、先天性の性質である「魔力変換資質」というものすらも解析し、己のものとして使うことができるツトムだそうだ。


「このユウイチの力で、あれをどうにかすることはできそう?」


 知識という面でも、この場合の対処力という意味でも役に立たないわたしは、そう問いかけるしかなかった。


「魔力の塊みたいなものだから、魔力溜まり自体に干渉はできると思うけど、あれを無理やり壊したところで、結局魔力爆破が発生しちゃうんだよね」


 確かに、それなら本人をぶっ飛ばすのとそう変わりない。


「ふむ……、解析しきれたわけではないが、あの圧縮と目される超常現象は文字通り『圧縮』のようだ」


「どういう意味?」


 そら圧縮は圧縮でしょう。文字通りと言われても困る。


「凝縮でも委縮でも収縮でもなく圧縮であるということだ」


 なるほど。言いたいことは分かった。つまるところ、文字通り「圧縮」なのだ。いや、まあ、さっきからツトムがそう言っているのだけれど、簡単に言ってしまえば、凝り縮めるのでも、縮め収めるのでもなく、「圧して縮める」ということ。


「ちなみに、何方向くらいって分かる?」


「立方体。つまり六面だ」


「だったら、なんか、光の剣で一か所でも穴を開けられたらどうにかならないかな」


 現状、六方向から圧力をかけて、魔力を一か所にとどめているのなら、どれか一か所でもちょっとだけ緩めることができればどうにかなるような気がする。


「多分、干渉されたらすぐにばれちゃうと思うよ。それの対処をされるか、魔力爆破に移行するかは、犯人の性格によると思うけど」


 まあ、そりゃそうか。自分の使っている魔法に干渉されて、気が付かないわけがない。


「いや……、もしかするといけるかもしれない。『かもしれない』などという不確定極まりないことを言うのは非常に癪ではあるが」


 そんな前置きをしながらもツトムは言う。


「ようするに魔力爆破という超常現象は、解放の瞬間に爆発的に起きる事象であり、つまるところ、立方体の一面を破壊し、そこから魔力爆破を起こすことで他の面は圧縮され続けるのだから、爆破自体に指向性が生まれるのではないかという仮説だ」


「でも、圧縮の強度が爆破に耐えきれないものだったら、圧ごと吹き飛ばすでしょう?」


 箱を想像して欲しい。段ボール箱に爆弾を入れても全部吹っ飛ぶだけ。つまり、犯人……ミナヒトの使う魔法の強度に頼るという何とも言い難い作戦になるわけだけど。


「そこはどうにか補う」


「分析できてるの?」


「まだすべてを解明したわけではない。だから甚だ不本意だが、不完全でも、そのくらいの改良は可能だ」


 でも、干渉すればバレるんじゃなかったの?

 という疑問を発する前に、ツトムが補足してくれた。


「あの現象に干渉しないように、その周囲からより強力な圧力をかける。そうすれば、現在の圧も緩衝材になる可能性がある」


「つまり俺はぶった切れば良いってことだろ」


 ユウイチはやる気満々だけど、おそらく上空にあると思われるそれを切るのにどうするつもりなのか。


「光の剣は多少の伸び縮みはするが、あくまで多少。長さにして30センチメートルほど。どうあっても届かないが?」


 ツトムがそういうので、実際そうなのだろう。それで、ユウイチには何か策が……、なさそうな顔をしてる。


「考えてなかった……」


「そもそも、その圧縮というものがどこからどこの範囲で行われていて、どこに剣を当てれば干渉できるのかも分かっていないでしょ」


「何も考えてなかった……」


 何も考えていないユウイチに、呆れ気味のわたしたちだけど、でも、その問題点を解決する術を見つけないといけないのは間違いない。


「まず、範囲だが、おおよその位置はこちらで指示を出そう。問題はその位置まで行く方法だが」


「今日は風の日だから、打ち上げるくらいならできるかな」


 サクラがそういう。まあ、それならわたしでもできなくはない……いや、出力的に打ち上げるという用途ならサクラが適役でしょう。落ちてくるところをキャッチするとかならわたしのほうがいいかもしれないけど。

 それに、サクラの力は魔法とは異なる仕組み、理論であるということは、干渉できないけれど、干渉されることもないということ。ユウイチを上まで運ぶこと自体を邪魔されたなら、作戦はそこで失敗するわけだから、そう考えればサクラに任せるほかない。


「時間もあまりなく一発勝負なんて、行き当たりばったりにもほどがあるわよね」


「でも、それって私たちっぽくていいじゃない」


 行き当たりばったりが「っぽい」ってのもどうなのよ。


「行き当たりばったりってより、なんていうか『自由』って感じでさ」


 自由。そう、自由か。確かにそれならわたしたちっぽい。


「さて、じゃあ、やってみますか。わたしたちらしく自由に」


 そんなわけで、サクラがユウイチを打ち上げる。


「じゃあ行くよ!

 ――嵐龍の突撃(ドラゴニック・ガスト)ォ!」


――Gust of wind!


 突風が猛烈な勢いで渦を巻き、人を吹き飛ばす。ユウイチはなんとか態勢を維持しながら上空に飛んでいった。


「もう少し右だ。範囲はそれなりに大きいから、多少逸れたところで問題はない」


 ツトムが圧縮を展開しながら、サクラに指示を出す。そして、サクラがそれに合わせて風を動かし、ユウイチは必死に風に乗る。……わたし何もしてないな。


「うおおおお!

 『天を突く光の剣(ゆうもうかかん)』んんん!!」


 ユウイチが空中に向かって光の剣を突き刺した。瞬間、空気が淀んだ。いや、そう感じた。そして、熱が生まれる。

 ツトムの考えた通り、ユウイチの切った方向から炎が噴出する。ユウイチはサクラの風で既に炎の噴出方向からは逸れている。だが――


「くっ……、圧縮が……」


 ツトムの圧縮で抑え込めないようだ。つまり、段ボールの中で爆弾が爆発したかの如く、圧縮の壁をぶち壊して、この魔力爆破が勢いよくこのあたり一帯を吹き飛ばす。それをどうにかするには……。水魔法……、いや、高熱の水蒸気が広がって大変なことになるし。それなら……。


「爆発には炎で!」


 わたしは全力の火属性魔法で、爆炎を押し返す。指向性を持たせたことで逃げた分、圧縮で減衰分もあって、想像よりも爆発の威力は低い。このくらいなら全然押し返せる。


 そして、わたしがそんな処理をしている間に、サクラが犯人のミナヒトを確保し、この事件は終わる……はずだった。






「光……?」


 ユウイチの発したそれに対して、最初はユウイチの魔法のことかと思った。しかし、違う。わたしたちの背後に光があった。光。光としか表現しようがない。でも、それはユウイチの魔法の光でも、先日の魔力爆破による光でもない。


 何か、別の。もっと暖かい。それでいて神々しい。そんな何か。それこそ、ミザール様をほうふつとさせるような。


 思わず手を伸ばした瞬間、魔力が光に向かって流れていくような、そんな感覚があった。


「ちょっ、だ、大丈夫なの?」


 サクラがそんなことを言うけれど、なぜか、わたしは不思議と嫌な感覚はなく、むしろ、魔力をこのまま分け与えたほうがいいと、そんなふうに思えた。


「なんだろう。なんて言うか、この向こうに誰かがいる。そんな気がする」


「誰かとはまたあいまいな」


 そんなツトムのつぶやきを無視して、サクラの手を取って光に近づけさせる。


「うわっ、えっ、ちょっと、ここあちゃん、なんか魔力を吸われてるんだけど!?」


 サクラの力は魔力とは別の仕組みで動いているけれど、サクラ自身に魔力がないわけではない。


「まっ、心愛がそういうんなら大丈夫なんだろ」


 そう言ってユウイチも光に手をかざした。それを見て、ツトムはため息をついたけど、流れに乗って手をかざしてくれる。


「うん、誰かも、なんでかも分からないけど、必要な気がする。だから、頑張りなさい」


 光の向こうから誰かの強い返事のような気持ちが伝わってきた、そんな気がした。

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