表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
246/275

246話:その少女・元カメリア・ロックハート・その2

 この世界にも魔法が存在するという事実はわたしにとって衝撃的な転機となった。

 魔法、陰陽道、(たお)、妖術、呪術、儀式、神通力など、様々な呼称、あり方で存在するそれらは、サクラいわく現実に存在するものであるらしい。


 しかし、それらが世界の表側に出現すると秩序の乱れ、持つものと持たざるものの格差、犯罪への転用、思想的危険、軍事方面への影響など様々なことが起こる可能性を考慮し、世界全体で一般的にはないものとされ、その実、多くの国々の中枢では知っているけれど秘匿しているというような状態らしい。


 そして、それらは必ずしも同じ仕組み、同じ理で動いているとは限らないらしい。


 サクラが「魔法」というのに歯切れが悪かったのも、そこに起因するらしく、彼女のそれは「魔法」、つまり魔力などに則るものではなく、別の力を用いた、まさしく「異能」と呼ぶべきそれであるらしい。

 サクラのような例は少ないけれど、この土地にはそれなりに多くいるらしく、わたしが戦った男性もその一人であるようだ。


「つまり、魔法はほとんどの人が大なり小なり使える可能性を秘めていると?」


 そして、驚くべきことに、この世界では、貴族だけではなく、どんな人にも魔法が使える可能性があるらしい。いや、かつても教育の差と言われていたので、もしかすると、教育、権利の進みの差だろうか。……でも、この国という視点ならともかく、この世界という視点では似たような環境、状況の人々もいるでしょうし、やはり、仕組みが違うというのがしっくりくるかもしれない。


「あくまで可能性というか、魔力自体は誰でも持っているというだけで、それが使えるレベルかどうかは別だけどね」


「なるほど……、それは確かに格差が明確に生まれそうだわ」


 かつての世界ならば、まず持つもの、持たざるものという格差が王族と貴族、それ以外という立場として明確にあり、その中で、更に細分化された格差もありながらも、魔法だけではない別の指標というものも明確に存在するので成立していたけれど、全員が同じ条件であり、立場も身分も指標もバラバラ、そんな状態であれば、秩序の乱れ、混乱などを懸念するのも理解はできる。革命などの原因にもつながりかねないし。


 一番いいのは、全てを明かしたうえで世界の仕組み自体を一から作り直すということでしょうけど、現実的に考えて不可能。


「それにしても、ここあちゃんは、魔法の熟練度もかなり高かったけど、どうやってあそこまで?」


「わたしは生まれつき神々から賜った魔法が使えることを知っていたわ。でも、はっきりと使えるようになったのはアニメーションなどであれをしたいこれをしたいと思うようになってからかしら」


 そう、この世界に生まれついた時点で、太陽神ミザール様を始め、月の神ベネトナシュ様、火の神メラク様、水の神メグレズ様、土の神ドゥベー様、風の神アリオト様、木の神フェクダ様、七柱の神々を信仰し、魔法を使えるということを知っていた。そこから熟練度というか、色々な形への転用を考えたのは、こちらの世界での影響を受けてから。


「神々……、あー、うん」


 何となく遠い目をしているのは、信仰、宗教観念の違いでしょう。

 この世界、特にこの国における宗教観というのはいびつだ。信仰している神々が異なるのは理解できる。かつての世界でも古くはそういうこともあったようだし。ただ神を信じるという信仰自体は垣根を超えた共通項がある。


 しかしながら、この国では、そういった神々を信じているんだか信じていないんだかよく分からない。困ったときは「神頼み」をするし、言葉として、感覚としてお祈りというのは根付いているけれど、信仰しているのかという質問に対しては否定的な人間が多い。

 神々に対して懐疑的というか「存在しない」と信じるものが多い。ある種、神などいないというのを信じるという信仰でもあるように思うくらいに。それでいて、本当に危機的な状況になると「神頼み」や「神様仏様」など助けを求める。いや、それこそ、本当に危機的な状況では信じていないものにすら頼らざるを得ないということなのかもしれないけれど。

 ともかく、この国で「神」というものを口にすると胡乱気な存在として見られることが往々である。

 ただサクラの態度はそれともまた少し違うようにも見えたけれど。


「この世界でも信仰形の魔法、異能はあるんだけどね。それこそ『奇跡』と形容されるようなそれとか民族的信仰儀式とか。でも生まれながらに知ってるってのは珍しいタイプだね」


 それこそ、家族的には姫椿家がそういう信仰体系を持っているというのならまだしも、おそらく一般の家系であることをサクラが知っているからこその反応なのかもしれない。


「姫椿家と神様って言うと、確かに縁があるとは聞いたことがあるけど、神々って表現だと違うだろうし」


 なんてぼそぼそと言っている。縁がある。まあ、由緒正しい名家というのだし、家系図を正確に遡って見たわけでもないわたしが知らないだけで、神職とか神社所縁の人間の人が家系にいてもおかしくない。

 まあ、いたとしてもわたしの知る神々とは関係ない……かもしれないけれど。


「ここあちゃん、魔法はあまり人目に付くように使っちゃだめだからね」


 そんな念押しをするようにサクラは言う。わたしとしても、魔法が公表されると起こりうる危険というのは理解できたので、できる限りそうするつもりではある。ただし、


「なるべく気を付けるけど、それでもわたしの矜持によっては使うわ」


 魔法とは人のためにあるべきだから。この世界では違う仕組みであろうと、わたしの中の「魔法」は、あくまで貴族のものであり、それはつまり、民草を守り、導くためのもの。それゆえに、不当な弾圧、人々の平和を脅かすような、そんな事態に際して立ち上がらないわけにはいかない。


「あはは……、まあ、私たちも人のこと言えないから強制も咎めることもできないかな。一応、封鎖とかして隠す努力はしているけどね」


 この世界の秩序側というのは大変そうだ。なにせ、悪事を働くものからすれば、魔法が明るみになろうとなんだろうとどうでもいいのだから。一方で、体制側の人間であるサクラを始めとした秩序を維持する側は、魔法が明るみになることを防がないといけない。


 秘匿性の面から見ても明らかに不利というか、やることが多い。もっとも、それが世界的にマジョリティだから味方も多く、悪側よりも人数が多いから成り立っているのでしょうけれど。このバランスが崩れていたら、とっくに世界は混沌にまみれていたか、新しい秩序に成り代わっていたと思う。





 中学時代はそうして、サクラの仕事に首を突っ込んだり、ちょっと遠方で暴れたり、そんなことをして過ごす日々だった。


 そして、高校生になる。


 順当にエスカレーター式を進み、私立三鷹丘学園。


 わたしは生徒会に誘われたけれど、学校に拘束される時間が増えるのは嫌なので断った。サクラは、なんか家の方針かなんかで生徒会に参加するらしい。


 イメージとしては生徒会選挙みたいなのがあるのだと思っていたけれど、この学園は少々特殊な組織構造をしているらしく、生徒会があるときとないときが存在するという非常にいびつだ。

 正直、組織運営としては、あるときとないときがあるなどという不規則というか安定性のないものを設置するとか正気かと思うのだけれど、何やら事情があるようだ。サクラはそれを知っているらしいというか、家の方針というのもそれに準ずるものだというのだから、そういう類のなにかなんでしょう。


 そして、高校からの同級生に、サクラに並ぶ、友人たちが出来た。


 一人が同じクラスになった嬉桃(きとう)勇一(ゆういち)。ユウイチは繰り上がり組ではなく、受験組なので、高校から参入してきた。

 三鷹丘学園は進学校とされるだけあって、かなり入試のハードルが高いので、ユウイチも勉学方面でかなりいい成績を収めていることが分かる。


「姫椿は……」


「心愛でいいわ。苗字で呼ばれるのはあまり好きではないから」


 姫椿家という家柄で見られているみたいだから。まあ、家柄で見るということの重要性も貴族社会で育ってきたから十分に分かるけど。でも、いまのわたしは貴族ではないから。


「あー、俺も苗字はあまり好きじゃないから勇一でいいよ」


 そんな会話を初対面で交わしたわたしとユウイチ。ユウイチは勉強も運動もでき、女子からの人気も高く、サクラが生徒会にも勧誘していた。もっとも、生徒会には参加しなかったようだけど。



 そしてもう一人がX組の王梅(おおうめ)努夢(つとむ)。ツトムの所属するX組というのは、この学園の生徒会に並ぶ特殊な制度。学業免除制度を適用された免除生たちが所属するクラス。特別な実績を持つ生徒が、学業を免除され研究などに没頭しながらも籍は学園におけるというよく分からない制度。


「つまり、僕としてはロジックを解明したいところなんだが、協力してもらえないだろうか?」


「それならこっちの方がプランとしてよくないかしら。費用的にも効果の見えやすさとしても」


 ツトムはとにかく研究肌であったけど、特に魔法……彼の言うところの超常現象に対しての研究への力の入れ具合は凄く、彼の「超常現象発生源探査機」とやらにひっかかったわたしは、その研究の手伝いをさせられていた。


 させられていたというと、嫌々しているようにも聞こえるけれど、どちらかと言うと積極的に手伝っていた。魔法の解明という言い方をすると神々から与えられたそれを解明しているようでいい気はしないのだけれど、魔法で出来ることが分かったり、魔力の量や神々から応えてもらえる量、……研究に準じて言うのなら魔力量や魔力変換を数値的に見ることができたり、かつての世界では未発達だったことが目に見えるのは新しいというか発見的だった。





 こうしてわたしたち、……わたし、姫椿心愛と天龍寺咲楽、嬉桃勇一、王梅努夢の4人は、よく一緒に行動することになる。


 サクラがわたしたちの名前に入っている文字を取って「嬉努愛楽(きどあいらく)」などというグループ名を提案していた。ちなみにユウイチはそれぞれの名前から姫、龍、勇者、王様として「ロープレ組」、ツトムはそれぞれの名前のツバキ、サクラ、モモ、ウメの花の名前を基にしたらどうだと言っていたけど、どちらの提案もサクラが無視した。


 わたしは正直なんでもよかったので結果として「嬉努愛楽(きどあいらく)」で落ち着くことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ